いま、本屋の廃業が止まらず、全国約1700の自治体のうち4分の1が地域に本屋が1つもない「無書店自治体」だ。一方で新たなかたちの本屋が生まれ、人々が集う場となっている。「たき火のような本屋を作りたかった」という店主の想いを取材した。
ネット購入や電子書籍で減る本屋
「いま廃業している書店は、取次主導の本しか置いていない新刊書店ですね」
こう語るのはNPO法人ブックストア・ソリューション・ジャパン(以下BSJ)で代表理事を務める安藤哲也さんだ。安藤さんは今年、東京・台東区の谷中に「Books & Coffee 谷中 TAKIBI(以下TAKIBI)」を設立した。安藤さんはかつて独立系書店の店長を務め、現在は父親の子育てを支援するNPOファザーリング・ジャパンの代表理事でもある。
この記事の画像(5枚)街の本屋はこの10年で3割近く減少していると言われる。安藤さんはこう続ける。
「新刊はいまネットで購入するし、紙でなくてもいい人は電子書籍で読みます。子どもたちも電子コミックですね。さらに雑誌の不振もあって、BSJではもう新刊型の書店は経営が難しいという結論です。これからもし本屋をやるのだったら別のモデルを考えないといけませんね」
「たき火のような本屋を作りたかった」
安藤さんのTAKIBIは、棚を貸して棚主の本を売るシェア型書店だ。棚主が自分の売りたい本を持ってきて棚に並べ、売れれば棚主の収入となる。安藤さんは棚主から棚料をもらう仕組みだ。
「通常このくらいの規模の本屋だと本の仕入れに1000万円くらいかかります。しかしTAKIBIでは棚主の皆さんが自分の本を持ってくるので本を仕入れなくていいのです」
TAKIBIには、訪れた人がコーヒーやお酒を飲みながら語り合えるカフェスペースもある。そのネーミングの由来を聞くと、安藤さんは「たき火のような本屋を作りたかった」と語る。
「キャンプだと、たき火をするだけでいろんな人が集まってくるじゃないですか。知らない者同士が喋ったり、お酒を飲み語り合うような場所がいまこそ必要なんじゃないかなと、特にコロナ後に思ったんですね」
棚主の本の“推し活”と本好きの対話
本棚にはそれぞれの棚主の「推し本」が並んでいる。だから本を眺めていると、棚主と対話をしているようなワクワク感がある。
「棚主さんにとっては、自分のおススメを誰かに読んでもらいたいという本の“推し活”なんですね。本は古今東西いろいろなテーマがあるから誰もがどこか引っ掛かるし、たまに自分と同じ本を読んでいる棚主がいるとすごく親近感を覚えたりするんですね」
TAKIBIでは棚主さんとお客さんが読書会も行っている。
安藤さんは「本を並べるのはつながる感覚がある」という。
「どんな本好きでも毎日何百冊も出版されているのだから、絶対にすべてを読めないわけですよ。だからこういう多様な棚主さんがいると、思わぬ発見があるんじゃないかなと。本を買いに来ただけなのに、座ってコーヒーを飲みながら『なんか面白いよね』と皆さん言っていますね」
「本を読みなさい」より「環境づくり」
安藤さんはNPO法人ファザーリング・ジャパンの代表理事も務めている。そこで最後に、子育てと本の関係について聞いてみた。
「よく子育て中のお父さん、お母さんたちから『子どもを本好きにしたいんですけど、どうすればいいですか?』と聞かれます。そんな時は『子どもに本を読めといっても無理で、パパとママが自分の好きな本を読んでいればいいんです』と答えます。本を読みなさいと大人が言うんじゃなくて、子どもが読みたいときに読める場をつくってあげたいですね」
いま「1カ月の読書量は?」と聞くと半数以上が0冊と答えるという。さらに昨今、新刊の価格高騰があり、生活防衛のために本の購入を控えれば、ますます本離れが進む。しかし、“たき火のような本屋”が増えれば、次の世代へ本を通じた集いの場を残すことができるのだ。
【執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】