7月末、長野県警察学校で11人の初任科生が卒業を迎えた。伝統の盾を持って走る「最後の試練」も乗り越え、いよいよ現場に配属される若い警察官。苦楽を共にし、励まし合ってきた仲間たち、そして、支えてきた教官たち。涙の旅立ちを取材した。
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厳しい「教場」での日々
7月28日、長野県警察学校で初任科生第178期の11人が卒業を迎えた。
卒業と同時に現場へ配属される若い警察官たち。
こみあげる涙は、厳しい「教場」での日々を乗り越えた証しだ。

警察学校では全員が寮生活。
体操とランニングが朝の日課だ。
2022年10月に採用された初任科生11人。
「点検・礼式・教練」の授業では、警察手帳や手錠など装備品の扱いや基本動作を学ぶ。
志村圭一教官は、「警笛ひとつとっても自信がない奴は、音色が全然だめ、伝わってこない。声じゃなくて警笛を使って職務執行するんだから、警笛を吹くだけでも自信を持って堂々とやる」とげきを飛ばす。

犯罪と向き合い犯人と対じする警察官。自身や仲間を危険にさらさないよう、規律や協調性を重んじる姿勢を教え込まれる。
警察学校で学ぶのは鑑識作業や事故処理などの「警察実務」、逮捕術や武道などの「術科」、そして刑法、警察行政法などの「法学」3つの分野。

途中で6人がリタイア
厳しい訓練に規律重視の団体生活。
途中でリタイアしてしまう人もいて、178期も当初の17人から11人に減っている。
それだけに苦楽を共にし、励まし合う仲間は、かけがえのない存在だ。
赤羽美雪巡査は、「すごくつらかったが、同期が支えてくれて、そのおかげでここまで頑張ってこれた」と仲間に感謝している。
野澤将吾巡査は、「県民に安心感を与えられるような優しくて、たくましい警察官になりたい」と意気込んでいる。

励まし合い 伝統の「激走訓練」
7月24日―。
体育館前に集められた初任科生と、配属後に改めて学び直す初任補修科生およそ50人。
犬童啓太教官は、学生たちに気合いを入れる。
「いいな、全力でやるんだぞ。お前らの思い出づくりでも何でもねえからな、これは訓練だからな」
卒業を前にした伝統の「警備実施訓練」が始まる。重さ6キロほどの盾を持ちながら8.5キロ走る訓練だ。

炎天下の中、隊列を維持して走る。
途中、休憩を挟み、再び激走ー。
第178期・柄澤颯人巡査は、「腕パンパンできつい。まだ結構あるので頑張ります」と、苦しい表情を浮かべながらも走り続ける。

この日、長野の最高気温は34℃。
強い日差し、そして、重い盾が体力を奪っていく。
初任科生の「担任」の井上教官は、「今のところ元気についてきてくれていて、訓練の成果が出ている。警察は元気がないと仕事が進まないので、最後まで元気よく走り切ってもらいたい」と、温かい目で訓練を見守る。

最後の休憩を終え、教官から励ましの声―。
「全力で行くぞ、声出していけよ」
残り2キロー。
力をふりしぼり、ペースを上げていく。

成長に目を細める教官
休憩をはさみながらおよそ2時間ー。
警察学校に到着した。
訓練を終えて、犬童教官は学生たちの成長に目を細めた。
「君たち世代、ひどい言われようです、正直。元気がないZ世代、コミュニケーションが苦手、年配の人たちから時に悔しいことを言われてます。正直、ここに来て思ったのは、元気あるじゃねえかって思いました。学校で元気あるじゃねえかって。内なる元気をしっかり秘めて、ここを出ても頑張ってください」
第178期・大嶋未玲巡査は、「とてもきつかったが、一番前を走っていて後ろから同期の声が聞こえてきたので、それがすごい励みになって最後まで走ることができた」と、疲れ切った表情の中に達成感がにじみ出ていた。

教官のお願い「絶対に死ぬなよ」
7月28日―。
訓練から4日、卒業式を迎えた。
原安志学校長は、「日本一安全安心な信州を目指す、長野県警察の一員として、県民のためということを忘れず、その期待と信頼に応えるべく、努力してください」と学生たちに言葉を送った。

第178期・樋口綾巡査は答辞で、「厳格な規律や慣れない団体生活に戸惑うことも多く、警察官として身に着けるべき知識、技能の多さにくじけそうになることもありましたが、同期学生と一致協力してこの日を迎えることができました。県民の期待と信頼にこたえられる警察官になります」と述べた。

最後のホームルーム。
担任の井上教官から二つの「お願い」があった。
「卒業すれば県民を相手にしますので、県民目線で仕事を必ずしてください。みんなに話してなかったかもしれないけど、自分は126期です。理由は言えませんが、同期生が亡くなっています。葬式にも参加しました。非常に切なかったです。絶対死ぬなよ、現場で。11名全員が退職するまで、固い絆で生活してもらいたいと思っていますので、担任からのお願いとなります。この2点だけお願いします」

井上教官は、一人一人に卒業証書を手渡し、声をかけた。
「柄澤は温厚だよ、いつも素直で。最初は知識はなかったからいろいろとミスしたと思う。今は素直でしっかり教官の話を聞いて成長してくれました」
「野澤将吾はぶれなかったね、最初から。警察官が夢だって言ってたよね。俺はそれを聞いたときに、何とか野澤は育てようと思っていました。仲良かった学生が辞めてしまったと、つらいことはあったね、いろいろ相談に乗りましたね。そんな時でも野澤だけはやめなくて、本当に俺はうれしかった」

同期11人で支えあい 涙の巣立ち
卒業と同時に現場に配属。11人はそれぞれの警察署へと出発する。
いよいよ巣立ちの時―。
井上教官は、「卒業おめでとう。体力あるから、一番警察で大事なのは体力だからな。それ一番、相澤あるから。今までできてたので、伊那署でも素直な気持ちを持って頑張ってな」と言葉を送り、相澤友也巡査と抱き合った。

教官一人一人から教え子に送る言葉ー。
「上田で頑張ってこい」
「負けるなよ」
「体に気を付けて頑張ってください」
「頑張れよ、取り繕うんじゃねえぞ、ありのままだぞ。うそをつくなよ、しっかりやってこい」
井上教官は、「10カ月間長いようで、実際、警察人生を考えれば短いので、これから頑張れということを、最後のメッセージとさせていただきました。低姿勢でいて、謙虚な姿勢を持って、警察学校で学んでもらったことを、実践に生かしてもらいたいと思っています」と話し、すがすがしい表情で学生たちを見送った。

「行ってきます」
10カ月に及ぶ「教場」での日々。
自信や糧となって若い警察官を支える。

(長野放送)