お盆の帰省で久しぶりに故郷の味を楽しんだ人も多いかもしれない。そのお盆に長野県内では天ぷらを揚げてみんなで食べる風習がある。長野県内では当たり前だが、全国的には珍しい食習慣のようだ。なぜ、お盆に天ぷら?信州人は天ぷら好き?食文化を深掘りしてみた。
8月13日は天ぷらが最も売れる日
13日は迎え盆。食卓に天ぷらが上がった家庭も多かったのではないだろうか。
NBSのスタッフの自宅や実家もこの通り。野菜やキノコの天ぷらが並んだ。
でも、これ、全国的には珍しい光景なのだそうだ。
次々と天ぷらが揚がり、売り場に大量に並べられていく。
この記事の画像(11枚)長野市の「綿半スーパーセンター長池店」。
迎え盆の13日、総菜売り場では多くの客が天ぷらを買い求めていた。
「お盆っていえば必す天ぷら。食べる前に亡くなったお父さんにあげます」 、「昔からうちの風習だったので」と買い物客は話す。
毎年8月13日は1年で最も天ぷらが売れる日。こちらの店では普段の8.5倍を用意した。13日は県内全店で天ぷらの売り上げが伸び、お隣・山梨県にある店と比較すると1店舗あたりの売り上げは、なんと8.7倍にもなるという。
なぜ、お盆に天ぷら?
なぜ、信州では「お盆には天ぷら」なのだろうか。
買い物客に聞いてみると、「子どものころから、天ぷらとおやきだったなあ」と、理由はわからないようだ。
信州の食文化に詳しい長野県立大学の中澤弥子教授。文献では大正のころ、すでにお盆に天ぷらを食べる習慣があったと言う。
「油を使うのはごちそう。もともと、ごちそうとして食べられているし、『精進』って言ったときに、野菜類の天ぷらであれば、仏様にお供えするものとして非常に適切だと思う。何しろ、ナスやら、ピーマンやら、天ぷらにするとおいしいもの、たくさんありますよね。お盆の時、仏様にもお供えし、家族も一緒に、楽しく食べてきたというところでしょうか」と説明してくれた。
精進料理の流れをくむとみられるお盆の天ぷら。中澤教授によると、埼玉や栃木の一部地域でも同様の風習があるという。
長野県で広く定着しているのはー。
・そもそも夏野菜が豊富で、野菜の摂取量も多い(男女とも全国1位※2016年の調査)
・標高が高く夏も涼しいことから揚げ物の調理も苦にならない
といった背景も考えられるという。
そもそも、県民は「天ぷら好き」?
そして、もう一つの理由は―。
中澤教授は、 「長野県内は秋のキノコ類、春の山菜、比較的、天ぷらを召し上がる習慣が多い。家計調査でも、小麦粉や食用油が、長野市の記録結果になるが、消費量が多いっていうのはよく言われるところ。平たく言うと、天ぷら、お好きな方が多いと思います」 と話す。
家計調査によると、長野市は小麦粉の消費額が全国1位、食用油は全国10位。※2020~22年の平均
このことからも、天ぷらをする機会が多い、ひいては「信州人は天ぷら好き」という推察も成り立つ。
事実、野菜だけでなく、佐久地方ではまんじゅうを揚げた「天ぷらまんじゅう」。
小谷村ではビスケットを揚げた「ビスケットの天ぷら」といった変わり種も。
いずれもお盆の時期にお供えにしたり、みんなで食べたりしてきた。
天ぷら食べ放題の宿泊施設も
天ぷらは信州の食文化を語る上で欠かせない料理。
これを旅行客・帰省客への「おもてなし」として提供している宿泊施設もある。
大皿に次々と並べられていく天ぷら。
長野市松代町の「松代荘」は、お盆の期間限定で、夕食プランに天ぷらの「食べ放題」のサービスを実施している。丸ナスにズッキーニ。野菜はすべて長野県産だ。
東京から妻の実家に帰省した家族は、 「東京でお盆にこれを食べないとという文化は聞いたことない。どういう発祥かわからないが、天ぷらを家族でつっつくというのはいいですね」と 、一方、長野に住む祖母は、 「全国でもお盆に食べていると思ってた」と。
松代荘の中山靖支配人は、 「地域に根差した食材を、ぜひこの時期でしか味わえないものを天ぷらで」と、信州ならではのごちそうを提供し、客をもてなしたいとしている。
先祖、帰省した家族、遠方から来た人にごちそうをー。
天ぷらは、信州の食材をおいしく食べる手段であり、この時期は感謝やもてなしの心を表わす料理となっている。
夏バテで食欲がない人も多いのではないだろうか。音を立てて揚がる野菜やキノコの天ぷらを親しい人と囲んで食べれば、体力回復につながるかもしれない。
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(長野放送)