残暑が続く中、珍しい肝試しスポットが注目を集めている。
それが8月に鳥取市の吉岡温泉にオープンしたお化け屋敷「デストピア吉岡フクジュエン」。実は“本物の廃墟旅館”を利用したお化け屋敷なのだ。
舞台は、閉業後に利用されることのないまま眠っていた「フクジュエン(福寿苑)」という旅館。鉄筋コンクリート造りの3階建てで、年季の入った外壁と赤いライトが不気味さを感じさせる。
入口に掲げられた「フクジュエン」の明朝体風のフォントもホラー感を醸し出しているのではないだろうか。
旅館の警備員に扮して謎解き
ストーリーは来館者が旅館の警備員となり、館内を巡回して謎を解き明かしていくというもの。1〜3階の各階それぞれにチェックポイントがあり、ゴールまでの所要時間の目安は約20分だという。
夏の営業は9月30日までの金・土・日、祝日の16~22時(最終受付は21時30分)。料金は1人2000円(対象は小学生以上)で、インターネット予約の場合は特典として、「吉岡温泉会館 一ノ湯」の入浴券が付く。
廃墟の雰囲気をそのまま生かした演出
このような新感覚のお化け屋敷だがもっと詳しく知りたい。また、なぜ廃墟旅館を活用しようと思ったのか。運営する「TUGIHAGI(つぎはぎ)」の松浦聡子さんに聞いてみた。
――どんなお化け屋敷なの?どんなふうに楽しんでほしい?
作り込んだものではなく、廃墟の雰囲気をそのまま生かしたお化け屋敷です。館内を巡って雰囲気を楽しんでいただきつつ、緊張感のある中で頭をフル回転させながら謎解きを進めていただく仕掛けになっています。
空調もないので、叫んで冷や汗と脂汗をたくさんかいていただいて、ゴールした後は、インターネット予約特典の温泉入浴チケットを使って温泉で汗を洗い流して、“ととのって”帰っていただきたいですね。なお、ミッションをクリアされたお客様には、吉岡温泉近郊で使用できる割引チケットなどがついてきます。
――「フクジュエン」はどんな旅館だった?
昭和前半から営業しており、一時期は100人規模の団体旅行客も受け入れていた大規模な旅館だったようです。はっきりわからないのですが、少なくとも10年くらい前からは旅館として使っていなかったようです。
旧館と新館があり、今回、お化け屋敷としてオープンしたのは新館です。1階はロビーや調理場があり、2階に4部屋、3階に6部屋という造りになっています。
――内装はそのままなの?
荒れてしまった施設を片付けて汚れを取り、防護柵の設置や窓を閉鎖するなどして、衛生面と安全面の対策をした後、演出を少し加えただけです。
血のりを使ったりオブジェを置いたりはしていますが、装飾や家具などは当時からあったものをそのまま活用し、昭和の雰囲気を生かしています。皆さんには「演出ですか?」と言われるのですが、入口の「フクジュエン」の文字も当時のままです(笑)。
「冷や汗がすごい」リタイアする人も
――どれくらいのお客が来た?反応は?
9日間で約550人がいらっしゃいました。県内の方が多いですが、関西エリアや、中には東京や埼玉から来られたという人も。年齢層は大体10~30代くらいで、若い方々が多いですね。お子さんと一緒にいらっしゃる方もいます。
反応は、大変好評をいただいています。アンケートには「ぜひおすすめしたいです」「もう1回行きたい」などの回答がたくさんありました。中には「室内が熱気で汗も冷や汗もすごかったですが、とても面白かったです」という意見もありました。
――チャレンジした人は全員クリアできた?
いえ。リタイアされた方もそれなりにいらっしゃいますよ。お金を払って入口まで来てリタイアされたお子様もいましたし、ロビーでリタイアされた方もいます。
跡取りがいない廃墟旅館の活用として企画
――なぜ、廃墟旅館をお化け屋敷にしようと思った?
吉岡温泉は、地元の住人が古くから守ってきた1000年の歴史を持つ古湯です。しかしながら近年は過疎化が進み、住民の減少や空き家、廃墟旅館などが増え続けている実情があります。自治会が守ってきた温泉施設の老朽化も進み、地元の人々で温泉を維持管理する事が厳しくなってきています。
跡取りがいない廃墟旅館をどう活用するか、いかに子どもたちに引き継いでいくかが課題となりつも、たくさんお金をかけることはできない…。では、いかにそのまま活用するかということを考えた時に、Uターンでcraybeatsという会社を運営する社長が「お化け屋敷にするのはどうか」と、アイデアを出しました。温泉街とお化け屋敷の組み合わせはあまり聞いたことがなく、面白いのではないかということでこの企画がスタート。
そして、一般社団法人麒麟のまち観光局が財源確保と運営指導に当たり、意欲ある地域の有志が作った合同会社TUGIHAGIが運営を手掛けるという形で企画が実現しました。
――地元の反応は?
地元の方々からは、「吉岡温泉が注目されることはとても嬉しい。頑張って!」とお声掛けをいただく事もあります。ただ一方で、「静かに暮らしたいから、若者が騒ぐのはとても迷惑」という住人もいるのも事実。小さな観光地が、「観光」の観点と「住居」の観点で、バランスよく調和していける方法を考えていけたらと思います。
鳥取県内の方々からは、「お化け屋敷に行ったことがなかった」という10~20代の方々の反応が多く、「大声を出して汗をかいてストレスを発散したことは今までなかった!」と好評です。
――9月30日以降の営業の予定は?
ハロウィーンのイベントを10月27・28・29日に予定しています。その後も「謎解き+ホラー」を進化させて、またオープンしたいと考えています。
地域おこしの可能性を感じる、廃墟旅館を活用したお化け屋敷。夏以降の進化にも期待したい。