初土俵からわずか2場所で十両昇進を決めた石川県津幡町出身の大の里。九月場所を前に、相撲漬けの毎日を送る大の里に会うため、茨城県の二所ノ関部屋を訪ねた。単独インタビューで見えてきたのは体格に恵まれた大の里が胸に秘める、強い覚悟だ。(聞き手:秋末械人アナウンサー)

一人前の社会人になった

ーー大の里関ともう呼んでいいんですかね。

あと一週間弱ですけど、番付発表後に完全に関取になるので、まだ大の里さんでお願いします。

ーーでは大の里さん。改めて十両昇進を決めて、今どんなお気持ちですか。

とりあえずホッとしているというのもありますし、やっとお給料がもらえるようになって、一人前の社会人になったなと。ここから強い相手が山ほどいるわけなんで、気が引き締まる思いが強いですね。

ーー2場所終えて、プロとアマで違いを感じる部分はありますか。

ありますね。僕は去年までは大学でアマチュアの相撲でやってて、立ち合いが本当に強みだったんですけど、プロに入って立ち合いが強みから弱点になったりして。本当に難しい世界だなと感じますね。

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紙一重で勝ち越した七月場所

ーー七月場所は調子も上がらなかったと聞きました。

とにかく暑くて、両国国技館とは違って慣れない名古屋場所。初めて行く土地ですし、場所の空気感も最初は掴むのが難しかった。振り返ってみると、まさか自分の中でああいう成績になるとは思わなかった。自信もありましたし、いけるだろうと自分の中でも思っていたので、七月場所で絶対決めてやるという気持ちが強かった。結果は4勝3敗で紙一重だったんですけど、昇進することができてよかったですね。

ーー気負いすぎた部分もあったのでしょうか。

ありましたね。周りの声や周囲のことを考えすぎたというのもありましたし、でも勝ち越したことが自分の中で本当に大きかったです。負け越していたら成功体験にもならないですし、ただただ負けて場所が終ったっていう情けない場所になったんですけど。こうやって勝ち越すことができて、自分の中でも成長できたかなと思いますね。

ーー相撲人生の中で逆境もあったと思いますけど、そういう経験も生きているのでしょうか。

自分はだんだん調子を上げていくタイプ。アマチュアと違って一日一番という世界で、その日の一番に集中していくという難しさがある。この2場所で14番取ってみて、すごく難しかったし、次は毎日一番で15番取るわけなので、もっと難しいと思います。これはもう親方しか分からないと思うので、師匠やいろんな人の話を聞いて頑張りたいなと思いますね。

ーー十両に上がったら、さらに強い相手と相撲を取ることになりますね。

まだ上に番付があるわけなんで、1日でも早く幕内に行けるようにしたいです。大学4年生の最後に両国の一月場所を友人と見に行って、十両と幕内ってすごく華があるなと。「僕も早くここで取りたい」という思いで見ていました。1日も早くけがなく幕内に、だんだんと番付を駆け上がれるように頑張りたいですね。

髷が結えない関取

ーー今は相撲教習所にも通っているんですか。

あすから平日5日間行って番付発表なので、2期が終わりますね。

ーーどんな生活をしているんですか。

朝起きて洗面して、プロテインとか朝ごはんを食べる。頭をしっかり整えてから、自転車で駅まで行って5時31分の始発に乗るので、早寝早起きですね。

ーー何時に起きるんですか。

4時45分とか50分ぐらいに起きますね。

ーー今はまだ髪が短いですが、早く髷(まげ)を結いたいという思いもありますか。

かっこいいなと思います。お相撲さんの象徴だと思うので。アマチュアの時まではざんばらの力士に憧れていて、大学卒業前に坊主にしたというのもあります。部屋に入ったら入ったで、ちょんまげがかっこいいなと、早く伸びてくれって思っています。

ーーざんばらの力士で十両に上がったということは、一つの勲章でもあるんですよね。

そうですね。気にしてはいないですけど、はい。

ーー髷を結えるようになるまで、どれくらいかかりますかね。

1年くらいですかね。

ーー大銀杏となったら、もうちょっとかかるんですか。

1年半、2年くらいじゃないですかね。長いですね。

ーーもうしばらくは、ざんばら髪の大の里さんが見られると。今はざんばらでも、ピシッとまとめていますね。

そこはちゃんとやっています。

とにかく基本を徹底

ーーご自身の強みなどを踏まえて、特に重点的に取り組んでいることはありますか。

腰の使い方や四股といった基本動作ですね。朝の四股、壁を向いての腰割りっていうことを親方からは口酸っぱく言われていますね。

ーーもうちょっと高度と言いますか、細かい部分に取り組んでいると思っていました。

基本動作、基礎をしっかり重点的にやっていくということをすごく言われていますね。

ーー今日の稽古では親方と話しているシーンもありましたが、どんなことを話していたんですか。

立ち合いで当たる角度や、足の運び方。横綱しか分からないような、本当にハイレベルなことを教えていただいていますね。

二所ノ関親方
二所ノ関親方

相撲に打ち込める環境を求めて

ーー今の二所ノ関部屋の環境はどう感じていますか。

都心から遠くて、えってなる部分もあると思いますけど、僕は茨城県という所に来てよかったと思いますし、より一層相撲に集中できます。娯楽がない分、本当に相撲に打ち込める環境なので、よかったと思いますね。

ーー故郷を離れて単身新潟の中学校に入学したのも相撲に集中するためでしたね。ストイックな姿勢は今も昔も変わっていないですね。

お仕事なので、これは。社会人になって、お金稼いでナンボなんで。やっぱりぬるま湯の甘い環境におったら底は知れてしまう。僕は本当に志を高く持って、部屋に入ったつもりです。上を目指すには何かを犠牲にしないといけないと思うんで。大学生と違って、ある一定のお金は頂けると思うんで、お金を頂いて違う方向に走ってしまう人も多いと思うんですけど、僕は集中して打ち込める環境を選びました。

二所ノ関部屋(茨城県)
二所ノ関部屋(茨城県)

ふるさと石川への思い

ーー地元の石川県から離れて人生の半分を過ごしたんですね。

中学、高校、大学と12年間県外にいたので、そうですね。

ーー十両昇進の会見では、豪雨に見舞われたふるさと津幡町の事も口にされていました。地元への思いを教えてください。

祖父が生まれた家が津幡の中山という所なんですけど、家の目の前にある河川が氾濫して、家の中まで水が上がってきた。お盆休みに帰って、あいさつに行ったときには雨の跡が残っていた。僕が来てすごく喜んでくれたんで、ちょっとでも明るいニュースが届けられたかなと思いますね。

ーー石川県のことを口にしてくれたのは県民みんなが嬉しかったと思います。

中学から新潟に行って、大学で東京に行ったりしているので、よそもんかと思われるかもしれないけど、僕は石川県で生まれて石川県で育ったと思っているので。石川県が大好きですし、感謝していますね。

ーーそんな大の里さんにお土産があります。「とり野菜みそ」1箱です。

大好きですね。とり野菜みそ。

ーー大の里さんが好きだとお父さんに聞いて持ってきました。

中学や高校時代に帰省した際は、これを食べていましたね。石川県に帰ってきたと実感する家の味ですね。

ーーあと我田引水なのですが、石川テレビのキャラクター「石川さん」のグッズをいろいろとお持ちしました。部屋にいるときも石川県の事を思っていただけたらなと。

確かにたまに石川弁が恋しくなるんですよ。TikTokとかYouTubeで調べたり、たまに向こうにいる友達に電話もしています。自分の言葉が標準語になってきて、石川弁が喋れんくなってきとるんで、恋しくなった時は親や友達に電話してます。

「信は力なり」

ーー最後に夢や目標について、一筆いただいてもいいですか。

「信は力なり」です。『スクールウォーズ』というドラマで高校の監督が言っていた言葉で、ずっと大事にしている言葉です。自分を信じる。ずっと相撲をやってきて、高校生や大学生のときもずっとこの言葉を大事にしていて、土俵に上がったら一人なので。自分のことを自分が一番信じないと、誰が自分のことを信じるんや、ということで。自分のことを自分が一番期待しないと、誰が期待してくれるんやと。だからこの言葉をずっと大切にして取り組んでいましたね。

九月場所はけがなく、15日間初めて取るわけなんで。やっぱり抜けちゃう時もあると思うんで、15日間集中して気合入れて。1日でも早く幕内に行けるように、頑張りたいなと思いますね。

(石川テレビ)

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