WHO(世界保健機関)で天然痘の根絶に尽力し、2023年3月に亡くなった医師・蟻田功さんを追悼するシンポジウムが熊本市で開かれた。多くの後輩たちに受け継がれた感染症と対峙(たいじ)する姿勢を蟻田さんの功績と共にたどる。

WHOで天然痘根絶に尽力

天然痘の根絶に尽力した医師・蟻田功さんは、生前に自らの歩みについて「人類史上に残る画期的な仕事だったと思う。同時に人類はそういうことができると証明した」と話した。

熊本市で生まれ、WHOで天然痘根絶に尽力した医師・蟻田功さん
熊本市で生まれ、WHOで天然痘根絶に尽力した医師・蟻田功さん
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1926年に熊本市で生まれた蟻田功さんは、旧熊本医科大(現在の熊本大学医学部)を卒業後、当時の厚生省に入省した。

その後、WHOで勤務し、高熱が出て体中に発疹ができる天然痘の根絶対策本部長として奔走。致死率30%と、世界中で恐れられていた天然痘の根絶に尽力した。

日本国際賞や県民栄誉賞を受賞

1980年に天然痘根絶宣言が出された。過去のテレビ熊本の取材で「天然痘根絶にどういった苦労があったのか」と質問した際、蟻田さんは次のように答えている。

テレビ熊本の取材に答える蟻田さん(1985年)
テレビ熊本の取材に答える蟻田さん(1985年)

蟻田功医師:
これは、天然痘という病気が過去3000年、ずっと続いていたわけで、始まった時には2,000万人の患者がいて、南アメリカ、アフリカ、アジア地域にあったが、こういう国々の意見を全部統一して根絶という大きな目的に向かわせるということが大変な苦労だった

1988年に日本国際賞・県民栄誉賞を受賞
1988年に日本国際賞・県民栄誉賞を受賞

蟻田さんは1985年に熊本に戻り、現在の国立病院機構熊本医療センターの院長に就任し、1988年には日本国際賞や県民栄誉賞を受賞した。

蟻田功医師:
今までのプログラムの接種方法をやめて、患者を探し出して、患者の周りだけに予防接種をやろうと。これを切り替えますと、実に18カ月でインドのあの広大な地域から天然痘がなくなったわけですから、その後のことを思うと、とても感銘深いです

その後も予防医学や公衆衛生のため、発展途上国の担当者を招き研修会を熊本で開くなど、国際貢献にも熱心に取り組んだ。

故・蟻田医師をしのぶシンポジウム

蟻田さんは2023年3月、故郷・熊本市で96歳で亡くなった。

7月27日には、交流のあった有志たちが追悼のシンポジウムを開催し、元同僚や教え子だった医師や研究者など約30人が出席した。

元国際保健医療交流センター理事長・小野友道医師
元国際保健医療交流センター理事長・小野友道医師

代表世話人を務めた元国際保健医療交流センター理事長・小野友道医師:
過去を振り返るだけでは怒られるので、前向きなシンポジウムにしようと企画した

熊本市で開かれた追悼シンポジウム
熊本市で開かれた追悼シンポジウム

シンポジウムのテーマは「天然痘根絶の軌跡から学ぶ」。登壇した国立感染症研究所・吉倉廣名誉所員は「当時、ワクチン接種率を上げることばかりが重要視されていたが、蟻田医師は現場に赴き封じ込めをするなど、現場にあった取り組みをしていた」と話した。

国立感染症研究所・吉倉廣名誉所員
国立感染症研究所・吉倉廣名誉所員

国立感染症研究所・吉倉廣名誉所員:
今まで通りやっていてはダメ。天然痘の伝播(でんぱ)を考えれば合理的

「平時から備える」蟻田医師の教え

続いてKMバイオロジクスの新村靖彦臨床開発部長が、2022年5月から世界的に流行している「サル痘」について講演した。

KMバイオロジクス・新村靖彦臨床開発部長
KMバイオロジクス・新村靖彦臨床開発部長

KMバイオロジクスが製造する天然痘のワクチン「痘そうワクチン」は実質的に世界で2つしかないサル痘の対策に使えるワクチンの一つと紹介し、流行が始まって数カ月でサル痘へのワクチンとして国から追加承認された背景には「“平時から備える”との蟻田医師の教えがあった」と強調した。

国立感染症研究所獣医科学部・前田健部長
国立感染症研究所獣医科学部・前田健部長

国立感染症研究所獣医科学部の前田健部長は「今後も新たな感染症が予想され、安全性の高いワクチンが必要となる」と話した。

また、蟻田さんも理事長を務めた国際保健医療交流センターの研修プロジェクト1期生、川崎医科大学小児科の中野貴司教授は「蟻田医師から学んだことをポリオ根絶のために生かした」と報告した。

川崎医科大学小児科・中野貴司教授
川崎医科大学小児科・中野貴司教授

川崎医科大学小児科・中野貴司教授:
確かにサーベイランス(調査監視)も有効だが、狭い地域でそれを普及させることはそんなに難しいことではないが、それをどうやって地域全体、国全体、あるいは世界全体に広げるかが難しい。そういった点では、天然痘を根絶した蟻田先生とそのチームは本当にすごい

感染症への姿勢引き継がれる

その後、開かれたしのぶ会では、黙とうをささげ冥福を祈った。

WHO西大西洋地域・ワクチンプロジェクト班 高島義裕医師
WHO西大西洋地域・ワクチンプロジェクト班 高島義裕医師

WHO西大西洋地域・ワクチンプロジェクト班 高島義裕医師:
状況が変われば、これまでの考え方に引きずられることなく対応されていくことをこの35年間、学ばせていただきました

熊本県医師会・福田稠会長:
熊本から天然痘の根絶に貢献された、成し遂げられた先生が出られたのは大変名誉なことですね。若い医師たちも、その後を継いでこういう働きをしてもらいたいなと思います

熊杏会・二塚信顧問:
筋金入りの現場主義の先生で、本当に尊敬できる方でした

蟻田さんの教えは後輩たちに引き継がれる
蟻田さんの教えは後輩たちに引き継がれる

数千年にわたり人類を脅かした天然痘を根絶に導いた蟻田医師。今後、発生する新たな感染症へいかに対峙すればいいのか、その姿勢、教えは多くの後輩たちに引き継がれている。

(テレビ熊本)

テレビ熊本
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