物価高が続いている。8月18日に発表された7月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比で3.1%上昇し、11カ月連続で3%以上の伸び率となった。

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品目別では、鶏卵の上昇幅が36.2%、ハンバーガーも14.0%と13カ月連続で10%超えとなったほか、炭酸飲料が16.4%、アイスクリームが11.5%、そうめんが10.8%の上昇となるなど、猛暑のなか夏に欠かせない食品の伸びが目立つ。食品以外では、トイレットペーパーが14.8%、携帯電話の通信料が10.2%アップした。

ガソリン価格は13週連続で上昇

こうしたなか、ガソリン価格も値上がりが止まらない。

全国平均のレギュラーガソリンの小売価格は13週連続で上昇していて、8月14日時点の価格は、1リットルあたり181円90銭となった。統計を取り始めてからの最高値は2008年8月につけた185円10銭で、15年前の水準に近づきつつある。

先週お盆休み中に、神奈川県の海老名サービスエリアのガソリンスタンドを取材すると、レギュラーガソリンですでに「200円超え」を示す店頭看板がいくつも見られた。

円安が進むと原油の輸入価格が上がっていき、ガソリン価格の上昇につながる
円安が進むと原油の輸入価格が上がっていき、ガソリン価格の上昇につながる

ガソリン価格の上昇に拍車をかけているのが円安だ。 外国為替市場の円相場は、 先週一時1ドル=146円台半ばまで下落し、円安局面が継続している。

円安が進むと原油の輸入価格が上がっていき、ガソリンの値段の上昇につながる。この動きにはタイムラグがあるが、ここ1カ月間のガソリン価格の動きに円相場のグラフを合わせてみると、円が値下がりする一方で、 ガソリンの値段が上向いてきている様子がみてとれる。

ガソリン高の大きな要因「補助金縮小」

そしてもう一つ、ガソリン値上がりの大きな要因が政府による補助金の縮小だ。 

家計負担を和らげるため、政府は補助金を石油元売り会社に支給し、ガソリン小売価格を抑えてきた。1リットルあたり168円を超えた分について補助金が支給される仕組みだが、相場がピーク時より落ち着いてきたことから、超過が25円までの部分については6月から2週間ごとに10%ずつ縮小してきていて、9月末には補助自体が終了することになっている。

直近の全国平均価格は1リットル=181円90銭だが、経済産業省によると、補助金がないとすると、195円50銭になる計算で、補助金なしだと全国平均でも200円台はもう目の前だ。原油高に加えて、円安・補助金縮小というトリプルパンチでガソリン価格が押し上げられる様相となっている。

補助金なくなるとさらに2万円負担増

物価高が家計を圧迫するなか、政府はガソリンなどのほか、電気・ガス料金でも負担を軽くする対策を行ってきた。経産省によると、標準的な家庭で電気代では月2800円、 ガス代では900円分が抑えられてきたが、9月にはこれらは半分になり、月末に期限を迎える。

補助金が予定通り終了した場合、家計負担はどれだけ増えるのだろうか。

10月以降補助金が全てなくなるとすると、年間負担増は10万を超える計算になる
10月以降補助金が全てなくなるとすると、年間負担増は10万を超える計算になる

みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストの試算では、円相場や原油相場が今の水準で推移した場合、2023年度1年間の家計負担は、平均で前の年度と比べて8万1000円ほど増える。

ただしこれは10月以降も補助金が延長された場合の数字で、10月からガソリンや電気ガスの補助金が全てなくなるとするとさらに2万円以上増えて、 年間の負担増は10万円を超える計算になる。

与党では補助金延長の是非が議論の焦点に…
与党では補助金延長の是非が議論の焦点に…

政府与党では、補助金延長の是非が今後の議論の焦点になりそうだ。

自民党の茂木幹事長は7月、ガソリン代について「日本は激変緩和措置をとることにより、 諸外国と比べるとかなり値段を抑えられているが、一時と比べると高くなっているもの事実だ」と述べているほか、公明党の山口代表も「(補助金が)9月で切れた以降、どうなるかは予断を許さないところ。ここを見極めたうえで、国民生活全体を見ながら、必要であればしっかりと対策を講じていきたい」と話した。

後藤経済再生相は8月15日の会見で、「10月以降の対応は、国際的な燃料価格の動向などを踏まえて、今後対応を考えたい」と述べている。

政府内には慎重論もある。ガソリンをはじめとした燃料油関連の補助金の予算累計額は6兆円規模となっているほか、電気・ガス料金の負担軽減策でも3兆円があてられている。ある政府関係者は「為替や補助縮小が要因で起きている今のガソリン高を補填するため、補助金を単純に延長して、国民の税金でまかなうかは議論のあるところだ」と話す。

巨額の補助金の投入により、本来は市場で価格が決まるはずのメカニズムがゆがめられているという側面があるほか、エネルギーの使用を抑えることにつながらず、脱炭素の流れに逆行するとの指摘もある。

「トリガー条項」凍結解除は

一方、ガソリン高をめぐっては、2022年に「ガソリン税のトリガー条項」の凍結解除が議論になった。「トリガー(triggar)」とは「銃などの引き金」のことで、引き金を引くように自動的に条項が発動されるしくみだ。

ガソリン税には、本来の課税より上乗せされている分が1リットルあたり25円ほどあるが、この条項では、価格が3カ月連続で1リットルあたり160円を超えた場合、上乗せ分の課税がストップされることになっている。ただし、東日本大震災のあと復興財源を確保するため凍結する措置が取られていて、一度も発動されたことはない。

「ガソリン税のトリガー条項」の凍結解除をめぐっては、2022年に政府与党が見送りを決めた
「ガソリン税のトリガー条項」の凍結解除をめぐっては、2022年に政府与党が見送りを決めた

2022年には、原油高騰対策として国民民主党などから凍結解除を求める声が強まったが、補助金の支給が効果を上げているなどとして、政府与党は解除見送りを決めている。

トリガー条項が発動され仮に1年間続くと、1兆5000億円ほどの税収が失われる。税収の一部は地方自治体にも回るため、当時は「地方財政に穴が開く」ことへの懸念の声も相次いだ。

物価高に賃金上昇追い付かず

物価高が家計を圧迫するなか、実質賃金は15カ月連続のマイナスで、賃金上昇が物価の伸びに追いついておらず、景気の好循環の実現は遠い。政府与党は、経済状況などを見極めたうえで補助金の延長を含め物価高対策について判断することになる。

物価上昇が消費の勢いに影を落とすなか、議論の行方を注意深くみていく必要がありそうだ。

(執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員