「少子化」など子育てに関わるさまざまな問題を取材し、解決策につながる糸口を探る「少子化えひめの行く先」。今回は愛媛の「里親制度」の現状について取材した。
虐待や貧困など、さまざまな理由で実の親と暮らせない子どもたちを、家庭的な温かい環境で育てていく「里親制度」。“子どもの命を守るため”に愛媛で奮闘する人々の姿を追った。
養育里親として「大人の手が足りてない子どもを育てたい」
やんちゃ盛りの男の子2人を育てる山下憂さん(42)と夫・直人さん(43)。
![山下憂さん(左)と2人の男の子](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/3/700mw/img_53f02758c72bdf750e1caae4950c3323417556.jpg)
ーー最近の子育ての悩みは?
夫・山下直人さん:
ごはん食べるのが遅い
妻・山下憂さん:
ほんとそう。ごはん食べるのが遅い
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悩みながら、そして楽しみながら子育て真っ最中の山下家。しかし、この親子の間に血のつながりはない。
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山下さん夫婦は「養育里親」の認定を受け、小学1年生のそうたくん(仮名)と5歳のこうたくん(仮名)を2021年に「里子」として迎え入れた。
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さまざまな理由で親と一緒に暮らせない子どもたちを一定期間、家庭に受け入れて育てる里親制度。このうち最も一般的なのが「養育里親」で、特別な資格がなくても、研修を受けて都道府県知事に認められると、子どもを受け入れることができる。
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ーー里親になろうと思ったのは?
妻・山下憂さん:
海外で里親になられてる有名な方多いじゃないですか?当たり前に自分の子どものように、自分が産んでない子を育てている環境がかっこいいなと思って
6年前に東京から愛媛に移住した山下さん夫婦。穏やかな生活ができる愛媛でなら子育てをしてもいいのではないかと思ったんだという。
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夫・山下直人さん:
2人の間で子どもをもうけるっていうのは、当時もう既に40歳手前で、高齢出産って呼ばれる時だったので、わざわざ自分たちで産まなくてもいいよねって。(年齢的に)母体のリスクもある。乳児院や養護施設にいる子どもがいるんだったら、その子たちを育ててもいいんじゃないか。まだまだ大人の手が足りてない子たちがいっぱいいるので
“揺らぐ”親と子に寄り添いたい
愛媛でも子どもが犠牲となる痛ましいニュースは後を絶たない。愛媛県内の2021年度の児童虐待の相談件数は2,614件で、前の年度から213件増えて過去最多となった。
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こういった虐待や貧困などが理由で親と一緒に暮らせない子どもたちを保護して、社会全体で責任を持って育てていこうというのが「社会的養護」のシステムだ。
中には、子どもたちが児童養護施設などで暮らす「施設養護」と、里親などの家庭で育つ「家庭養護」がある。国は乳幼児期により「家庭的な環境」で「信頼できる大人」との愛着関係を築くことが人格形成のため重要だとして、「家庭養護」の普及を積極的に進めている。
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しかし、県内の「里親への委託率」は2021年度で24.7%と、全国平均の23.5%をわずかに上回る程度。今後、さらなる広がりが期待されている。
![「子どもリエゾンえひめ」の設立会見](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/6/2/700mw/img_628206da33db4c6a257207d11d31c1e0399894.jpg)
2023年1月に愛媛に初めて設立された里親支援のNPO法人「子どもリエゾンえひめ」は、里親の育成や子どもたちとのマッチングの提案、子どもを委託した後の里親家庭のサポートなどを目指している。児童相談所の元職員をはじめ、少年事件を担当する弁護士、虐待を受けた子どもの診察に携わる小児科医など、各分野の専門家が中心となって設立された。
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理事長の山内幸春さんと事務局長の石井恵一郎さんは長年、児童相談所の職員として“揺らぎながら”日々を生きる親と子に関わってきた。
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子どもリエゾンえひめ・山内幸春理事長:
10代で死んじゃう子がいる…。ちっちゃい赤ちゃんの時もあるし、原因は不明で。(虐待は)どこで起こってもおかしくない。周りに里親さんがいっぱいいてくれたら、誰かにきっと行き当たって、巡り会って、その子を幸せにしてくれる人がいるかもしれない。だから、里親支援の仕組みを作りたい
松山赤十字病院の小児科医・西﨑眞理さんも、NPO法人の立ち上げに加わった1人だ。
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松山赤十字病院 小児科医・西﨑眞理医師:
子育てって大変です。今のお母さん見てても「大変そうだな、つらそうだな」と思うことが多い。これではみんな子どもを産みたがらないだろうなと思うくらい
西﨑医師は日頃から、虐待の疑いがある子どもの診察に積極的に当たっている。
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松山赤十字病院 小児科医・西﨑眞理医師:
体に虐待を受けた子の診察を、平均週1回くらいは児童相談所から依頼を受けてやっている。数的には少ないんですが、性的虐待というのも決してまれではない
こうした現状に向き合う中で、NPO法人の必要性を強く感じたという。
松山赤十字病院 小児科医・西﨑眞理医師:
小児科医として病気を治すだけが仕事じゃないと感じてきたので、それを生かせたら
西﨑医師自身も3人の子どもの母親で、育児と仕事の両立に悩み続けてきたからこそ、“揺らぐ”親と子に寄り添いたいと考えている。
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松山赤十字病院 小児科医・西﨑眞理医師:
未熟ですもんね、親はみんな…全然ですよ。いいんですよ、家なんて散らかってたって…。ご飯なんか適当でいいんです、納豆ご飯でいいんです。ただ、子どもの話を聞けばよかったんです。大切なのは心ですよね、心を育てなきゃ
里親制度がつなぐ「命のバトン」
養育里親の山下さん夫婦が里子を迎えて2年。夫婦2人きりの生活から、急に2人の男の子の親となり、当初は想像した以上の「子育ての大変さ」も感じたという。
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夫・山下直人さん:
初めの2~3カ月は、ほんときつかったですね。例えば子どもたちが(足音を)ドンドンするとか、電気のスイッチをパチパチやるとか…。ちゃんと「ダメだよ」って伝えてはいるけど(子どもだから)分かんないのは理解しつつも、ストレスが…
夫・山下直人さん:
めちゃくちゃ痩せましたね
ーーどのくらい?
夫・山下直人さん:
5~6kg
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里親支援を行うNPO法人「子どもリエゾンえひめ」が開いた里親の集まりにも参加したという山下さん。里親が抱く悩みを相談できる窓口が、また一つ増えることは心強いと話す。
妻・山下憂さん:
小児科の先生だったりとか、児童相談所の元職員の方とかいらっしゃるので、悩みを分かってもらえて、より専門的に話を聞いてくれる。里子の生い立ちだったりとか、そういうことを踏まえて話をしてくれるので、それだけ具体的にいろいろ相談できるところは(ほかに)ないと思います
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里親が子どもを育てられるのは原則18歳まで(20歳まで延長可能)。その後は自立する子もいれば、実の親の元に帰る子などさまざまだ。
ーー18歳になった後の2人とはどんな関係を築いていきたい?
夫・山下直人さん:
普通に親子だよね
妻・山下憂さん:
そうだね
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妻・山下憂さん:
今、2人を育ててる最中だけど「絶対、将来幸せになるように」と思って育ててる。18歳になって自立した大人になるために私たちが手助けしているので、ずっとその思いは変わらずに育てると思う。うちを巣立ったとしても、実家として、ちょくちょく帰ってきてほしいと思います
夫・山下直人さん:
普通の家庭と変わんない
妻・山下憂さん:
うん。普通の家庭でも皆さん、そういう風に子どもを育てますよね
「リエゾン」とはフランス語で「つなぐ」という意味。孤立しがちな親と子が、地域とつながることで、かけがえのない命をつなぐことにつながれば…。今、愛媛の「子育て力」が試されている。
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2003年から2022年8月までで、全国で発生した子どもの虐待死事例は939人。このうちのほぼ半数が0歳児だ。里親制度は「子どもたちの命をつなぐバトン」の一つになっている。
(テレビ愛媛)