通販サイトで買い物をするとき、どのようなレビュー(口コミ)を参考にしているだろうか?

東京大学の研究者らによるグループの研究で、商品を選ぶ際に「多数派の意見からずれた異論を唱えるレビュー」が役に立つことが分かった。

研究を行ったのは、東京大学大学院の植田一博教授と山口大学大学院の楊鯤昊講師らによるグループ。「多数派の意見をなすレビュー」よりも、多数派の意見からずれた異論を唱える「アウトライアーレビュー」が、商品選択を行う際に有用性が高いことを明らかにし、研究の成果は6月27日、イギリスのオンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

「Amazon.com」に投稿された1000万件以上を収集

研究グループは、まず、1996年5月から2018年10月までの期間に「Amazon.com」に投稿された、英語で書かれた商品レビュー1000万件以上を収集し、「アウトライアーレビュー」を特定。その際に、ある商品に対する、すべてのレビューの平均的な評価(平均星の数)を基準にし、平均値から大きく離れた評価を与えているレビューを「アウトライアーレビュー」と定義した

研究グループの植田教授は「アウトライアーレビュー」を“低い評点をつけている、少数派の口コミ”と説明している。

次に、「Amazon.com」で提供されている「Vote」機能を利用して、すべてのレビューの有用性を測定。「Vote」機能とは、「Amazon.com」において、ユーザー(レビューの読者)がレビューを有用と思うかどうかを投票する機能だ。

今回の研究では、各レビューの「Vote」数を、レビューの有用性を測るための指標として使用している。つまり、「Vote」数が多いレビューほど、読者の購買決定に有用な情報を提供すると考えた。

そして、「アウトライアーレビュー」の有用性を「他のレビュー」の有用性と比較した結果、「他のレビュー」よりも「アウトライアーレビュー」の有用性が高いことが明らかになった。

今回の結果について、研究グループは「分析の結果、異論を唱えるアウトライアーレビューが、より中立的で簡潔かつ十分な情報を提供する傾向があり、多数派の意見をなすレビューよりも商品選択に有用な情報を提供することが明らかになった」としている。

「アウトライアーレビュー」が有用になる仕組み(提供:東京大学大学院・植田一博教授)
「アウトライアーレビュー」が有用になる仕組み(提供:東京大学大学院・植田一博教授)
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ネット通販が普及し、買い物をする際にはこのようなレビューを参考にすることも多いことだろう。今回の研究結果を踏まえ、レビューを見る際にはどのようなことに注意すればいいのか? 東京大学大学院の植田一博教授に聞いた。

研究の始まりは「仮説」

――このような研究を行った理由は?  

「アウトライアーレビューはもしかしたら有用ではないか」という仮説を最初に出したのは、共同研究者の楊鯤昊さん(現在は山口大学に所属)になります。 

この仮説の妥当性を考えるために、自分がオンラインレビューを普段、どのように利用しているのかを思い出してみたところ、以下のような特徴があることに気づきました。

(1)星の数があまり多くない、つまり、低い評点をつけているレビューをしばしば参考にしている。

(2)それらのレビュー内容において、自分が重視している点(例えば、製品の機能や性能など)について、ネガティブな記述がないかどうかをチェックし、ある場合にはさらなる情報を収集する、あるいは購入を見合わせる。

一方で、自分が重視していない点(例えば、色など)に関するネガティブな記述は気にしない。そのために、レビューの記述がそれなりにあるものに絞って、レビューを見ている。


上記のような閲覧傾向は、楊さんにも、私の妻にも共通していることが確認できたため、大量のデータに対して分析を行ったら、「アウトライアーレビュー」が有用なことを検証できるのではないかと考えました。


――調査の対象を「Amazon.comに投稿された、英語で書かれた商品レビュー」にした理由は?

検証対象となるデータが大量にあり、頑健な統計的分析が可能なことと、「日本語データ」よりも「英語データ」を分析した方が、世界中の多くの読者に読んでいただけると考えました。


――「アウトライアーレビュー」は“否定的かつ少数派の口コミ”ということ?

否定的というよりは、低い評点をつけているということです。したがって、“低い評点をつけている、少数派の口コミ”ということになります。ただし、“低い評点をつけている”と言えるのは、あくまでも、平均点が高い「Amazon.com」を分析対象としているからです。

分析上の「アウトライアーレビュー」の定義には“低い評点”は含まれておらず、“評点が平均点より大きく外れているレビュー”が定義となります。


――「レビューの有用性」は“商品を選ぶときに役に立った情報”という意味?

「レビューの有用性」は、それぞれのレビューが役に立ったかどうかに対する投票数(「役に立った」ボタンが押された回数)によって測っています。したがって、「レビューの有用性」とは、“商品を選ぶときに役に立った情報”という意味だと言えます。

“中立性の高い記述”を行っているレビューを参考にすると良い

――「アウトライアーレビュー」の有用性が高い理由としては、どのようなことが考えられる?

レビュー内容を統計手法とAIで分析した結果、平均から外れた商品レビューほど、より中立的で(正確に言うと主観性が低く)豊富な情報が簡潔に記載されている傾向にあったことが理由として挙げられます。


――今回の結果、どのように受け止めている?

我々がオンラインレビューをどのように活かしたら良いのかということに対して、一定の示唆を与える結果だと考えています。

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――「日本語で書かれた商品レビュー」でも、同様の結果が出ると思う?

少し古いですが、DVDについて日本語サイトの「Amazon.co.jp」の商品レビューを分析した研究では、平均点が4.2点だと報告されています。そのため、おそらく、今回、分析対象とした英語サイトと同じような傾向が日本語サイト(Amazon.co.jp)にも見られると推測されます。


――今回の研究結果を踏まえ、私たちがレビューを参考にするとき、どのようなことに注意すればいい?

「アウトライアーレビュー」には誹謗中傷が目的と思われるレビューも含まれるので、レビュー内容を検討する必要があります。特に、主観性の低い、つまり、“中立性の高い記述”を行っているレビューを参考にされるのが良いと思います。

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今回の研究では、商品を選ぶときに役に立ったことが明らかになった、多数派の意見からずれた異論を唱える「アウトライアーレビュー」。

ただし、この「アウトライアーレビュー」には、誹謗中傷が目的と思われるレビューも含まれているため、レビュー内容を鵜呑みにせず、慎重に内容を検討することも大切なようだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。