7月17日、ロシア政府はウクライナ産の穀物を黒海経由で安全に輸送することを保証した合意を停止すると表明した。小麦などの価格高騰が懸念される中、国内屈指の“餃子の街”からも心配する声があがっている。

どうなる?今後の穀物情勢

先行きが不透明なウクライナ産穀物の輸出
先行きが不透明なウクライナ産穀物の輸出
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小麦をはじめとするウクライナ産穀物の輸出をめぐっては、2022年2月に始まったロシアの軍事侵攻によって滞り、アフリカを中心とする国々で食糧危機への懸念が高まったことを受け、2022年7月にトルコと国連が仲介する形で、ウクライナとロシアを含む4者による合意が成立した。具体的には、ウクライナの黒海沿岸3港から穀物を輸出する船舶について安全な輸送を保証するもので、当初の有効期間は120日間。当事者が異論を唱えない限り自動延長される仕組みで、これまでに2022年11月(有効期間120日)、2023年3月(同60日)、5月(同60日)と延長されてきた。しかし3回目の期限となった7月17日、ロシア政府は「ロシア産の穀物や肥料の輸出正常化などの約束が実行されていない」として「合意の履行を止めた」と発表した。

小麦の8割以上を輸入に頼る日本

野村農水相「穀物の供給量にただちに支障が生じる状況にはない」
野村農水相「穀物の供給量にただちに支障が生じる状況にはない」

農林水産省の食料需給表によれば、日本における2021年度の小麦の国内生産量は109.7万トン。これに対し輸入量は537.5万トンと8割以上を輸入に頼っている。一方で同年度の外国産食糧用小麦の輸入先を国別に見ていくと、1位・アメリカ(全体の49.8%)、2位・カナダ(同35.0%)、3位・オーストラリア(同15.1%)と、この3カ国だけで99.9%を占めている(農水省「麦の需給に関する見通し」より)。このため野村農水相も「ウクライナから日本への穀物輸入量はわずかで、我が国への直接的な穀物の供給量にただちに支障が生じる状況にはないと考えている」としつつも「小麦・トウモロコシといった穀類の国際価格や世界の食糧供給への影響が懸念される」とも述べている。

餃子の皮は小麦粉から…飲食店も心配

国内屈指の“餃子の街”・浜松
国内屈指の“餃子の街”・浜松

静岡県浜松市。総務省が毎年発表している家計調査では、2022年分こそ1世帯あたりの年間餃子購入額が初めて3位に転落したものの、かつては“3連覇”を達成するなど、国内屈指の“餃子の街”として知られている。餃子の皮は小麦粉を原料に作られていて、今回の合意停止には飲食店の関係者も気を揉んでいる。

現時点では価格を据え置く考えの餃子男・鈴木代表
現時点では価格を据え置く考えの餃子男・鈴木代表

中心街にある居酒屋「餃子男」の鈴木琢海 代表によると、2022年からの値上げラッシュにともない餃子の皮の仕入れ値は1年余りの間に約1割高くなっていて「毎月値上がりしているイメージ」と肩を落とす。ただ“安くておいしいものが食べられる大衆酒場”をコンセプトに営業していて、来店客もその点に期待を寄せていることから、鈴木代表は「値段を上げにくいし、自分たちとしてもしたくない」と複雑な表情をのぞかせる。

「薄利多売のような形になるかもしれないものの、お客さんが喜んでくれる環境を提供するのが仕事なので、そこを守り切れれば」と話し、今後も電気やエアコンを使いすぎないなど経費の節減に努め、現時点では餃子の価格を据え置く考えでいるほか、物価高の影響を受けている社員の生活を思い給料を5%上げたという。

日本では輸入小麦を政府が一括して買い、製粉会社等に売り渡す方式を採用している。ただ、年間を通じて固定的な価格で売り渡される「標準売渡価格制度」が2007年に廃止となり、国際価格や為替の動向などを反映させる「相場連動制」が導入されたため、常に一定の価格というわけではない。価格の改定は毎年4月と10月の年2回で、現在の売り渡し価格は2023年9月まで適用されることから、松野官房長官は「ただちに国内での販売価格に影響があるものではないと考えているが、国際貿易や穀物相場の状況、物価の動向を引き続き緊張感を持って注視する」と述べている。

小麦の政府売り渡し価格は2023年4月の改定で平均5.8%引き上げられていて、追い打ちをかけるような値上げにつながらないか、“餃子の街”を支える飲食店関係者の不安は尽きない。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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