2023年4月、NPB・日本野球機構はファーム・リーグ(2軍戦)に参加する新規球団を公募すると発表した。7月末に申請期限が迫る中、悲願のプロ野球参入を目指す静岡市の現況と課題を整理した。

実は高い!静岡の野球熱

伝説の名勝負の舞台としても知られる草薙球場
伝説の名勝負の舞台としても知られる草薙球場
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夏の全国高校野球選手権・静岡県大会が開幕した。県内各地の球場では、甲子園を目指して高校球児たちの熱い戦いが続き、球場には多くの高校野球ファンが詰めかけている。静岡と言えば「サッカー王国」というイメージが強いものの「野球も熱い!」のは事実だ。

静岡県営草薙球場(静岡市駿河区)は、1934年の日米野球大会で沢村栄治とベーブ・ルースが伝説の名勝負を繰り広げた球場としても知られ、毎年、プロ野球の公式戦やオープン戦、ミニキャンプも行われている。2023年5月に行われたヤクルトVS巨人の公式戦は、全席完売という盛況ぶりを見せた。しかし、静岡県内でプロ野球の公式戦を観戦できるのは年に数試合。野球ファンは寂しさを感じているのではないだろうか。

千載一遇のチャンス到来!

ファーム拡大構想を進めるNPB
ファーム拡大構想を進めるNPB

こうした中、NPB・日本野球機構は2022年11月、ファーム・リーグ(2軍戦)の拡大構想を承認。2023年4月には、プロ野球の発展と全国の野球振興を目指すことを念頭に、2024年もしくは2025年シーズンからリーグに参加する新規球団を公募する方針を公表した。具体的には、現在7チームのイースタン・リーグ、5チームのウェスタン・リーグをそれぞれ1チームずつ増やすというもので、この2チームは”ファーム・リーグにだけ”参加する新しい球団となる。プロ野球の球団数が増えるのは1958年以来、実に66年ぶりとなる。

プロ野球の球団誘致に積極的に取り組んできたのが静岡県の県庁所在地・静岡市。静岡市長を3期務め2023年4月に退任した田辺信宏 氏が2011年に初当選した際、公約として掲げた1つでもある。田辺氏は、「プロスポーツを街づくりのための心の公共財として活用し、地元チームを持つ喜びや誇りを、子どもたちの郷土を愛する心を育むことに繋げたい」という思いからだったと語る。

静岡市が12年間、有識者との勉強会やNPBとの人脈づくり、球団の経営母体となる親企業との交渉などを積み重ねる中、千載一遇のチャンスとなったのが、NPBのファーム・リーグの拡大構想だった。

球団創設に現実味

静岡市と包括連携協定を結んだハヤテグループ(2023年4月)
静岡市と包括連携協定を結んだハヤテグループ(2023年4月)

NPBのファーム・リーグ拡大構想のもと、静岡市でのプロ野球団経営に名乗りを上げたのが、企業支援などを手掛けるハヤテグループ(本社・東京都)だ。2022年12月、ハヤテグループは「清水庵原球場を本拠地に2024年春のプロ野球参入をめざす」と表明。プロ野球参入に加え、地域の農業振興や移住・定住促進、それに教育や産業の振興など幅広い分野で静岡市との連携を目指している。これを受けて静岡市もプロ野球球団創設推進室を設置し、市民との間に立って夢の実現に向け全面支援していくこととなった。

静岡市が行なった市民アンケート調査によると、プロ野球の本拠地化について「賛成」70%、「反対」20%と多くの市民が好意的で、プロ野球の観戦機会の増加や地域のにぎわい創出に期待を寄せている。その一方で、球場周辺の交通渋滞や球場を市民が利用する機会の減少を懸念する声もあるが、静岡市議会も「清水庵原球場のプロ野球本拠地化を推する決議」を全会一致で採択した。

参入の条件は?

1万人収容可能な清水庵原球場
1万人収容可能な清水庵原球場

静岡市によると、NPBは新たに参加する球団に対し、フランチャイズとなる球場で年間70試合のホームゲームを開催、屋内練習場の確保、年間140試合を戦える選手・監督・コーチングスタッフの確保、財務体力などを参加の条件にしているという。

ハヤテグループが新球団の本拠地とするのは静岡市清水区の清水庵原球場。観客収容人数は1万人で照明は6基。駐車台数は第2球場を臨時の駐車場とすれば800台分は確保できるという。地方球場としては立派と言って良いであろう。また、東名や新東名のインターチェンジからも近く、バス移動が中心の選手たちにとってもストレスは少ない。屋内練習場は、静岡県営草薙総合運動場内の屋内練習場の借用を期待する。

また、清水庵原球場を本拠地とすることが明らかになった際、野球関係者の間から、一般市民の利用に影響するのではという声が出たものの、静岡県野球協議会の関係者によると、ハヤテグループとの意見交換を経て、今では野球の活性化に向けて協調してやっていくことで前向きに捉えられているという。こうしたことからハヤテグループの担当者は、静岡市の新球団の場合、球場の確保や財務体力、地元自治体との連携は100点超えと胸を張る。

しかし、課題は選手やスタッフの確保だ。独立リーグに所属しているチームであれば、選手・スタッフはすでに集まっているが、静岡市の場合はゼロからのスタートとなる。今回のファーム拡大構想には、日本独立リーグ野球機構に加盟する新潟や栃木のチームの申請の可能性が取り沙汰されている。

迫る!申請期限

プロ野球選手による野球教室(2019年12月)
プロ野球選手による野球教室(2019年12月)

ファーム・リーグへの新規参加に向けたNPBへの申請締め切りは2023年7月31日。その後、1次審査、2次審査を経て2023年11月のプロ野球12球団のオーナー会議で正式に決定する予定となっている。12年間にわたって静岡市への球団誘致を進めてきた田辺信宏 氏は「誘致が実現した場合、最初はいくつものハードルがあると思うが野球を愛する市民みんなで育ててほしい」と期待を寄せる。

日本のプロ野球のテレビ中継は、今では地上波からBS中心になり、一時期に比べれば人気は低下していると言っても過言ではない。しかし、広島東洋カープを見てほしい。”カープ女子”なる若い女性ファンも多く存在し、老若男女から愛される球団に成長している。

サッカー・Jリーグの「清水エスパルス」、女子バスケットボール・Wリーグの「シャンソンVマジック」、男子バスケットボール・Bリーグの「ベルテックス静岡」、そして卓球・Tリーグの「静岡ジェード」など、静岡市にはプロや実業団のスポーツチームが増えてきた。ここにさらにプロ野球の球団が新たな「おらが町のチーム」として誕生するのか。実現の期待を込めて今後の行方を見守っていきたい。

(テレビ静岡 特別解説委員・永井学)

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