7月2日に開幕した全国高校野球選手権・静岡大会。全107チームの中で唯一“初めての夏”となったのが伊豆伊東高校だ。残念ながら勝利をつかむことはできなかったが、地域への思いを胸に新たな一歩を踏み出した。
今大会唯一の初出場校・伊豆伊東

105回目を迎えた全国高等学校野球選手権・静岡大会。この大会に初めて出場したのが県立伊豆伊東高校だ。
伊豆伊東高校は少子化に伴う県立高校の再編計画によって、伊東市内にあった伊東高校と城ヶ崎分校、それに伊東商業高校の3校を統合した新設校で、2023年4月に開校した。

中でも旧・伊東商業高校はプロ野球 オリックス・バファローズに所属する竹安大知 投手が在学中の2011年秋、県大会でベスト8に進出するなどしたが、近年は生徒数が減少。野球部があった旧・伊東高校と旧・伊東商業高校は共に紅白戦を行うこともままならないほどの部員しか集まらず、練習の量や質が課題となっていた。
22人が入部し練習内容も充実

しかし、統合によってその悩みは解消した。伊豆伊東高校の野球部には新入生も含めて22人が入部。太田敦士 主将は「統合以前は戦術的な練習を積めないまま試合に臨むことが多かった」と振り返った上で「実戦形式のノックなど、できる練習の幅が広がった」と充実した表情をのぞかせる。
ただ、すべてが順風満帆だったわけではない。元は別々のチーム、それも毎年5月に定期戦を行っていたライバル同士だったこともあり、当初はそれぞれの向いている方向や考えが違ったという。それでも徐々に融和が図られ、生徒たちの発案で練習後には校歌を歌うことを日課にして、全員で勝利のイメージを共有している。
地域に愛されるチームを

一方、伊豆伊東高校は“ただ勝つことだけ”を目標としているわけではない。選手たちは毎週のように海岸清掃や稲刈りの手伝いに励むなど“地域に愛されるチーム”を目指している。背景にあるのは、ある種の“危機感”だ。学校関係者によれば、レベルの高い環境を求めて高校進学時に市外の野球強豪校へと進む生徒も多いという。このため春の東海大会を制した加藤学園高校と行った6月の練習試合では、始球式に地元の少年団の子供を招待した。もちろん“大きくなったらこの学校で野球がしたい”と思ってほしいとの願いを込めてのことだ。

試合は3対11と加藤学園に貫禄を見せつけられ完敗だったが、子供たちは東海王者相手に最後まであきらめない姿に目を輝かせた。しかし、中山裕介 監督の表情は浮かない。「地域を盛り上げていくために結果も求めたい」と自らにも言い聞かせるように、選手たちに奮起を促した。
だが現実は厳しい。7月15日に行われた県立湖西高校との全国高校野球選手権・静岡大会1回戦。伊豆伊東高校を応援しようと生徒や学校関係者だけでなく、地域の人など約300人が2時間かけて球場に駆け付けたが、序盤の大量失点が響き0対11で5回コールド負け。開校初年度の夏1勝はならなかった。
それでも“強く・地域に愛されるチームを作る”という伊豆伊東高校の歩みは始まったばかり。3年生は引退となったが、この夢は後輩たちに託された。
いつの日か“伊豆伊東旋風”を巻き起こすために。
(テレビ静岡)