2022年、静岡県で保育士が子どもの両足を持って宙づりにするなど、全国の保育の現場で暴行や虐待が相次いだ。こうした事態を受け、国が沖縄を含む全国を対象に実態調査を行ったところ、子どもに悪影響を及ぼすとされる「不適切保育」は県内でも確認された。背景に何があるのだろうか。
保育所などで40件が不適切な保育に該当
「園外活動時に園児の置き去りがあった」
「先生が保育中にスマホを見ていて、子どもたちを見ていない」
これは2023年6月、沖縄テレビが県に情報開示請求を行って入手した報告書の内容だ。

保育士が園児を暴行・虐待する事件が相次いだことを受け、こども家庭庁は実態調査を実施し、県が市町村を通じて保育所やこども園に聞き取りを行った。

国は不適切保育について、①こども一人ひとりの人格を尊重しないような関わり、②物事の強要・脅迫的な言葉かけ、③罰を与える・乱暴な関わり、④子ども一人一人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり、⑤差別的な関わり、の5つに分類した。

その結果、県内では保育所で14件、認定こども園や認可外保育園で26件の、合わせて40件が不適切な保育に該当するとされた。

人材不足は不適切な保育を誘発する状況に
保育が専門の沖縄女子短期大学の平田美紀教授は、この背景に「保育士の職場環境」があると指摘する。
沖縄女子短期大学 平田美紀 教授:
適正な職員の配置や体制が必要です。これ(人材不足)は適切でない保育を誘発する状況が生じています

県内では、192の施設で合わせて1680人の保育士が不足していることが県の調査で分かった。

平田教授は、深刻な人材不足によって保育士が心身ともに疲弊していることや、子どもを理解するための研修の機会が減っていることなど、複雑な要素があるとみている。

沖縄女子短期大学 平田美紀 教授:
子どもの人権や人格尊重などの観点に照らして、どのような子どもへのかかわり方が適切なのかというところへの十分な理解がなく、また、理解する機会も少なかったです
また、昨今の新型コロナも保育現場の環境に大きな影響をもたらしていると指摘する。

沖縄女子短期大学 平田美紀 教授:
当事者(保育士)もコロナに感染したりして、突発的な人員不足が日々起こっていました。対話がかなり少なくなり、それぞれの保育者に(判断や対応が)任せられてしまいました
保育業界の団体も、この現状に危機感を抱いている。
沖縄県私立保育園連盟 上原東 会長:
研修をしたくても研修時間がないので、残業というか自分で時間を作って研修するというような形になっています。なかなか保育士のゆとりがない状況で保育がなされている、というところが不適切保育につながるのではないかと感じています

県が支援するも現場が求めるニーズと乖離
深刻な人材不足を解消するため、県も支援を行っている。
2015年度からは、保育士の処遇向上を目的に、正規雇用をした場合に補助を出す支援を実施。

さらに、産休や年休を取得しやすいように代替保育士を配置する事業や、県外から来た保育士に支援金を給付する誘致事業にも取り組んでいる。
一方、現場が求めるニーズと乖離(かいり)があるのも事実だ。

正規雇用に補助金を出す支援は、前年と比較して正規職員の数が増えていない場合、補助の対象にならないという条件がある。
沖縄県私立保育園連盟 上原東 会長:
非正規を正規に転用した場合には補助金で支援したいと考えていますが、前(前年度)の配置より多く配置していないと該当しないとかいろいろ条件があります。申請しづらいところもあると感じています
県によると、産休や年休のための代替保育士配置事業は概ね計画通りに実施されているが、県外からの誘致事業や正規職員の支援事業はいずれも計画を下回る結果(2022年度)となった。
2022年度、年休取得者の実績は33人(計画43人)、産休取得者の実績は20人(計画16人)だった。

それに対して、県外からの誘致事業の実績は44人(計画78人)、正規職員支援事業の実績は163人(計画218人)だった。

沖縄女子短期大学 平田美紀 教授:
コロナ禍に市町村の行政は尽力しつつもジレンマがありました。やりたいことに制約がかかって、交流や情報交換、チェックをしたかったけれどもできませんでした
よりよい保育環境を構築して子どもたちが安心・安全で過ごすために、平田教授はいまこそ保育現場と行政が意見交換を重ね、相互理解をより深める必要があると指摘する。

沖縄女子短期大学 平田美紀 教授:
これまでになかった(現場と行政の)枠組みや仕組みを作って、保育の質を考えるところに焦点化します。社会全体で、保育を見守る・保育を理解する・保育を理解する場を作る。そういったことが大事になってくるのかなと思います

子どもたちの権利がしっかりと守られるように社会全体で見守っていくための取り組みが求められる。
(沖縄発)