2018年7月の西日本豪雨から5年。土砂の中から見つかった「思い出の品」に引き取り手が現れず、廃棄を検討する自治体もある。被災者からの問い合わせも途絶え、いつまで保管するかという課題に直面している。

広島市は2023年度で「廃棄」を検討

土砂が付着した鍵盤ハーモニカやグローブ、汚れたぬいぐるみ…。これらは、被災現場の土砂の中から取り出された「思い出の品」と呼ばれるもの。

被災現場の土砂の中から取り出された「思い出の品」
被災現場の土砂の中から取り出された「思い出の品」
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西日本豪雨から5年がたっても、所有者の手元に戻ることなく広島市役所など自治体で保管されている。今後「思い出の品」をどうするのか…。自治体は岐路を迎えている。

広島市 環境政策課・筒井優衣さん:
5年間の保管期限をもって保管を終了すると考えているところです。永久に保管するというのはなかなか難しいので、ある程度期間を決めると

広島市は2023年度をもって「思い出の品」の「廃棄」を検討している。

五十川記者:
このぬいぐるみは中から綿が出ています。そして、これは着物の帯のようですが、一度泥をかぶったためか生地がだいぶ傷んでいます。5年が経って劣化が進んでいるなという印象を受けます

物品の劣化を伝える五十川裕明記者
物品の劣化を伝える五十川裕明記者

ボランティアの手も借りて、アルバムの中の写真1枚1枚まで可能な限り泥を落としたということだが…。「思い出の品」の経年劣化は否めない。

返却できた物品は3件にとどまる

土砂の中から取り出した物品51件と写真3,205枚のうち、返却できたのは物品が3件、写真も全体の約3%にあたる112枚にとどまっている。

被害が大きかった4地区で「返却会」を実施したが、思うような成果は出ていない。

2020年に広島市が開いた「返却会」
2020年に広島市が開いた「返却会」

特に、この3年半は返却できた件数が1件もなく、被災者からの問い合わせが途絶えた。それも「廃棄」を検討することになった主な要因だ。

広島市 環境政策課・筒井優衣さん:
返却会の開催について案内も広報も十分にしましたが、被災者からすると実際に物を見るとつらい気持ちを思い出してしまうこともあるんじゃないかなと思います

「思い出の品」の中には卒業証書など個人が特定できるものも含まれている。

(Q:名前があっても返却は難しい?)
広島市 環境政策課・筒井優衣さん:
家族や親戚、友人だとか、そういう人がわかればコンタクトをとって「ここにある」と伝えてもらうこともできると思いますが、そこまでに至っていない状況です

職員の業務にも限界があり、持ち主のプライバシーを配慮しなければならない点も返却できない「壁」となっている。

「思い出したくないこともある」

広島市で大きな被害が出た地区の1つ、広島港からフェリーで20分ほどの離島・似島。5年前、複数箇所で土砂崩れが発生したが、人的被害はなかった。

2018年7月、広島市南区似島の被害状況
2018年7月、広島市南区似島の被害状況

島の公民館の横には土砂の仮置き場が作られた。

堀口照幸さん:
当時は、とにかく土砂をかき出すのに精いっぱいでした

災害時、島の町内会の連合会長としてボランティアの配置や被害の全容把握の中心的役割を担った堀口照幸さん(75)。

5年の月日が流れ、被災者の心と環境に変化が生じているという。

堀口照幸さん:
被災した人は、ほとんど島からいなくなりましたよ。転居して、自分の持ち物かどうかもわからんのじゃないですか?思い出はあるでしょうが、思い出したくないこともあるだろうしね。つらい記憶を消し去りたいとかね、いろいろな思いがあるのではないでしょうか

そうした声もある中で、2023年度をもって「思い出の品」の廃棄を検討している広島市。今のところ、新たに返却会を開く予定はなく、保管する環境政策課に直接問い合わせがあった場合は個別に対応していく考えだ。

広島市 環境政策課・筒井優衣さん:
少しでも多くの人に「思い出の品」を見てもらえるように、広島市のホームページやさまざまな方法で周知していけるように取り組んでいきたいと思っています

広島市では2014年に発生した広島土砂災害の際にも、周知をした上で引き取り手が現れなかった「思い出の品」を廃棄したが、特に反発や問題などはなかったという。

周知するも…3年半の引き取り手ゼロ

自治体ごとに「思い出の品」への対応は分かれている。熊野町は「被害が局所的で対象の住民に十分な周知を行えた」として2019年度に廃棄。東広島市と坂町は保管の期限にルールはなく、「未定」としている。

13の物品と50冊以上のアルバムを保管する東広島市役所を訪ねた。

東広島市では、2020年3月以降、プライバシーに配慮しながら市のホームページを使ってアルバム写真以外の「思い出の品」を掲載し、誰でも見られる状態にしている。それでも、引き取り手はこの3年半1人も現れていない。

東広島市 廃棄物対策課・西本幸治 課長補佐:
個人の持ち物になりますので、ホームページに上げてはいますが、大々的に周知するのがなかなか難しい課題だと思っています

「思い出の品」の存在を知ってほしいのに、プライバシーを考えると満足に周知できないというジレンマを抱えていた。広報誌などで再度周知しても引き取り手が現れなかった場合、将来的に廃棄する可能性もあるとしている。

東広島市 廃棄物対策課・西本幸治 課長補佐:
特徴的な品が数多くあります。手作りであろう「野球の工作」や「仏像」などです。持ち主であれば、これは自分のものだとわかるのではないかと思います

東広島市に保管されている「思い出の品」の1つ
東広島市に保管されている「思い出の品」の1つ

「思い出の品」の保管にどう区切りをつけるのか。災害から5年がたった今も、各自治体は課題と向き合っている。心苦しくとも、判断しなくてはいけない時期に来ているのかもしれない。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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