新型コロナウイルスの感染が続く中、日本人の研究者が、感染予防に効果的な点鼻薬につながる研究結果を発表した。今後のパンデミックで、「ゲームチェンジャー」となる役割を期待されている。  

これは、アメリカ・コロンビア大学医学部の辻(つじ・もりや)守哉教授の研究チームが5日、科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表したもの。

辻教授らは、「ナチュラル・キラー・ティー(NKT)細胞」と呼ばれる、免疫細胞を刺激する糖脂質「7DW8-5」をネズミやハムスターなどの鼻に投与したところ、新型コロナウイルスのオミクロン株やデルタ株のほか、インフルエンザやRSウイルスなど、呼吸器疾患を起こすさまざまなウイルスによる感染を防ぐ効果を確認できたという。

また試験管での実験では、ヒトの細胞に感染した新型コロナウイルスも抑制するデータが得られ、早ければ、再来年1月には治験を開始できる見込み。

辻教授によると、例えばコンサートなど人の集まる場所や、飛行機や船に乗る1日前などに、点鼻薬として使用すれば、鼻や気管、肺の自然の免疫に作用し、鼻からのウイルス感染を防げるという仕組みで、もし長期間の予防が必要な場合は、数週間にわたり1日おきに使えば、効果は持続するという。

「糖脂質」は、投与が簡単で安価なため、将来パンデミックが起きた場合、ワクチンや治療薬が開発されるはるか前に対処が可能で、この研究は「ゲームチェンジャー」として注目されている。

この研究結果について「NKT細胞」を発見した理化学研究所生命医科学研究センターの谷口克・客員主管研究員は次のように評価している。

「免疫系には自然免疫系と獲得免疫系があり、ウイルス感染防御には両方の免疫系が重要で、その中間に位置して両方の免疫系に強い影響を与えるNKT細胞の機能は、すでに明らかにされていた。中でも、獲得免疫系である抗体は、ウイルスに直接働いて、ウイルスを生体から排除することから、血中の抗体量を測定することで、新型コロナ感染防御効果の有無を判定してきた。しかし、本論文では、抗体が無くとも自然免疫系を活性化できるNKT細胞を人工活性化すれば、それだけでオミクロンなどの変異株を含む新型コロナウイルス感染症を防ぐことができることを証明した。」

「実際、これまでの新型コロナ関連論文の中には先天的に抗体を作ることができない先天性無ガンマグロブリン血症患者(指定難病)でも、ウイルス自体が自然免疫系を活性化し、その結果新型コロナウイルス感染を防御できたことから、自然免疫系の重要性は示されていたが、今回の研究は、自然免疫系の人工活性化だけでも十分にウイルスを排除し、ウイルス感染を防御できることを実験的に示した最初の論文になる。」

「さらに論文では、現在流行しているインフルエンザや治療法の無い小児の呼吸器感染症を誘発するRSウイルス感染なども予防できることを示しているので、病原体に対するワクチン以外にも「NKT細胞の人工活性化」が感染症防御を考える上での有効な選択肢になることを示した画期的な論文となる。」

国際取材部
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