4年ぶりにコロナ禍前と同じように実施されている小学校の水泳授業。一方で、広島市立の小中学校200校で整備されているプールのうち過半数が築40年を超え、老朽化や地盤沈下などの深刻な問題に直面している。

水の浄化機械が故障 手作業で塩素散布

広島市安佐南区の安西小学校。6月23日、水泳授業を前に先生がプールの水質管理を行っていた。

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安西小学校の先生:
塩素濃度と、PH(ペーハー)を確認します。PHが酸性とアルカリ性のどちらかに寄りすぎるとプールの授業ができないので

先生はプールの水に検査紙を浸し、濃度が不足していた塩素を足した。
この小学校のプールはある問題に直面している。

安西小学校の先生:
小プールの水の循環や塩素を自動で注入する機械が壊れていて…

安西学校には大プールと小プールの2つのプールがあり、小プールの機械が壊れて水を浄化できない状態だという。取材を担当した矢野寛樹記者が、プール横にある機械室の中を見せてもらった。

安西小学校のプール横にある機械室
安西小学校のプール横にある機械室

矢野記者:
こちらが故障した機械ですね。何年製なのか製造年月を見ると、ほとんど消えかかっていますが「62」と表示があります

1962年の製造から、なんと61年が経っていた。機械が故障しているため、先生たちは手作業で塩素を散布するとともに、学校独自で塩素濃度を保つ道具を使っている。

塩素濃度を保つために、塩素を入れてプールに浮かべる道具
塩素濃度を保つために、塩素を入れてプールに浮かべる道具

プールを点検するたびに“不具合”が…

安西小学校・森田賛子 校長:
水泳指導を行う前には必ず業者による点検を行っていますが、毎回どこかがもう少しで摩耗しそうですとか…。8年ほど前から、点検するとどこかに不具合があって、何とか使えるから使っていきましょうという状況です

各学校現場がそれぞれ工夫をして、老朽化したプールを何とか使っている…そんな実態が見えてきた。

2023年、広島市では4年ぶりにコロナ禍前と同様の水泳授業が行われている。老朽化の懸念をよそに、プールで泳ぐ子どもたちは水の感触を楽しみ、はじけるような笑顔だ。

安西小学校で水泳授業を楽しむ子どもたち
安西小学校で水泳授業を楽しむ子どもたち

水の事故を未然に防ぐための身体能力を育むなど、重要な学習に位置づけられている水泳授業。その裏では子どもたちが快適に学べるようプールの環境を整える教員の努力があった。

地盤沈下で水漏れ…修繕不可能に

広島市立の小中学校200校で整備されているプール。その過半数が建築から40年を超え、老朽化が進行。多くは10年から30年後に更新時期を迎えるといわれている。しかし、老朽化とは別の問題でプールを使用できない小学校がある。広島市南区の黄金山小学校だ。

ほかの小学校では水泳授業が始まっているが、黄金山小学校のプールは空っぽ。水が張られていないプールの底に、落ち葉が積もっている。ところどころ床底がはがれ、壁面にはひび割れも。

黄金山小学校の使えなくなったプール
黄金山小学校の使えなくなったプール

鈴木崇義記者が近づいてみると…

鈴木記者:
プールと同系色の青い樹脂のようなもので修繕された跡がいくつかあります。その中には、修繕後にひびが入って、パキッと割れたようになっているところもありますね

プール壁面のひび割れをリポートする鈴木崇義記者
プール壁面のひび割れをリポートする鈴木崇義記者

建築から38年だが、地盤沈下によって水漏れが起き、数回にわたって修繕を行ったものの改善しないため、全校児童159人の水泳の授業が困難になっている。

こうした状況を受け、広島市教育委員会は「まずは近隣の施設の活用から検討する」という基本的な方針を踏まえ、「改築せず、学校から片道15分以内の施設を利用」することを決めた。施設の使用料やバス代、インストラクターの人件費など122万1000円を6月の補正予算に計上。9月の授業開始を目指しているという。

小学校からプールが消える?

大人にとっては「学校にプールがあって当たり前」と感じる人も多いだろう。しかし、取材を進めると事態は想像以上に深刻である。
広島市教育委員会は、老朽化などで改築が必要になった場合は近隣の“民間施設などの活用”を検討することを基本として、改築する場合も複数の学校の“共同プール”にすることを検討している。

学校から片道15分以内の施設を想定
【外部施設の場合】
○民間施設:スイミングスクール、スポーツクラブなど
○市営施設:区のスポーツセンター、市営屋内プールなど
(対策後)
天候などに左右されず計画的な水泳授業を実施できるメリットがあるほか、インストラクターの活用で教員の負担が軽減。生徒はプロの指導・監視体制が受けられる。

【他校共用の場合】
○近隣の小中学校の共同プール
(対策後)
屋外なので、実施時期は夏季に限定される。教員の負担軽減につながるが、受け入れ校の教員は水質管理などの負担が増えるのでは…という意見もある。

難しい問題だが、子どもたちがより良い環境で水泳指導を受けることは大切。これまでと違う方法を考える転換期に差しかかっていると感じる。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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