育児休業(通称、育休)の取得を考えているものの、職場で前例がないために、一歩が踏み出せない…という男性は多いのではないだろうか。

厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、2021年度の男性の育児休業取得率は13.97%と、まだまだ低い。実際に育休を取得した男性たちは、どのように準備を進めていったのだろうか。

パパが集まるオンラインコミュニティ「パパ育コミュ」の代表・シカゴリラさんは、第2子・第3子が産まれた際に1年ずつ育休を取得。そのときの経験を聞いた。

育休取得のカギは「上司のリアクション」

現在3児のパパのシカゴリラさんは、第1子出生の際には育休を取得しなかった。

「当時は仕事が忙しく、昭和世代の父や職場の上司の影響もあり、『頑張って働かなきゃ』と思ったんです。しかし、妻は育児の負担で産後うつを発症し、サポートしてくれた義理の母も体調不良に。自分の選択に後悔が残ったので、第2子以降は育休を取ろうと決めていました」

「パパ育コミュ」の代表・シカゴリラさん
「パパ育コミュ」の代表・シカゴリラさん
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2019年10月に第2子が生まれ、1年間の育休を取得。初めての育休ということもあり、職場への説明に心理的なハードルを感じたという。

「私の勤め先は従業員が数万人いる大きな会社なのですが、男性が長期の育休を取得した事例がほとんどなかったんです。だから、上司や同僚にどう受け取られるか、不安に思う部分がありました。

でも、いざ部長に話してみると、前向きに検討していただけたんです。同僚に説明する際も、部長が部内での説明会を開き、『仕事の穴を埋められるように頑張りましょう』って話してくださって、想像していたよりはるかにスムーズに進められました」

シカゴリラさんは上司のサポートを受けられたが、「パパ育コミュ」のメンバーの中には、上司から思いがけない言葉をかけられた人もいるそう。

「メンバーの1割ほどですが、パタニティハラスメント(パタハラ)を受けた方がいます。上司から『会社を辞めろ』と言われたり、急に雑用係のように扱われたりして、転職した方もいます。上司によって、育休の取りやすさは変わる可能性があるでしょう。

ごく稀に『育休を取るな』と言われた話は聞きますが、『期間を短くしてくれ』『繁忙期だけは働いてくれ』『同僚への引き継ぎは自分でやってくれ』と言われるケースはそれなりにあるようです。上司への交渉は必要になるかもしれません」

(画像:イメージ)
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育休取得にあたって、もうひとつ、不安材料になり得ることがあるとのこと。

「キャリアに関しては、育休がマイナスに働く可能性があります。本格的に出世競争に挑んでいる人だと、大きなハンデになりかねません。私は、ライフワークバランスのライフを優先すべきだと思ったので、育休を決意しました。

私は、職場の総合職の女性社員から『男性が育休取得してくれると取りやすい』と、言われたことがあります。総合職は男性が多いからか、女性も育休を取りづらいようなのですが、私の育休がはからずもほかの人のキャリアの選択肢を広げるきっかけになったようです。

また、私が育休を取ってから、チームの後輩の男性も育休を取ったんですよ。自社では、ママが家庭にいる状態で1年間の育休を取った男性は、私が初めてだったそうです。ファーストペンギンとして誰か1人が飛び込む と、みんなも飛び込むようになるんだと実感しています」

「育休」は子どもたちとの関係を築く時間

2020年10月8日から2021年2月1日にかけて「パパ育コミュ」が育休経験男性171人に行ったアンケートで、「育休を取得して良かったと思いますか?」と聞いたところ、「とても良かった」「良かった」と答えたパパが98.9%に上った。

「キャリア的にマイナス面があったパパや、パタハラなどのひどい経験をしたパパも含め、98.9%が『育休を取って良かった』と感じています。私自身も育休を取ったことで、子育ての楽しさを実感することができました」

シカゴリラさんの言う“子育ての楽しさ”とは、子どもの成長を間近で見られること。

「第1子のときは、妻が送ってくれる動画で子どもの成長を感じていましたが、第2子、第3子は座る、立つ、しゃべるという成長を自分の目で見ることができたんです。

1歳になるまで一緒に過ごしたことで、子どもといい関係を築けている気もします。育休期間だけでなく、その後の人生も豊かになっていく予感がしますね」

(画像:イメージ)
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生まれたばかりの子どもだけでなく、上の子との関係もより親密になったそう。

「我が家では母乳で育てていたので、赤ちゃんは妻がメインで面倒を見ることになります。その間、私は第1子の幼稚園の送り迎えなどをしていたので、育休を通じて上の子ともさらに仲良くなれた気がするんです。

子どもが増えていくと、ママ1人では面倒を見ることは大変です。子どもが2人いる場合、赤ちゃんを抱っこすると上の子も『抱っこしてほしい』とぐずり、いっぺんに抱っこしなければならないことがあったりします。

産後のママは骨盤が緩く、2人分の重さで骨盤が歪んだという話を聞いたことがあります。ママとパパがいれば、抱っこも子どもと遊ぶのも手分けできますよね。

第1子の出生時はもちろんですが、第2子、第3子の時にパパが育休を取ることも、大きなメリットがあると感じます」

育休を取るとなると収入減の不安もあるが、そこはうまくやりくりしていたとのこと。

「育休中は時間ができるので、ちょっと遠いスーパーでセール品を買ったりすることで、食費を3~4割減らすことができました。

旅行や飲み会にも行かなくなり、娯楽費が減ったのも大きかったです。育休前に不安に感じていたほど、大変ではありませんでした」

1年後の職場復帰も、「会社とうまく調整することで、なんとか仕事と育児を両立できた」と話す。

「ありがたいことに在宅かつフレックスみたいな働き方を認めてもらって、ライフを重視したワークができました。第2子の育休から半年で第3子の育休を取ったこともあり、職場で『家庭優先で働く人』というキャラクターができたのも、働きやすくなった理由のひとつです」

落ち込んだ気持ちを救ったのは「パパ仲間」

子育てに前向きなシカゴリラさんも、育休中に気持ちが落ち込んだ時期があった。

「育休に入ってからはあまり出かけていなかったんですが、2020年4月の緊急事態宣言で強制的に家にこもる生活になり、うつうつとした気持ちになりました。家族以外の人と話す機会が完全になくなったからだと思います」

その状況を打破するため、シカゴリラさんが求めたのがパパ同士のコミュニティ。

「サードプレイスのような場所があるといいなと思い、自分と同じ境遇のパパと話せる場を探したんですが、オンライン上にはほとんどありませんでした。それなら自分でつくろうと思い、『パパ育コミュ』を立ち上げたんです」

シカゴリラさんが立ち上げた「パパ育コミュ」
シカゴリラさんが立ち上げた「パパ育コミュ」

「パパ育コミュ」では、子育て中のパパから悩みの声が多く届くそう。

「特に多いのは『子どもの夜泣きをどうしたらいいですか』『睡眠不足がつらいです』というもの。先輩パパが自身の経験やアドバイスを送って、交流が生まれています。

うちの子も夜泣きがあったので、私が子どもたちと一緒に20時に寝て、深夜2時くらいに起きて、早朝に泣いたらミルクをあげたりあやしたり。その間、妻には寝てもらうという分担制にしました。

夜中にママが授乳している間、自分も何かしなきゃって思うパパは多いんですが、それだと共倒れになる家庭も見てきました。睡眠不足は産後うつにも影響すると思うので、あまり頑張りすぎずに夫婦が互いに任せるところは任せて、メリハリをつけることが大切だと思います」

育休経験者の“声”がたくさんのパパを動かす

2度の育休を取得したシカゴリラさんは、現在“パパキャリ”を試行錯誤中。

「子育てと仕事の両立のことです。今は子どもが小さいので、お金よりも子育ての手間がかかりますが、将来の学費や養育費を貯めるために仕事もしないといけない。いかに仕事を調整しながら稼ぐか、そのバランスが難しいなと」

子どもが幼いうちは育休や時短勤務が使えるが、いずれフルタイムで働くことになる。

「育休が明けたばかりの今は在宅やフレックス制で調整させてもらっていますが、ずっと続けられるわけではありません。

子育てのために、総合職から地域職や契約社員に変更するという選択肢もありますが、現在の制度だと、総合職に戻れる可能性は低い。働き方の柔軟性を上げ、家庭を優先しながらの労働を実現することが、これからの課題だと感じています」

(画像:イメージ)
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そのために重要なのは、今以上に育休を取得するパパが増えること。

「育休推進に大切なのは、育休を取得したパパが『取って良かった』と、声を大にして伝えること。私の後に後輩が続いたように、前例となる人がいると取りやすくなると思います。

また、ママがパパに『育休を取って』と言いやすい社会になると、取得が進む気がします。大抵のパパは、ママにそう言われたら、たとえ上司に反対されたとしても簡単には引き下がれないと思うので(笑)。そのためにも、経験を伝えていくことは大切ですね」

最後に、育休を検討しているパパへのメッセージをもらった。

「半年や1年という長期の育休は、取得していいか悩むと思います。しかし、人生100年時代といわれる今、1年は人生の1%。その1%を家族のために使ってもいいんじゃないかと思います。

育休を取得したパパの98.9%が『取って良かった』と言っていますし、仕事に振り回されずに家族と過ごす時間を持つことで、その後の人生が豊かになると感じています。後悔することのない人生を送りましょう」

シカゴリラ
「パパ育コミュ」代表、3児の父。金融系企業に勤めながら、第2子、第3子の出生時にそれぞれ1年間の育休を取得。育休中に「パパ育コミュ」を立ち上げ、男性育休に関する情報を発信している。電子書籍『男性の育休白書2021 パパママ535人の声を大にして言いたい“つぶやき”』『男性の育休体験記2021 15人のパパと1人のママのドキュメンタリー』『育休取得者の失敗から学ぶ、知らないと損する「50のこと」』を出版

取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。