コメどころ蘭越町 実りの秋

米どころの北海道蘭越町では、本格的な出荷の時期を迎えている。

ヒ素を含む水蒸気の噴出は収まったが、未だ続く風評被害に苦しんでいる。

前を向いて進む農家と、それを支える人たちの思いとは。

収穫したばかりの新米の出来を見定める西澤雅明さん、70歳。

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稲作農家の4代目だ。

15ヘクタールの水田で「ゆめぴりか」と「ななつぼし」を栽培している。

“風評被害”大きな痛手に

実りの秋を迎え、気がかりなことが。

「風評ですね。実際に私のところに注文が来ない。まさか、こういうことになるとは思わなかった」(稲作農家 西澤 雅明さん)

例年だと8月中に約250キロの注文が入るが、2023年はまだないという。大きな痛手だ。

「ヒ素が入った水は使っていません。それを、どういうふうにして納得してもらうか」(西澤さん)

6月29日、蘭越町の地熱資源調査の掘削現場から、突然水蒸気が吹き出した。

噴出は約2か月続き、周辺の一部の川からは農業用水の基準を超えるヒ素が一時検出されたのだ。

町は大事をとって、同じ水系の川からの取水を停止。

「生産者の皆さんは、水が必要な時期だった。協力してもらい、取水を止めました」(蘭越町 金 秀行 町長)

取水の停止は、安全が確認できた7月5日まで7日間続いた。

すでに基準値は大きく下回っているにもかかわらず、蘭越町役場や生産者には問い合わせが相次ぎ、買い控えなどの風評被害が起きている。

ヒ素の毒性に詳しい専門家は、農作物の安全性について。

「栽培しても大丈夫な濃度であるということが確定している。もう一点、水蒸気が出ていた場所が農作物を栽培している所とは離れているので、直接水蒸気にさらされるとは考えにくいことから安全だと考えられる」(大阪公立大学大学院 医学研究科 鰐渕 英機 教授)

風評被害に負けない!安全性をアピール

町長は農作物への支援を呼びかけるメッセージを、町のホームページに掲載している。

「数値をきちんと毎日測定して水を使っているから全く問題ないというメッセージを、私の名前を使ってみなさんに発信する」(金 町長)

蘭越町のホームページ
蘭越町のホームページ

風評被害を心配しているのは農家だけではない。

「応援しています」届く励ましの声

蘭越町の菓子店「おかしのほりかわ」では、地元産の米粉を使ったロールケーキや焼き菓子が人気でふるさと納税の返礼品にもなっているが、「きちんと検査をしたのか」という問い合わせがあったという。

一方で、こんな反応も。

「注文した人から励ましの『風評被害が大変でしょうけど頑張ってください、応援しています』とメッセージをもらって、すごくうれしかった」(おかしのほりかわ 堀川 純子 さん)

蘭越町で行われたお祭り。神輿渡御は4年ぶりとなり、コロナ禍と水蒸気の噴出で沈んでいた町に活気が戻った。

「JAようてい」によると、2023年にこれまで集荷した蘭越町産のコメの出来はほとんどが一等米で、品質は例年並みだという。

風評被害に負けず、町は前に進んでいる。

北海道文化放送
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