78年前の沖縄戦では21の学徒隊が編成され、多くの若者が戦場に駆りだされ、犠牲となった。96歳の渡口彦信(ひこしん)さんは、仲間の慰霊を続けながら学徒兵だった自身の経験を語ってきた。「二度と沖縄を戦場にしてはならない」と力を込める渡口さんは、いま危機感を募らせている。

摩文仁に来ると胸が締め付けられる 申し訳ない気持ちで…

糸満市摩文仁(まぶに)に建立された全学徒隊の碑。2023年6月14日に3年ぶりの集会が開かれた。

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元学徒兵 渡口彦信さん:
摩文仁に来ると、胸が締め付けられる思いがします。何か悪いことをした、何か申し訳ないという気持ちがあります

読谷村に住む渡口彦信さんは当時、県立農林学校の3年生。卒業を目前に徴兵された。

配属されたのは高射砲部隊。しかし圧倒的な勢力で迫るアメリカ軍によって、部隊は南部へと追いやられた末に解散。

渡口さんは摩文仁で捕虜となり、ハワイの収容所へ送られた。

元学徒兵 渡口彦信さん:
後世に、この我々が味わったむごたらしい戦争を、二度と味わわせてはいけない

軍国少年だったという渡口さん。少年を戦場へと駆り立てたのは何だったのか。

世界を日本が制するのだから英語は必要ない

沖縄戦の前の年、1944年3月に日本軍は南西諸島の防衛強化を目的に、沖縄に第32軍を組織した。

渡口さんが通う県立農林学校も兵舎として使われ、軍事教練などが行われるようになった。

元学徒兵 渡口彦信さん:
配属将校が学校に配置されて。世界を日本が制するんだから、英語は必要ないということで、英語の学科も廃止されていましたよ

日本は南太平洋の戦闘で次々と敗れ、6月にはサイパン島などが陥落。しかし、国民には戦争の大義と日本軍の勇猛な姿だけが伝えられていた。

元学徒兵 渡口彦信さん:
みんな日本が勝った勝った、アメリカ軍の軍艦を撃沈するとかね、日本の飛行機が爆撃している勇ましい格好しかうつりませんからね

元学徒兵 渡口彦信さん:
我々は100パーセント信じていた。日本は強い国だと

農業指導員を目指していた渡口さんも、次第に軍隊に憧れを抱くようになった。

元学徒兵 渡口彦信さん:
戦闘機が隊列をなして南に向かって飛んでいくのに憧れたんですね。それで私は予科練(海軍飛行予科練習生)を受験したんですが、すぐ落とされたんですね。布団をかぶって、自分の書斎でしくしく泣いていましたよ

戦争は外国でやるとしか思わなかった まさか沖縄が戦場になるとは

18歳の渡口さんに徴兵検査の通知が届いたのは1945年の2月。徴兵年齢は17歳に引き下げられていた。

元学徒兵 渡口彦信さん:
日本は絶対、絶対負けることはないと、信じ切っていましたからね。強い国だと

しかし、この時すでに日本軍は兵力不足に陥っていた。

アメリカ軍の侵攻が迫り、本土からの増援が見込めなくなった1945年3月には、大規模な防衛召集が行われ、14歳以上の男子生徒が二等兵として従軍させられた。

法的な根拠もないまま、沖縄の少年たちは根こそぎ動員された。

(Q.戦争に自分が行くということを、どれだけ想像できていたか?)

元学徒兵 渡口彦信さん:
戦争は外国でやるんだとしか思っていなかった。まさか沖縄が戦場になるとは、あのとき夢にさえ、誰一人思わなかったと思いますよ。騙されたわけですよ。そういう空気になっていた

線香を立てに行ったが言葉が出なかった

国や報道機関が情報統制下で作り上げた社会の空気が人々の口を塞ぎ、悲劇を連鎖させたと渡口さんは指摘する。

元学徒兵 渡口彦信さん:
何かあれば非国民と言われる。非国民と言われるのは怖いですよ。皆が国家総動員で(戦争に)向いているときに、自分ひとり後ろ向きはできないでしょう

元学徒兵 渡口彦信さん:
対馬丸。あれも全く秘密でしたよ。隣近所の子どもが犠牲になったので知っとったが、全く話は外でしませんでした

渡口さんが戦争体験を語る原点は、幼なじみの死であった。

元学徒兵 渡口彦信さん:
靖国の桜の下で会おう。徴兵検査のあと、そう言って別れた12人が犠牲となりました。線香を立てに行ったが言葉が出なかった。自分は生きていて、皆は亡くなっているでしょう

元学徒兵 渡口彦信さん:
幼い時から家族的なお付き合いをしている仲ですからね、それが辛かった。社会のため、亡くなった犠牲になった人のために、少しでも尽くそうという気がいつもあるわけです。でも…戦争の話をすると辛いです、本当は

戦争は美名の下でやる 危険な状態に迫っているような気がする

渡口さんは、対中国などを念頭に進められる自衛隊配備の動きに危機感を募らせている。

元学徒兵 渡口彦信さん:
戦争は美名の下でやる。台湾問題でもあれでしょう。先島に軍備をやったりしているでしょ。国も本当に真相や事実を発表するのか。危険な状態に、段々と一歩一歩迫っているような気がして

抑止力の強化に重きを置く国の姿勢は、78年前の姿と重なると渡口さんは言う。

元学徒兵 渡口彦信さん:
戦争は人を殺すのが英雄だと。そんな馬鹿な社会を作っちゃいかんと思う。戦争が始まったら、もうおしまいですよ

悲劇を繰り返さないために、歴史の教訓から何を学び、平和を守るためどう活かしていくのかがいま問われている。

(沖縄テレビ)

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