「フード(食べ物)」と「テクノロジー(最新技術)」をかけあわせた造語「フードテック」。新しい食材を開発したり、効率的な生産・加工方法の確立など、食の可能性を広げようという取り組み。

この記事の画像(26枚)

近年、世界的にも注目が高まっているこのフードテック。愛媛県内でも最先端の取り組みが進んでいる。

ベジタリアンな「魚」にAIがエサやり

宇和海に面した深い入り江にいけすを構えるのは、愛媛・西予市三瓶町の養殖会社「赤坂水産」。

赤坂水産・赤坂竜太郎取締役:
こちらが「白寿真鯛0」という魚です

いけすの中を元気に泳ぐマダイは、フードテックによって誕生した赤坂水産のブランドマダイ「白寿真鯛0」で、2022年の2月から本格的に出荷されている。

内木敦也アナウンサー:
ほかのタイとの違いは?

赤坂水産・赤坂竜太郎取締役:
この魚は魚を食べずに育ったマダイ。魚の代わりに野菜をあげて育ったベジタリアンなマダイ

一般的に、養殖のマダイには天然のカタクチイワシの魚粉を使ったエサが与えられているが、こちらのブランドマダイには、一定の期間、魚粉を全く使わないエサを与えている。

赤坂水産・赤坂竜太郎取締役:
世界的にサステナブルな水産業への取り組みが求められていて、魚を使わないエサで魚を育てられないかと考えたのが始まり

実はマダイを1kg大きくするには、4kgものカタクチイワシが必要だと言われていて、近年では漁獲規制で、エサに使われる魚粉の価格も高騰している。

そこで赤坂水産が飼料メーカーと開発したのが、「魚粉を全く使わないエサ」だ。原料は白ゴマや大豆などの植物性タンパク質で、マダイの成長期に半年ほど与えることで、魚粉の量を3割から4割減らせるため、水産資源を守りながら、養殖魚を安定して供給できるという。

さらに、このブランドマダイの飼育には、先端の情報技術を活用した「スマート養殖」を導入。

赤坂水産・赤坂竜太郎取締役:
ソナーで魚がどのくらいの深さにいるかを測定します

例えば、マダイは空腹になると、海面近くに上がってくる習性を利用し、ソナーで魚の群れの深度を探知。その情報をもとに人工知能「AI」が、マダイの「食欲レベル」を数値化し、空腹のタイミングで、適切な量のエサを自動で与えることができる。

赤坂水産・赤坂竜太郎取締役:
人の手で一日中タイを見ることはなかなか難しい。この機械あってこその大規模生産

握ってもあぶってもおいしい

赤坂水産が育てた白寿真鯛0は、西予市のすし店で提供されている。

植物性タンパク質のエサを与えたブランドマダイは味も特徴的で、一般的な養殖マダイと比べて臭みがなく、身を熟成させて食べることもおススメだという。

今回はこのマダイを8日間熟成させた「炙り寿司」と、この日水揚げされた「握り寿司」で食べてみた。まずは握り寿司をいただくと…。

内木敦也アナウンサー:
コリコリ感が、かなりあるんですね。しっかり歯ごたえある

続いては、熟成の炙り寿司。

内木敦也アナウンサー:
やわらかいですね。みるみるうちに溶けてなくなる。ご飯と一緒に

西予市のすし店 和泉屋・宇都宮大輔さん:
1日目が好きな人、2日目が好きな人、僕は3日目が好き。熟成させる日にちによって、味が全然違う

サステナブルなエサと、先端のスマート養殖が融合して生まれた「白寿真鯛0」は、これまでに国の内外に約3万5,000匹を販売。

今後、赤坂水産では、このマダイならではの新しい料理や食べ方を、顧客に提案していきたいとしている。

カイコの繭を食品へ

続いてのフードテックへ。

出迎えてくれたのはユナイテッドシルクの河合崇社長。工場には見慣れない機器が設置されているが、ここはカイコを育てる養蚕工場だという。

ユナイテッドシルク・河合崇社長:
カイコを育てていますので見て頂けたら。あと1週間くらいすると糸を吐いて繭になろうとする

美しい光沢になめらかな肌ざわり。天然繊維・シルクの原料となるのがカイコが吐き出す繭。ユナイテッドシルクではこの「繭」をフードテックしている。

工場では、コンピューターで、カイコの成長に適した温度や湿度などを自動で管理する、国内でも先進的な「スマート養蚕」システムを導入。従来の養蚕ではカイコの飼育期間は5月から10月に限られていたが、スマート養蚕では1年を通した飼育ができるようになり、この工場では年間500kgの繭を安定して生産できると言う。

ユナイテッドシルク・河合崇社長:
サナギを取り出して、白い部分からタンパク質成分「フィブロイン」を抽出する

フィブロインはカイコの繭に含まれるタンパク質成分のひとつで、保湿性などに優れているという。

工場では特殊な機器で繭を溶かして、水溶液にしたあと、不純物を取り除く独自の加工技術で「フィブロイン」を抽出し、粉末化している。その名も「シルクパウダー」。

内木敦也アナウンサー:
香りないですね

ユナイテッドシルク・河合崇社長:
そうなんですよシルクパウダーは無味無臭、味がない

河合社長によるとこのシルクパウダーを食品に加えると「フィブロイン」が持つ保湿性で、モチモチ感やしっとり感が生まれるそう。

そして、松山市のフランス料理店では、このシルクパウダーを使って焼き菓子を作っている。カヌレやマカロンなどの生地やクリームにシルクパウダーが使われている。

創作レスト・サブリナ安永秀樹シェフ:
シルク自体が化粧品で使われたり、保湿効果があり、焼き菓子にも合うかなと

カヌレには、シルクパウダーだけでなく、カイコのエサとなる桑の葉の茶葉も使って、シルクの物語性を込めた。

内木敦也アナウンサー:
最初カリっとしてるんですけど、中がしっとりフワフワ

ユナイテッドシルクでは、シルクパウダーと「食」の組み合わせで、愛媛産シルクを身近に感じてもらい、普及につなげたい考えだ。

ユナイテッドシルク・河合崇社長:
「食」は非常に大きな産業。愛媛の食の高付加価値化を目指すには、シルクがぴったり

「食」の可能性を広げるフードテック産業。地域資源の魅力を引き出すアイデアが、新たなビジネスチャンスを生んでいる。

(テレビ愛媛)

テレビ愛媛
テレビ愛媛

愛媛の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。