6月19日に開かれた、近畿地方2府4県の私立高校で作る連合会の会議。

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その中で、関係者が「大阪府のやり方について極めて憤りを感じている」と怒りをにじませたのは、2023年4月の大阪府知事選で、吉村知事が少子化対策の一環として公約に掲げていた、所得制限なしの高校授業料の「完全無償化」についてです。

興国高校 草島葉子校長:
近畿では一丸となってこれ(授業料完全無償化)には賛成できない。反対であるという姿勢を持っています。

5月に発表された素案に、兵庫県の名門・灘高校を始め、近畿地方の名だたる私立高校が加盟している「私学連合会」が猛反発する形になりました。

現在の制度では、私立高校の年間授業料が60万円未満の場合、世帯年収に応じて一定額を各家庭が負担し、残りを国と大阪府が負担しています。
60万円を超える分については、年収800万円未満の世帯については学校側が負担。
世帯年収が800万円を超える場合は、各家庭の負担となっています。

ところが、新たな制度では所得制限を撤廃。60万円未満の授業料については、すべて国と大阪府が負担し、60万円を超える授業料については、全額学校側が負担することになるのです。

私立高校側は、授業料が60万円を超える学校も少なくないため、教員を減らすなどのコスト削減の結果、教育の質の低下を招くことになるのではと懸念しています。

さらに、新制度案の対象は、大阪府内に住む高校生となっていますが、仮にこの生徒が府外の学校に通う場合でも、その高校の負担が増える可能性があります。
その一方で、近隣他県に住んでおり、大阪府の私立高校に通う生徒は、完全無償化の恩恵を受けることはできません。

兵庫県の灘高校の前校長もこの点に言及。

灘高校 和田孫博 前校長:
兵庫県の生徒にも同じ条件が整わないわけですから、(兵庫)県内の生徒がまあ、ある意味で“不公平で不利”というようなことは、認められないかなという風に思っております。

私立高校特有の教育環境が“縮小” 負担増の可能性も

大阪府内にある興国高等学校の草島葉子校長は、「めざまし8」の取材にこう話します。

興国高校 草島葉子校長:
(新しい制度に参加して)推進校の中に残って、お金をちょうだいしようとすると、やっぱり入学金とか施設設備費を取らなきゃならなくなるんですね。入学の時のお金がすごい跳ね上がっちゃうんですよね。所得の低い層にとっては、入り口でお金が増えてしまって、かえって高くなってしまうんです。

授業料が無償になっても、その分 入学金などを値上げせざるをえない可能性があるというのです。

学校教育に詳しい日本大学の末冨 芳教授は、「私立特有の手厚い教育環境を縮小せざるをえない状況になる」と指摘。それによって、例えば、語学に特化した教員を減らしたり、海外プログラムなどが廃止になるなどの影響が出てくる可能性も。

大阪私学連よると、授業料無償化制度に参加した場合、年間最大8000万円の負担増になる高校も出てくるといいます。

大阪府は、「私学に関しては、“無償化制度”への参加は自由」だといいますが、参加しなかった場合、私学側は府からの支援金を受け取ることができず、授業料を上げて、生徒の負担が増加する可能性があると言います。

日本大学 末冨 芳教授
日本大学 末冨 芳教授

日本大学 末冨 芳教授:
今までの無償化、あるいは完全無償化を前提に、この私立高校に行きたいんだと頑張る気持ちを持っていた生徒さんたちにとっては、機会が閉ざされてしまいます。同時に無償の学校と、有料の学校に分かれてしまうと、本当は別の学校に行きたかったんだけど、無償なので無償の学校に行くと、不本意な進学の問題も生まれてきてしまうという懸念があります。

さらに、「めざまし8」のコメンテーターであり、元衆議院議員の金子恵美氏は、“教育の質”が低下する可能性があるのではと指摘します。

金子恵美氏:
無償化自体は、保護者の方にとってはありがたい、歓迎したいということもあると思うんですが、一方でこれまで授業内容充実のために投資をしてきた学校側からすると、学校側の負担が増える。そうなればこれまでの高い教育の維持というのが、非常に難しくなるという可能性があることを、保護者の方もやっと分かったのではないかなというふうに思うんです。
私学である理由って、施設の良さ・きれいさとか、先生の指導が手厚いとか、ここになるので、人件費と施設運営費を削るとなると、これはとても痛いことだと思うんですよね。

金子恵美氏:
今団体側がいっているのが、行政負担この60万を増やしてほしいというのと、私学助成金を増やしてほしいと要望しているんですけど、私学助成金って、大阪は都道府県で考えるとワースト2位なんです。低い、少ない。そこをなんとか上げてほしいと団体側はいっているんですけど、吉村さんはそこは寄付でまかなってはどうかといっているわけです。そこも検討していくことになるかもしれないんですけど、いずれにしてもそれぞれの特色があるのが私学の良さだと思うので、それが失われることが無いように、それぞれの良さが維持できるように府政には努めてもらいたいなと思います。

日本大学 末冨 芳教授:
無償化は非常に重要な政策なんですけれども、同時に世界と戦える日本の教育であるという、教育の質への投資というものも含めて、大阪の教育完全無償化の問題は問いかけていると考えています。

大阪府は8月までに制度案を固める方針で、吉村知事は丁寧な説明を続けるとしています。

(めざまし8 6月21日放送)