石川県能美市にあるいしかわ動物園で、2023年に誕生したユキヒョウの赤ちゃんがすくすくと育っている。しかし今、一部の撮影マナーが問題となっているという。何が起こっているのか取材した。
職員が来ると飛び跳ねて喜ぶ
ちょっと見えにくいところに隠れているユキヒョウがいる。オスの「スカイ」だ。ユキヒョウは元々警戒心が強い動物だが、慣れている職員が近づくと大きくジャンプして喜んだ。
この記事の画像(13枚)野生のユキヒョウはヒマラヤ山脈など極寒の高山で生活する。世界で最も高い土地に住むネコ科の動物で、岩場などを軽々と飛び越える脚力を持ち、ジャンプ力はネコ科でもトップクラスだ。いしかわ動物園企画教育係の市保友恵さんは「特にスカイはジャンプしながら遊ぶのが好きなので、来園当初から女性の職員に遊び好きな面を見せることが多くて、職員を選びながら遊んでくれる子ですね」と説明する。スカイは自慢の脚力を見せつけ、男らしさをアピールしたいのかもしれない。
熱狂的な人気誇る“幻の動物”
スカイがいしかわ動物園にやって来たのは2013年。当時、日本国内で飼育されていたユキヒョウは約20匹と少なく、日本海側で初めて飼育されるユキヒョウだった。ユキヒョウは地球温暖化の影響などで絶滅危惧種に指定されていて、人がめったに出会うことができないため「幻の動物」とも呼ばれている。「中にはユキヒョウを追いかけて移住してくる方もいます。それだけコアで好きな方が多いんです」と市保さんはユキヒョウの魅力に太鼓判を押す。
動物園待望の赤ちゃん誕生
2022年1月、いしかわ動物園にやってきたのがメスの「ジーマ」だ。2023年3月には動物園が待ち望んでいたメスの赤ちゃんを出産した。
いしかわ動物園でユキヒョウの赤ちゃんが誕生するのは初めてのこと。基本的にユキヒョウは母親のみで子育てを行い、付きっ切りで子どもの様子を見守るという。
赤ちゃんが生まれた当時、体重は1.5kgだった。しかしわずか2カ月半で倍以上の4.0kgに。その後は肉も食べ始め、すくすくと成長してきた。
“マナー違反”受け一般公開を延期
いしかわ動物園では母子ともに刺激を与えないようにと当初、一般公開はされていなかったが、赤ちゃんも徐々に環境に慣れてきたようで、9月からは曜日や時間を限定して公開が始まった。
しかし、ここで問題となったのが一部の人たちの撮影マナーだった。
ユキヒョウの展示スペース前は平日にも関わらず、カメラを構えた人たちがずらり。連日、全国各地から熱狂的なファンが訪れている。それというのも2023年に国内の動物園でユキヒョウの赤ちゃんが生まれたのはここだけなのだ。10月には投票形式で、赤ちゃんの愛称が「ヒメル」に決まり、ユキヒョウ人気は留まることを知らない。
いしかわ動物園はホームページ上で「マナーを守っていただけないお客様が増え始め、このままではガラス通路の開放がもっと先に延びてしまいます。ぜひ大人は子どもたちのお手本になってください」と呼びかける。ガラス通路はガラス張りのケージ越しに動物を観覧できる設備だ。
「大人は子どもの見本に」
特に問題となっているのは一部の撮影者による場所取りや、檻の前にある柵に上るなどの行為だ。「いつも来ているお客さんからも、ごく一部の人について『柵の近くで撮ったり、柵の上に上がってたよ』というお話も来る。お子さんが柵に乗るというのはよくある話なんですけど、大人の方が『もうちょっとで見える!』って…やっぱり乗りたくなるのかな」といしかわ動物園の大井毅獣医師も困惑している。こうした事情で今は開放していないガラス張りの通路だが、わずかな隙間から撮影を試みる人もいたそうだ。
「『ここで撮れるわ~』って思ったら他の人も来ちゃいますよね。気持ち的にはよく分かりますけど、みんなでそうしているとなんかね…」と大井獣医師はなんとも言えない表情で話す。このままではガラス通路や屋内の展示室は安全管理の問題から開放できないという。「ますます馴致が進まなくなる可能性はあるので、できるだけ驚かさないようにしたい。ユキヒョウの赤ちゃんは大変かわいいので、皆さんが気持ちよくみられるような形で観覧していただけるといい」。当初、一般公開は10月中を予定していたがそれも延期となってしまった。来園者には何より節度ある観覧が求められている。
(石川テレビ)