解散するのかしないのか
昨日(15日)夕方の4時前に旧知の官僚から電話があり、「明日解散で7/23選挙という報告が複数来た」という。僕はその前日に、ある野党幹部から「解散はない」と聞いていたので、おかしいなと思い会社(フジテレビ)に電話すると、「政治部が解散だと騒いでいる」という。どうやら立憲が不信任案提出の方針を固めたらしい。
ただフジテレビをつけてニュースを見ると「不信任が出たら首相は解散を検討」と、抑え目のトーンでしかやっておらず、イライラすること1時間。結局6時過ぎに首相が「今国会中には解散しない」と表明。広島サミット終了時から一か月近く吹き続けた「解散風」はようやくやみ、解散は秋以降に先送りになった。
この記事の画像(5枚)岸田氏は「解散しなかった」理由を、少子化対策や賃上げなどの「先送りできない課題」を「まずは前に進めていく」ためだと説明した。だが広島サミットの成功で内閣支持率が急上昇し、岸田氏が一時解散に大きく傾いていたのは事実だ。
解散しなかったではなく、できなかった
ただ息子の不祥事や、マイナンバーカードのトラブルなどで支持率は下落傾向となり、直近の衆院小選挙区の情勢調査の結果が悪かったこと、さらに公明との選挙協力が暗礁に乗り上げていることもあって、「解散できなかった」というのが本当のところではないか。
サミット効果による支持率アップに加えてもう1つの早期解散の理由として、統一地方選で急速に勢いを増した維新の準備ができないうちに衆院選をやってしまった方がいいということも挙げられていた。
さらに言うと維新が強くなってしまうと、自民と支持層がカブるので支持者をごっそり取られてしまう恐れがある。もし維新が野党第1党になると立憲よりはるかに厄介なのだ。だから自民党内には今やれば第1党はたぶん立憲のままだし、自民の議席も微減ですむのならその方が「マシ」だと言う人までいた。
ただ岸田氏が散々「解散カード」をちらつかせたにもかかわらず立憲は「どうせ解散できないだろ」と言わんばかりに不信任を出す事を決めた。岸田氏は選挙を戦うには「地合い」が悪いと判断して解散は見送った、このシナリオパターンだと岸田氏は勝者ではない。
岸田氏の解散カードはすでに弱い札?
今回の解散先送りを受けて、次のタイミングは秋に招集される臨時国会を軸に検討されることになるようだ。ただ岸田氏が本当に「先送りできない課題を前に進めていく」のならば、防衛力強化や少子化対策の国民負担をどうするかについてある程度の結論を出して、それで信を問うのが筋だろう。それだと選挙は来年になる。
解散カードというのは一度だけ「エイヤッ」と切るものである。そして野党や有権者をびっくりさせるものである。カードを持ったまま、「切ろうかな、やっぱりやめようかな」とか言っていると、「どうせ切れないんだろ」と足元を見られるものなのだ。
岸田氏は今回、「課題を前に進める」と称して解散しなかった。それが本当なら次に解散しようとすると必ず「課題は前に進めなくていいのか」と批判される。
つまり岸田氏の持つ解散カードはすでに「弱い札」になりつつあるのではないか。しかもこのまま愚図愚図と解散できないと維新の準備はどんどん進む。またLGBT法案の強引な採決で保守派支持層の自民離れも指摘され、保守新党結成の動きもある。だから岸田氏は今回解散しなかった事をそのうち後悔することになると思うのだ。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】