渋滞に見る“自分優先主義”
中国・北京で誰もが経験するのが交通渋滞だ。日本と違い交差点の中にまで車両が入るため、ひどい時には縦横斜め全てが行き詰まる無秩序に陥る。まさに「にっちもさっちもいかない」状態で、それが渋滞にさらに拍車をかける悪循環だ。
![北京の交差点では”カオス状態”がよく見られる](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/5/700mw/img_e5f9a8937f5d256c06272b2448c26185384406.jpg)
なぜ交差点にまで車を入れるのかを友人に聞いたところ「行けるときに行っておかないと損をするからだ」という。確かに中国の交差点は、方向が同じだからといって信号機の色が同じとは限らない。赤と青が交互に来る日本と違うので、信号待ちの時間は日本より長いところが多い。礼儀正しく待つよりも「行けるところまで行く」の気持ちはわからないでもない。
![渋滞が交差点内まで及ぶのは北京では日常だ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/700mw/img_4bbc97f0f494b23544d9894b824c7e2d288327.jpg)
信号待ちに限らず、北京の交通事情は先に入った方が優先で、車両同士が譲り合う光景はほとんど見ない。感覚的には、ほかの車両を優先させていると自分はいつまでたっても前に進めない。つまり自分を優先させることが求められる。
![方向が同じでも右と左で信号の色が違うことも](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/b/f/700mw/img_bf954963f1b91fe3cedb7dc7528deb98271077.jpg)
交通事情が全てとは言わないが、確かに中国は「厳しい競争社会」(中国筋)である。政策が突然変わることもあれば、コロナ禍でのロックダウンのように自由が制限されることもある。仕事や生活環境は簡単に影響を受けるし、補償金などの話はほとんど聞かず、あてにする人も少ない。「自分の身は自分で守る」が基本なのである。
![「各個人が自分の安全を守る“第一の責任者だ”」](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/a/6/700mw/img_a658c420de3d6c5f35699d6c0d5c9f59189202.jpg)
上海で焼き鳥屋を営む友人はコロナ禍の際、「いつ何があるかわからないので休めない」とこぼしていた。一概には比べられないが、中国にいると日本は人に優しい社会だとつくづく思う。
![貧富の格差は中国社会の深刻な問題だ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/d/700mw/img_5dafd18ada05a7798bb32111827111f2317932.jpg)
それを踏まえれば、中国の貧富の格差は当然の結果とも言える。14億人の競争は熾烈だし、急激な環境の変化に備え、自分の利益を追求、確保するのは当たり前だからだ。金持ちにはより金が集まり、貧しい人は浮上する余地がさらになくなる。問題は貧富の格差だけでなく、「格差が固定化していること」だと以前から言われている。
![](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/b/2/700mw/img_b24a890096978ca3ee0c14b316c2f365335250.jpg)
また、政治に参画できないことは「公」の意識を希薄にさせる。寄付の文化はほとんどない。高齢者や子供に優しい習慣があることに少しの安心を覚えるが、家族や親しい友人などの「味方」以外は、基本的に「敵」だという考え方なのだろう。中国の友人に「残りものには福がある」という日本のことわざを教えたところ、「中国では残りものを待っても意味がない。なくなるだけだ」と言われた。自分勝手という印象もある中国人だが、言い方を変えれば生き残るために必死なのだろう。
面子(メンツ)重視の中国との“付き合い”
この自分を優先する考え方は「面子(メンツ)」とも無縁でない。「譲ることは負けを意味する」(外交筋)ということもあり、アメリカとの外交交渉でもそれが顕著に表れているようだ。本音ではアメリカとうまくやりたいと思いつつ、譲歩するような姿勢を見せない、というより見せられないのが実態ではないか。
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譲歩すればメンツがつぶれるからであり、それが習近平国家主席、いわば国家のメンツにも関わるからだとみられる。「中国は皆が上を向いた、ヒラメのような状態だ」(外交筋)というように、上層部の顔色をうかがう忖度が以前よりも強まっていると言われている。
![中国に来たアメリカ代表団は歓迎された](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/f/d/700mw/img_fdda8495cd6dc2387623ded0510f352b98277.jpg)
逆に「中国はメンツさえ立ててもらえればいくらでも交渉の場に出てくる」(日中外交筋)ので、中国と交渉するには環境づくりが最も大事だ。米中の本格的な交渉再開について「アメリカのブリンケン国務長官がまた中国に来ることになる」(中国筋)との見方が聞かれるのも無理はない。アメリカ側が来ることで中国のメンツが立つからだ。
![北京で行われた米中の協議](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/e/700mw/img_5e524b1242a93503fbf6571aed05762778583.jpg)
ただ、中国のメンツを立てることは、時に無理筋な話を受け入れることにもなりかねず、そのバランスは難しい。中国との間で起きる事の大きさや性質にもよるが、中国との付き合いをやめる選択肢はないことも事実だ。安全保障上の懸念や経済的な繋がりも含め、中国と対話をするパイプは必然的に常に求められる。北京の大使館も、企業も、メディアも、時に毅然として、時に「郷に入っては郷に従え」を意識し、是々非々で対応しているのが実態だ。そこには好き嫌いではなく、得か損か、合理的か否か、という現実的な判断が多くを占める。
中国とは違う中国人
そんな厳しい中国だからこそ、日本に来た中国人はその謙虚さやサービスに驚く人が多い。ホテルに備え付けのグラスを割ってしまったある中国人がフロントに報告したところ、フロントからは「おけがはないですか」と心配されたという。その中国人はてっきりグラスを弁償するものだと思っていただけに、ホテル側の対応に驚き、一気に日本を好きになったそうだ。
![中国人の購買力、エネルギーは非常に強い](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/0/700mw/img_409824a75325e83ff090b8d5bb4885bd395399.jpg)
経済の発展と共に海外に行ける中国人が増え、異国の習慣や文化に触れ、中国の常識や正しさが絶対のものではないことに気づく人は増えた。「戦狼外交」に代表される居丈高な態度に嫌気を通り越した恥ずかしさを語る中国人もいる。
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「(国としての)中国と中国人を分けて考えるべき」という話は、特に中国に暮らす日本人の間ではよく語られている。メンツを重視するその基本は変わらなくても、時代とともに生じた中国人の心の変化を感じ取ることもまた重要だ。
(FNN北京支局長 山崎文博)