9億1,959万円。
この数字は、2022年のニセ電話詐欺の被害額。その犯罪手口は年々巧妙化し、被害は増加傾向にある。実際のニセ電話詐欺の音声を現役の捜査員とともにひもときながら、被害に遭わないポイントは何なのか取材した。

“オレオレ詐欺”の巧妙なわな

◆電話音声
「はい、もしもし」
「俺宛ての郵便って、そっちに届かんかった?」
「〇〇(息子の名前)ね?」
「そうよ」
「うん、届かんよ」
「明日、届くと思うんよ」
「うん」
「受けとっとって欲しいんよね」
「うん、受け取っとくたい」
「はーい、よろしく~、はいはい」

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聞いた限りでは「息子が母親に荷物の受け取りを頼む」というありふれた親子の会話に聞こえるが、これこそ“オレオレ詐欺”の入り口なのだ。

福岡県内に住む80代の女性宅に、突然電話がかかってきたのは2022年7月のこと。息子を名乗る男から電話があった翌日、再び電話が…。

◆電話音声
「あー、もしもし?あー、ごめんごめん、電話の調子が悪いんよ」
「うん」
「なんか知らんけど」
「うん、(郵便)まだ来んよ?」
「あー、来んか」
「うん」
「××から電話、来んやった?」
「来ん、来ん」
「あっ、来ん?」
「うん」
「来たらで、いいけんさ」
「うん」
「折り返しの連絡先だけ聞いとってくれん?」
「はい、分かりました」

声の違いを悟られないためか「電話の調子が悪い」と話す電話越しの男。まだ金にまつわる話は出てこない。

これこそ“犯人たちの常とう手段”と指摘するのは、ニセ電話詐欺を専門に扱う福岡県警犯罪抑止対策室の薄田大輔課長補佐。一緒に当時の音声を聞きながら「詐欺を見抜くポイント」を教えてももらった。

福岡県警・薄田大輔課長補佐:
「息子の声がいつもと違うよな」という疑問を解消するため、に前置きをしているところです。まずは本当の息子であることを信用してもらうため。それともう一つは、この人がだましやすい人なのか探っている状況

80代女性の信頼を高めると、電話は次のステージへと突入する。

◆電話音声
別の男「もしもし~」
「はい」
別の男「○○さんのお宅でよろしかったでしょうか?」
「はい、そうですけど」
別の男「私、△△遺失物紛失係の▲▲ですけども、○○さん、ご在宅でしょうか?」
「いえ、おりませんけど」

今度は、駅ビルの遺失物紛失係を名乗る別の男からの電話がかかって来た。この男は丁寧な口調で、女性の息子が落とした携帯電話、財布、社名の入った封筒を預かっていると女性に話してきた。

◆電話音声
別の男「携帯電話の方になるんですけど…、一応ですね、お電話が鳴り続けてしまうと業務に支障が出てしまうので、電源の方だけは切らせていただきますので、そちらの旨をお伝えいただけますでしょうか?」
「はい」

ここで、捜査のプロはこう指摘する。

福岡県警・薄田大輔課長補佐:
これは、本当の息子さんの携帯電話に連絡させないため、要は対象者の方が息子さんに連絡しても、いまはできないと思い込ませるために前置きしている状態です。本当に優しく丁寧な口調。電話の声だけで人を判断するのは非常に難しい

続けざまに、今度は息子を名乗る男から電話がかかってきた。

◆電話音声
「あー、もしもし?」
「はい」
「公衆電話からかけとるんよ」
「あー、公衆電話からかけよっとね」
「そうよ」
「△△遺失物紛失係の▲▲さんから入ったよ」
「あ、あった?」

登場人物を替え、連続して電話をかけるのは考える暇を与えないための犯人たちの巧妙なわなだ。

電話口の男は150万円を要求

そして、いよいよ本題を切り出して来た。

◆電話音声
「あー、もしもし、取りあえず、いま連絡したんやけどさ?」
「うん」
「荷物とかはあったんやけど、財布の中身を全部抜かれとって」
「あらあら~、カードは?」
「カードは止めとったけんさ」
「うん」
「警察にも行ったけど、全部、被害届け出したけんさ」
「え~、なら、いまから取りに行くとね?」
「まあ、そうなんやけどさ、きょう15日やったからさ、5、10日やけんさ、仕事の支払いもあったんよ」
「はいはい」
「通帳もあった?」
「封筒もあったって、社名が入った封筒もあったって言いよんしゃったよ」
「それも必要なんやけどさ、うん、銀行の中にお金が入っとるけんさ」
「うん」
「振り込みとかも、全部できんのよ」
「うん、何?会社の通帳も持っとったと?」
「そう」
「あら―」

電話口の男は「落としたバッグのなかには会社の通帳が入っていて、仕事の支払いができない」と話を持ち出してきた。

◆電話音声
「要は、支払いをせんと支障をきたしてしまうんよ」
「会社の支払いを?」
「そう」
「それが、されんとたい?」
「知り合いとかにも借りてるんやけどさ」
「うん」
「お金…」
「お金ば、借りとっと?」
「きょう払わんといかんけんさ」
「会社んとば?」
「そう、取引先やけんさ」
「ふ―ん。どんくらいいると?」
「残りが150万くらい足らんのよ」

男の要求金額は150万円。このまま話は進んでしまうのかと思われたが…。ここで「救世主」が登場した。

◆電話音声
「150万…、ちょっと待って、お父さんに…」
「もしもし!代わったよ!」
「公衆電話からかけとるけん、調子悪いんよ、なんか聞き取れんくてさ」

母親と電話を代わったのは息子の父親。

◆電話音声
「そうか…、いま、どこおるとや?」
「いま博多の近くよ。近くにおるんやけどさ、もし借りれるんやったら、先に用意しとって欲しいんよ」
「何を?金か?」
「うん」
「うん、あんたが取りに来ると?」
「おれが行くけん。あんま時間ないんよ」
「うちに来るのはいつ頃になるとや?こっちもすぐには、用意できんよ?」
「12時半、13時には行けるけん」
「はい分かった。じゃあ、また電話してください」

会話を怪しんだ父親。機転を利かせて本人が金を取りに来るよう伝えたうえで、一度、電話を切ることに。そして息子の携帯電話に連絡をいれたのだ。

◆電話音声
「もしもーし、あんた、電話かけたね?うちに?」
息子「え?いま?え?いつの話?」
「なんかね、妙な電話が、150万円なんか、財布やらなんやら落としたけんって」
息子「ははは、落としとらんよ」
「そいけんね。会社のお金が入っとるって」
息子「それ、詐欺やろ」

「電話は詐欺」女性の本当の息子は、そう一刀両断した。

◆電話音声
息子「おれの声やった?」
「おかしかね~って言うたら、電話の調子が悪かもんって言うじゃんね」
息子「なるほどね」
「やっぱ詐欺たい」
息子「全然、詐欺よ、それ」
「なら良かった!あー、良かった!ありがとうございました」

詐欺被害に遭わないために

「未遂」で事なきを得た今回の事件だが、福岡県警の薄田さんは最後に最も重要なポイントを教えてくれた。

福岡県警・薄田大輔課長補佐:
まずは早めに電話を切っていただきまして。1人で考え込まずに身の周りの方にまずは相談いただきたい。電話やメールでお金にまつわる話が出た時は、必ず詐欺を疑ってほしい。それが全ての手口に言える防御策なのかなと

電話口の男は、いまも別の被害者を狙って電話をかけ続けているのか?次の電話を最後に、その影を現すことはなかった。

◆電話やりとり
「何時頃、来るね?」
「13時頃になると思うんよね」
「13時くらいね」
「うん」
「あんたが来るとやろうもん?本人さんが」
「おれ行くけん、ちょっと待っとって」
「はい、待っときます」

ニセ電話詐欺の被害は、認知件数と被害額が2年連続で増加している。被害額については2年前と比べると2倍以上にもなっている。

警察がいくら摘発してもなぜなくならないのか。その理由の一つに挙げられるのが「闇バイト」の存在。SNS上の書き込みには「高額案件急募で入ってます」などと闇バイトを募集する投稿があふれている。これに応募すると、ニセ電話詐欺で金を受け取る「受け子」や金を引き出す「出し子」など犯罪行為に加担させられる可能性が極めて高い。

福岡県警はこのような投稿に対して警告文を書き込み、アカウントを凍結させるような取り組みに力を入れていて、2022年は1,800件ほどの注意喚起を行っている。

(テレビ西日本)

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