映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が世界中で大ヒットしている。

全世界での興行収入は1700億円を超え、日本では公開31日で100億円を突破した。

ニューヨークで配管工を営む、マリオとルイージの兄弟が謎の土管に入り、迷い込んだ魔法に満ちた世界が舞台。

離ればなれになった兄弟が絆の力で世界の危機に立ち向かう物語は、子どもだけではなく、大人も魅了している。

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日経BP総合研究所客員研究員の品田英雄さんと映画評論家の前田有一さんが『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ヒットの要因、そして日本が誇るキャラクタービジネスについて語った。

大人でも楽しめる仕掛けがいっぱい!

前田有一:
この映画の特徴はすごく映像がカラフルで、世界中のどの国の人が見ても面白いなと思える仕掛けになっている。

アクションシーンもいっぱいあるが、どれも考え尽くされ、映画的に見ても新しいアイデアだなと思うようなところもあったり、いろんなアイデアを詰め込んでいた。

映画評論家 前田有一さん
映画評論家 前田有一さん

品田英雄:
キャラクターの魅力作りだったり音楽のからめ方だったり、すごく丁寧に作ってあって、ゲームファンが本当に喜ぶようなものに出来上がったところが、世界的に多くの人の心をつかんだのかなと思う。

すごくキャラクターを好きになって帰ってくる、ゲームをやりたくなって(映画館から)出てくるという感じで、その辺がすごいなと思った。

ヒットの要因(1)「世界を狙った戦略」

前田:
この映画は任天堂のゲームを「イルミネーション」というアメリカのアニメスタジオがアニメ化したもの。一番有名なのが『ミニオンズ』で、世界中で11億ドル以上の大ヒットとなった作品。

とにかくかわいらしいキャラクターをはつらつとした動きで描かせたら、世界でも有数のスタジオなんです。

イルミネーションと任天堂は2016年ぐらいから水面下で話し合いをしていて、徹底的に任天堂が関わって作った。キャラクターに強い「イルミネーション」と任天堂がタッグを組んだということは、今になってくると必然だったなと感じる。

――マリオがいかに世界的なキャラクターかということが映画のヒットにつながっている?

日経BP総合研究所客員研究員 品田英雄さん
日経BP総合研究所客員研究員 品田英雄さん

品田:
ゲームが1985年発売で40年近く経っているが、「パ・パッパ・パッ・パッパ・パ」って(音は)みんな聞いている。

すごくなじんでいて、そういう下地がある所に映像化するということの楽しみと、実は難しさもあって。

ゲームがヒットしたからといって、映画がうまくいくとは限らないが、今回とてもうまく作っているんだなと思う。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』大ヒット上映中 配給:東宝東和 ©️2023 Nintendo and Universal Studios
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』大ヒット上映中 配給:東宝東和 ©️2023 Nintendo and Universal Studios

前田:
特に「マリオ」というコンテンツの場合は、日本国内よりも海外市場の方がはるかに大きな売り上げを上げるだろうと言われていた。

まずはアメリカ・欧米から公開していって、そこで大ヒットすると、「大ヒットした映画だよ」ということで日本に持ってくるやり方をした方が、日本でも「じゃあ見るか」という人が増える。

ヒット要因(2)「没頭できる世界観」

前田:
原作がある映画化でよくある失敗例は、原作者があまり映画作りに関わらなかったせいで、原作やゲームと全く違ったイメージの映画になり、ゲームファンの没入を阻害する原因になったりするが、この『マリオ』は任天堂が何年も前から密接に関わっている。

例えばいろんな任天堂のキャラクターが出てくるが、どのゲームのキャラクターを出すか、どのゲームのシーンを出すかとかいうところまで、すごく細かく打ち合わせをしたそうなんです。最終的にはゲームの熱烈なファンが見ても違和感なく入っていける。

ゲームの熱烈なファンが見ると、すごく細かいところに隠れキャラのように、いろんな小技や小ネタが入っている。熱烈なファンはそこに気づいて楽しめて「オレのための映画だ」と思える。そんな仕掛けがいっぱいある。

ヒット要因(3)「ヒロインや多様性のこだわり」

前田:
ハリウッドは今、女性が強い映画が多い。今年の秋の最新作で『マーベルズ』という映画があるが、3人ヒーローが出てきて、3人とも女性なんです。

流行にうまく合わせているなと思ったのは、初代のアクションゲームの中では「ピーチ姫」は「クッパ」にさらわれて、とらわれの姫君でしたが、この映画版では自分で戦う自立した女性として描かれていて、こういうヒロインの方が今はすごく受ける。これもヒットした要因だと思う。

品田:
「ピーチ姫」は見てほれましたよね。

バイクに乗るシーンを見ていると、今までのゲームをやっている時には感じないような「ピーチ姫」の魅力がどんどん出てきて素晴らしかった。

それで言うと、「クッパ」でさえも感情移入できる部分があったりして、単なる悪役じゃないというのを感じるのもすごい。

いろんなキャラクターをみせて、いろんなキャラクターを好きになってもらって、さらにキャラクターグッズを買ってもらうというところまで、考えてあるんじゃないかなと感じた。

――確かに全キャラクターを好きになるというか、自分の“推し”が見つかりそうですよね。

前田:
今ハリウッドは「多様性」というのも、もうひとつ大きな流行のテーマ。

トランプ前大統領が出てきた時に「移民排斥」を言い出したが、移民の集まりであるハリウッドの映画業界が反発をして「いろんな人たちがいていいじゃないか」ということで、「多様性」をテーマに含む映画を作りだしたというのが始まりなんです。

今回映画なので、ある程度設定を加えているが、ニューヨークという人種のるつぼである所に、移民である「マリオ」と「ルイージ」は配管工の仕事でなんとか成功したいという兄弟のドラマになっている。

ただのアクションゲームだったものにいろんな設定で厚みを加えて、人間ドラマとしても楽しめるところは、やはり今の「『多様性』を私たちは支持するんだよ」というメッセージにもなっている。

大ヒットする土壌はすでに出来上がっていた

前田:
同じ日本のゲームが元になっている映画では『ソニック』のシリーズが挙げられる。

映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』が2022年に公開され、ものすごく大ヒットした。こういったものが成功してくるとアメリカの特に興行側の人たちが変わってくる。

「日本のゲームのキャラクター映画って大もうけできるね」みたいにいいイメージに変わってくる。そうなると後から同じジャンルの映画を公開する時に多くの劇場をブッキングできて、大きな興行収入につながる。

そういう意味で、今回この『マリオ』が公開される前には、ヒットの土壌は出来上がっていたのかなと感じる。

――日本のキャラクターが映画で活躍する共通点みたいなものはある?

品田:
元々好きだった思い入れがある人にとっても魅力的に作ることが大切で、声優がついたことによってそのキャラクターが動き出す、声が出る、人間性が出る時にもっと思い入れが強くなるものができれば、どんどんいい映画になるんじゃないかと思う。

キャラが5つも!日本が誇るキャラクタービジネス

アメリカの金融会社「タイトルマックス」が発表しているキャラクターのグッズ、書籍、ゲームなどの総収益をランキングしたトップ10では、1位が「ポケットモンスター」、2位が「ハローキティ」と、日本のキャラクターが1、2位となっている。

キャラクター「メディアミックス」総収益世界ランキング Title Max製作 2019年発表
キャラクター「メディアミックス」総収益世界ランキング Title Max製作 2019年発表

品田:
90年代以降に始まったキャラクタービジネスの世界的な展開は、すごくビジネスになる。

映像作品やゲームから、キャラクターグッズをうまく売り出していくと、もうけが大きくなるということが分かって、そこに力を入れようというのがこの10年のことです。

――1位の「ポケットモンスター」はキャラクターの数が多い。

品田:
ポケモンがすごかったのはゲームとしてもそうだが「集める」ということをした。

しかも「交換する」ことで、コミュニケーションツールとしてのゲームとなり、キャラクター業界の発想を変えた。

前田:
「ポケットモンスター」は日本だけではなく、ものすごく海外で人気があって、1998年に最初のアニメ映画である『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』が公開されたが、翌年アメリカで大ヒットになり、その成功があったおかげでその後の「ポケットモンスター」自体の成功に繋がったと言われている。

最近でも実写映画『名探偵ピカチュウ』が2019年に作られて、興行収入が4億3300万ドルと大ヒットした。とんでもない数字です。

本当に息の長いコンテンツで、世界中で人気がある。

――これからのキャラクタービジネス戦略でポイントになるのは?

前田:
世界中が今、なんとかいいものを生み出したい、当たるとすごく大きい世界なのでやろうとしている。

例えば今、映画業界ではコロナ禍にアメリカの北米市場を中国市場が追い越し、中国が今、世界一の規模になっている。

ただ中国映画界がどんなにお金をかけて超大作を生み出しても、ひとつできないのが世界に通じるキャラクターを作ること。

それぐらい世界中に通用するキャラクターをつくることは難しくて、これが成功している国は世界中で日本とアメリカしかない。

アメリカの場合はどういう顔のキャラクターを作れば、いろんな国のいろんな民族の人が違和感なく見られるかということを、目と目の距離や表情の作り方から、いろいろなものを作ってみてアンケートをとって、マーケティング手法を使って完成度を上げていったりする。

一方、日本は漫画家とかデザイナーとかがなんとなく作ってみると、それがアメリカ人も中国人も、みんなに愛されるようなデザインができる。

日本がこれをなぜできるかというと、何十年という漫画の歴史、アニメの歴史があって、現場の人たちが先輩から教わったんじゃなく、盗みだして、“こういった顔立ちにすると、いろいろな人に受けるよ”と、なんとなく分かっているんです。

職人芸でやっていることで、世界中がまねをしようとしても数値化できないことなので、まねしにくい。

大変な強みで、10年たっても20年たってもおそらく中国でもアメリカでも、どこでもこのやり方はついてこられないと思う。

――今回の映画『マリオ』はキャラクターを作ったのは日本だが、映画を作ったのはハリウッド。全てが日本でできるようになるというのは一つの目標でもありますか?

品田:
世界とどんどん近くなって、一緒にやるというのは時代の流れとして大切だが、元々のオモチャは日本で生まれたのに、印税として返ってきていないみたいなものがいっぱいある。

日本の会社、日本のクリエイター、日本で関わった人たちにちゃんと返ってきて、そのお金を元に次の制作ができるような、いい循環になることを考えていかないといけない。

(「週刊フジテレビ批評」5月27日放送より
聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)