チンアナゴが“人間を忘れる”異例の事態
新型コロナウイルスの影響で、臨時休業中だった多くの施設や店舗なども営業を再開している。
東京ディズニーランドとディズニーシーは、7月1日から感染対策を行った上での営業再開を始めた。
3月1日から臨時休館していた「すみだ水族館(東京・墨田区)」も、1時間あたりの入場者数の制限や入館前のサーモグラフィーによる検温の実施をするなど対策を講じながら、6月15日に再開した。
そのすみだ水族館で約3カ月半という長い休館中に起きた、思いもよらぬ出来事を知っているだろうか? 同館の公式Twitterで投稿され、話題になっていたのだ。
それがこちら。
緊急開催決定❗️❗️
— すみだ水族館【公式】 (@Sumida_Aquarium) April 28, 2020
異例の長期休館でいきものたち(特にチンアナゴ)が人間の存在を忘れ始めています💦だからお願いです。お家からチンアナゴにあなたの顔を見せてあげてください。
「チンアナゴ顔見せ祭り」開催します❗️https://t.co/gz7ldy743F#お願い人間のこと思い出して#休園中の動物園水族館 pic.twitter.com/vG2L0ydCW1
緊急開催決定!!
異例の長期休館でいきものたち(特にチンアナゴ)が人間の存在を忘れ始めています
だからお願いです。お家からチンアナゴにあなたの顔を見せてあげてください。
「チンアナゴ顔見せ祭り」開催します!
「緊急開催!チンアナゴ顔見せ祭り」というものだ。特にチンアナゴが“人間の存在を忘れ始めてしまった”という未曽有の事態に際し、5月3日~5日のゴールデンウィーク期間中に、ビデオ通話越しに人間の顔を見せてもらうといった試みだ。
この記事の画像(15枚)チンアナゴは体長約30~40センチで、プランクトンを主に食べる、白ベースの体に黒い点々模様があるのが特徴の海水魚の一種。
ひょっこり姿を出す様子やニョロニョロと水中を漂う姿が癒されると人気ものだが、なんと“人間の存在を忘れ始めてしまった”というのだ。
水族館のいきものが「人間を忘れた」とは、いったいどういうことなのか? 営業再開をしたが、今はどうなのだろうか? すみだ水族館・広報担当の草野拓哉さんに教えてもらった。
チンアナゴたちの健康管理に影響も
ーー休館中にチンアナゴが人間の存在を忘れ始めていたとか? どんな状況だった?
365日お客さまが周りにいることが日常的だった当館のチンアナゴにとっては、休館によってお客さま(人間)がいなくなり“いつもと環境が変化した”ことで、飼育スタッフが近寄るだけで警戒して潜ってしまうようになりました。
すみだ水族館は公式Twitterでその様子を動画で投稿している。遠目に姿を見せていることがわかるチンアナゴが、カメラが近づくと一斉に砂の中に潜ってしまった。
あ、あれ❓ 水槽に近づくと…#チンアナゴ #休館中に起こった出来事 #水槽に近寄るだけで隠れちゃう #休園中の動物園水族館 pic.twitter.com/QZWNNmcGxe
— すみだ水族館【公式】 (@Sumida_Aquarium) April 3, 2020
ーーなぜそういう状態になった?
チンアナゴはもともと警戒心の強く、周囲の環境が変化すると警戒して砂のなかに潜ってしまういきものです。
ーー人間の存在を忘れると、どういうことで困る?
飼育スタッフが近づくだけで穴に潜られてしまい、姿が見えなくなることでチンアナゴたちの健康管理が難しくなっております。(「元気なのか」「痩せ細ってないか」「病気になっていないか」、各個体の身体などを見て確認します)
また健康管理のほかにも、普段群れをなして暮らすチンアナゴたちの群れの構成のバランスが崩れストレスになってないか、喧嘩してないかなど、快適な環境を保てているかどうかも、みんな穴に潜られると確認できません。
ーーでは「チンアナゴ顔見せ祭り」はどういう経緯で行ったの?
ビデオ通話越しにお客さまの顔を見せていただくことで、“チンアナゴたちに人間の存在を思い出してほしい”と考えて実施しました。
また、家で過ごすことが多かったお客さまのゴールデンウィークのおうち時間に、少しでもいきものを近く感じていただければと考えました。
「ひと安心しています」今は伸び伸びもと通り
ーーその結果はどうだった?
実施初日は警戒していたチンアナゴたちも、2日目・3日目と日が経つにつれて、徐々に顔を出してくれるようになりました。
ーー実施した感想も教えて
今回の休館中の状況や企画を通じて、営業期間中ではチンアナゴたちの“本来の姿”(警戒心の強いいきもの)を垣間見ることができ、またひとつチンアナゴのことを学ぶことができました。
国内外問わず、たくさんの方(期間中1秒間に約5回の着信履歴)に当館のチンアナゴのことを知っていただき、大変嬉しく存じます。
ぜひ元気なチンアナゴたちを見に、ご来館ください。
ーー営業再開をしたが、チンアナゴの現状は?
再開初日はやはり警戒して砂に潜っておりましたが、今ではお客さまが近寄っても警戒することなく伸び伸びとした姿が見られるようになりました。
これまでどおりのチンアナゴたちに戻ってくれて、ひと安心しています。
今後も、これまでどおり人間に警戒して砂のなかに潜ることなく、元気な姿をみせてくれたらと思います。(穴の中に潜ることに関しては生態上問題ありません)
営業再開した今は、「顔見せ祭り」があり、そして来館者が戻ってきたことで、無事に休館前と同様に姿を見せてくれるようになったそうだ。
しかし、この異例の事態が起こっても、それを「“本来の姿”を垣間見ることができて、チンアナゴに関して学べた」と言えるところに、飼育員さんのいきものたちへの愛を感じることができる。
チンアナゴの水槽には、ニシキアナゴ、ホワイトスポッテッドガーデンイールなどチンアナゴを含めて約300匹を飼育しているという。飼育員さんの愛情をいっぱい受けて、今後も元気に愛らしい姿を見せてほしいものだ。
2つの新エリアがリニューアルオープン
なお、そんな事態を乗り越えた「すみだ水族館」が、7月16日に2つの新エリアを展開するという。
1つは新しい視点からクラゲを観察できる「新クラゲエリア」。約500匹のミズクラゲが漂う、日本最大級だという長径7メートルの楕円形の水盤型水槽「ビッグシャーレ」が登場。
アクリル越しではなく“上から直”という新しい視点から、クラゲを観察することができるようになっている。
加えて、クラゲの色や模様の違いを見比べられるドラム型水槽も設置される。
もう1つは、いきもののゴハンの準備や飼育設備を公開するオープンスペース「アクアベース」。
これまでバックヤードで行っていた、いきものの調餌作業などをステージの上で見ることができる。飼育スタッフと会話したり、体験プログラムへ参加するなど、子どもだけでなく大人の知的好奇心も刺激する学びのエリアとなっているという。
この新エリアに関しても、すみだ水族館・飼育担当の中井咲恵さんにお話を聞いてみた。
「いきものを考えるきっかけになれば」
ーー新エリアリニューアルの経緯は?
2012年の開業当初より、都心のなかで公園のようにリラックスして過ごしてもらったり、お客さまと飼育スタッフが気軽にコミュニケーションできるような空間づくりを心掛けてきました。
今回のリニューアルにより、いきものとの距離や飼育スタッフとの距離がさらに近づけるような仕組みづくりをめざし、日本最大級となるクラゲの大型水盤型水槽の設置を含む「クラゲ」エリアの拡張、飼育スタッフとお客さまのコミュニケーション設定が増える新たなオープンスペースの設置を行いました。
ーーリニューアルにあたり苦労した点は?
ビッグシャーレにいれるミズクラゲは全て“すみだ水族館で生まれ育てた”クラゲです。そのため、約500匹ものクラゲを育てて水槽に入れられるのかが不安でした。
また、クラゲは自力で泳ぐことができないため水槽内に水流に作ってあげて、うまく漂わせてあげることが大事ないきものです。
国内で実例のないこの巨大な水盤の中をクラゲがうまく漂ってくれるか、そのために水流がどのように水盤の中で回るかが一番の要点となり難しかったところです。
ーー今回の新エリアのリニューアルオープンに込められた思いは?
クラゲはとても魅力的ないきものですので、それがより伝わる展示を作れたらと思っています。
水族館で育ったクラゲたちがより輝ける水槽を作り、綺麗だったり不思議だったりクラゲの魅力を感じていただき、そこからいきものについて少しでもお客さんが考えるきっかけになればと考えております。
ーーどういった場所になってほしい?
いきものや飼育スタッフとの距離がさらに近づき、これまで以上にお客さまが「すみだ水族館」のことを身近に感じる場になってほしいです。
チンアナゴが無事に人間を思い出してくれたとのことで、訪れた際には顔を出して迎え入れてくれることだろう。新エリアもリニューアルオープンすることから、ソーシャルディスタンスを保ちながら楽しんでみてほしい。
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