G7広島サミット初日の5月19日、TSSのG7特別番組に国際政治ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんが出演。今回のサミットへの期待を熱く語った。
核の使用を思いつかない世界を
Q:18日にはG7広島サミットに先立ち、日米首脳会談が行われましたが、どのようなあたりがポイントだとお考えですか?
モーリー・ロバートソンさん:
拡大抑止ですが、これは構造上矛盾しているじゃないかという指摘は度々なされております。核を使った抑止を容認しておきながら核の廃絶とはこれいかにと…。その矛盾を指摘する声はあるんですけれども、まずは国際情勢を安定させること。中国やロシア、核保有国および北朝鮮が核の使用をよもや思いつかない世界をまず作る。そのためにはG7民主主義の国々が緊密にスクラムを組む。この姿勢を見せることは大事だと思います。そうやって一回「平和安定」を実現できたら、そこで改めてお互いの猜疑心が減った状態で核の軍縮を実質的に、不可逆に前進させる。こういうプランを見せていくことが重要だと思います。
Q:被爆国の総理が平和公園でG7各国首脳を迎える、非常に強い意味を持つ印象的なシーンについてはいかがですか?
モーリー・ロバートソンさん:
G7の国では子どもの頃から歴史を学ぶわけですけれども、どうしても自分の国の中で起きた大きなイベントが中心になっていて、日本の広島と長崎という街で原爆が投下されたというのは一行か二行なんですよ。ヨーロッパの人であればチェルノブイリの原発事故の時に放射性物質に対する恐怖心が強かったので、そことなんとなく連想する形で広島・長崎というキーワードが浮かびあがってくることはあるんですけれども…。本当にみんな当事国なんだと。そしてウクライナを侵略しているロシアのプーチン大統領が軽々しく核の使用に関して言及している、口走っている、これは何を意味しているのか?本当に使用したらどうなるかを思い知るという一つの大きなイベントになると思います。首脳が被爆者の小倉桂子さんから話を聞く様子は、もちろん各国で報道されます。すると、これまで行われてこなかった歴史を振り返る対話がアメリカでも、G7の他の国でも行われるんじゃないかと思っております。
G7首脳と対面した被爆者 小倉桂子さん
Q:自身の被爆体験を自身の口から英語を通じて世界に発信してきた被爆者、小倉桂子さんの歩みはどのようにお考えですか?
モーリー・ロバートソンさん:
とても貴重な素晴らしい取り組みをされてきたと思います。G7の首脳も英語が共通語になります。当時日本で被爆された方で英語が話せた方は本当にいなかったわけですよね。ご自身の努力もあってこのように流ちょうな英語で、通訳を通さずに自身の言葉で自身の体験を語れる方がいる、その人たちに各国の首脳が向き合っている、これは本当に大きなことだと思います。
小倉さんとつながった中継では…
モーリー・ロバートソンさん:
まずはこれまでのご尽力に対して私の敬意と、感謝を申したいと思います。本当に50年前に私が子どもの頃に感じていた、これは越えられない山なのではないかっていうところを本当に小倉さんが地道に毎日のように頑張ってこられたおかげでとうとうここまで来たという考えがございます。私は1回小倉さんが英語でお話をされている現場に立ち会ったことがあって、アメリカ人だったと思うのですが、思春期の女の子が本当に純粋な心で涙を流して話を聞いていました。本当に心の底からお話されている姿が、かなりの数の世界から来た若い人たちに伝わったと思っております。
感謝の思いを伝えるモーリーさんに、小倉さんも笑顔でうなずいていた。
世界は今、広島にある
Q:アメリカのバイデン大統領が平和公園を訪れたことについてはどのようにお考えですか?
モーリー・ロバートソンさん:
原爆を投下した当事国の現職大統領が直接広島を訪れるというのは、オバマ大統領のときにもありましたが、これだけ長い時間広島に滞在し、そして世界の問題を各国で話し合うというのは本当に画期的なことだと思います。そしてアメリカ国民もあまり原子爆弾に関して歴史教育を受けていないという事実がありますので、これをきっかけにより多くの人たち、アメリカ人が直接広島を訪れるきっかけになるといいなと思いました。
Q:20日にはウクライナのゼレンスキー大統領も来日することが発表されました。これに関してどのようにお考えですか?
モーリー・ロバートソンさん:
広島にゼレンスキー大統領がやってきて、歴史が動いて核軍縮に向けてその日歴史が動くわけですよね。すごいことだなと思いますね。やっぱりゼレンスキー大統領が広島に来て原爆資料館にも行って過去の悲惨さを世界に訴えた場合、そのニュースは全世界にもちろん駆け巡りますけども、最後はロシア国民へ届くわけですよ。そしてロシア国民たちはゆがんだニュースをいつも見せられているので大政翼賛のニュースしかロシア流れませんから。ですから、核を使っても自分たちは大丈夫だ先に使ってしまえばいいんだぐらいの軽い意識でそれを捉えている人もいたとしても、どこかからニュースが漏れてきてもしプーチン大統領が核を使った場合は報復で、自分たちが10倍返しでこんな死に方をするんだぞっていうことを受けてですね、改めて衝撃を受ける人が出てくるわけですよね。そういうふうに意識が変わっていくロシアの独裁体制ではあるんだけども、その中でも静かに世論や人々の感情が変わっていくことが、やはり戦争を終結させたり、核の使用を思いとどまらせる本当の抑止力に僕はなっていくと思います。
Q:民主主義へのコミットメント、このあたりにはどのような期待を込めていらっしゃいますか?
モーリー・ロバートソンさん:
民主主義というのは、人々が日常の中で相手の話を聞き強い人の意見だけではなく、弱いとされている人たちあるいはマイノリティーの意見もちゃんと発言する場を与えてみんなで考える、お互いに思いやりを持って寄り添い合うというのが民主主義の根幹にあるわけですね。そしてそういう社会だからこそ、政権も変わりますし、選挙があるし、意見が対立しても、ちゃんと議論ができる社会というのがあるわけです。一方独裁国というのは、権力をひたすらトップへと集中させる仕組みにありますので、そのトップが核の使用に言及したときが一番怖いんですよ。誰もそれを止める側近がいなくなるので。だから日本はここで国際的な存在感を増すのみならずですね、日本はリベラルデモクラシー、民主主義のど真ん中にいるんだっていうことを世界にこの際発信することが重要だと思います。そうなってくると、1個だけ課題があるんですけれどもこのLGBT法ですね。LGBTの人たち、いわゆる少数者の権利をちゃんと確保しようという法制度が日本ではもたついているという部分があります。あと、難民認定もちょっとぐずついています。こういうところで日本の民主主義へのコミットメント、これを示していけば、本当に今回のサミットは余韻を強く持つのではないかと思います。国内の問題だけではないのか、世界は広島に今あり、そして広島で行われること、広島の発信が世界に伝わる、これが現在なんです。
モーリー・ロバートソンさんも熱く期待を寄せる今回のG7広島サミット。初日から歴史的な瞬間が数多く見られた。被爆地広島で、「核兵器廃絶に向けた議論」が進むことが期待される。
(テレビ新広島)