長崎・大村市の森園公園特設会場で5月28日まで開催されている「ワールド・ドリームサーカス」。この公演には、ウクライナ出身の女性ダンサーが出演している。両親や夫を母国に残し、戦禍を逃れて日本で観客を魅了する彼女の演技にかける思いとは。

多国籍の出演者にはウクライナ出身者も

日本全国を巡業している「ワールド・ドリームサーカス」。現在は、長崎・大村市の森園公園特設会場で5月28日まで開催されている。

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イタリアやコロンビアなど、世界のトップパフォーマーによる肉体の限界を超えたアクロバティックな演技や、鉄格子の球体の中をバイクが走るスタントショーに大きな歓声が上がる。

オープニングを盛り上げるのがきらびやかなダンスだ。ダンサーをつとめるイリナ・ボロンケビッチさん(30)は、ウクライナの出身。出演者やスタッフ30人ほどのうち、2人がウクライナの出身だ。

イリナ・ボロンケビッチさん:
大村はとても美しく落ち着いている。子供と普通の生活ができている。ウクライナでのことを心配せずにいられる

大村では、地元の人との交流もあるという。

イリナ・ボロンケビッチさん:
公園のまわりで遊ぶとき大村市民はやさしい。子供が話しかけてくれてどこから来たかと聞かれて「ウクライナ」と答えると、戦争のことを知っていて応援してくれる

何もできずにストレスを受ける毎日

イリナさんは2歳の息子・マキシムくんと共に日本全国をまわっている。

公演は多い日で1日に3回行われ、イリナさんは午前の公演のあとに一旦宿舎に戻ってマキシムくんを寝かしつけてから午後の公演に出かけている。

宿舎の壁にはウクライナにいる夫の写真が飾られている。夫のヴァシィルさんは、いまもウクライナ西部のテルノーピリで銀行員として働いていている。

夫のことが心配で、朝起きた時と寝る前にはウクライナのニュースをチェックする日々だという。

イリナ・ボロンケビッチさん:
自分とほかのウクライナ人は待つしかないので、毎日ストレスを受けている。ロシア軍は前進と後退を繰り返していて、何が起こっているのか私たちには分からない。家族と夫のことを思うと、悲しい

PRのため、サーカスの会場近くのショッピングモールで演技を披露していたときのこと。ウクライナにいる家族からメッセージが届いた。

イリナ・ボロンケビッチさん:
ショッピングモールでのイベントの時、家族からメッセージが来て、両親が住むケルソンでの爆撃で6人が死亡したと、この情報で私はストレスを持った

演技中はただ観客のためだけに

両親や夫の安否を気遣う日々だが、演技中だけは母国で続く戦争のことを忘れられるという。

イリナ・ボロンケビッチさん:
ダンスをしている5分間だけは、戦争のことを忘れられる。ただダンスを観客のために披露しているから

日本語で「サーカス、見に来てねー!」と言いながら、カメラに向かって笑顔を見せるイリナさんとマキシムくん。

息子のために、母国にいる夫や両親のために。サーカスの仲間やパフォーマンスを喜んでくれる観客にも支えられながら、イリナさんは全力でステージに立つ。

(テレビ長崎)

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