昭和の香りを残す喫茶店。前身の食堂から60年余り続いた長野駅前の喫茶店がまもなく閉店する。惜しむ声に感謝しながら、84歳のマスターは、一杯、一杯、丁寧に昔と変わらぬコーヒーで客を迎えている。
一杯、一杯、丁寧に
市民が行き交う長野駅前。そこから路地を少し入ったところに、ツタが生い茂った建物がある。三本コーヒーショップ。
![三本コーヒーショップ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/a/700mw/img_ea7762cc81801cad92362138af6f46d1512750.jpg)
三本コーヒーショップ マスター・中村利邦さん(84):
舞台裏は見てもらいたくないんだよな(笑)
開店の準備をするマスターの中村利邦さん(84)。
慣れた手つきで扱うのは、蒸気圧を利用してコーヒーを入れるサイフォン式の器具。
マスター・中村利邦さん(84):
コーヒー専門店ということで、コーヒーを作ることに対しては自分たちで全部やってる
午前10時に開店。店内はコーヒーの香りで満ちている。
![オリジナルブレンドコーヒー 500円](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/d/700mw/img_7db21c13f9a7c729186ec205dc75b580198686.jpg)
マスター・中村利邦さん(84):
甘みとか、酸味とか渋みとか、そういうのが出てきますから、それぞれ特徴のあるコーヒーの味を出すわけ。「サイフォンだて」というのは粉入れて抽出する。その抽出する時間が一番肝心なこと
一杯、一杯、丁寧に―。
![サイフォン式の器具でコーヒーを淹れる](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/c/700mw/img_1cd9ebfb0ab4707aa186ece42911778c381501.jpg)
84歳店主「この先、やっていけるか」
レトロな設えで穏やかな時間が流れる店内。
でも、この空間に浸れるのも残りわずかだ。
![三本コーヒーショップの店内](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/7/700mw/img_e7f052b0df6d7944d92b5c2ce2d2f90d314893.jpg)
マスター・中村利邦さん(84):
この先、やっていけるかどうか。そういう維持ができないから、もう辞める時期じゃないかと判断したんですよ
84歳と高齢になり後継ぎもいないことから中村さんは、5月20日で店を閉めることにした。
閉店を惜しんで多くの客が訪れている。
![閉店を惜しんで多くの客が](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/b/4/700mw/img_b45389ad24172ab142e36f62d317c5ce286350.jpg)
長野市内から:
実はきのうの閉店の時もいまして、2日連続で。もうちょっと残してくれないかなっていう気持ちになりますね
食堂からコーヒーショップに
店の始まりは、昭和25(1950)年。中村さんの父が向かいの映画館を訪れる客を相手に、自転車預り所を開業。
やがて映画全盛期を迎えると、大衆食堂「千石屋食堂」に変えた。
![1959年、大衆食堂「千石屋食堂」を開店 提供:三本コーヒーショップ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/f/700mw/img_5f1a410602f9a49ace897d547ef32cc2245844.jpg)
昭和47(1972)年、食堂を洋食のレストランに模様替えしたのが、2代目の中村さんだ。
マスター・中村利邦さん(84):
何かに的を絞ってやるかと。洋食にして、周りに飲み屋さん多いけど、うちはワインをやろう
![1972年、食堂を洋食レストランに(三本コーヒーショップの記録より)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/5/700mw/img_85c90d58c062d05c3af3d1d4a3f56d6f190009.jpg)
おしゃれな店内とメニューで差別化を図ったが、周りの店との競争は激しくなる一方。
そこで、昭和53(1978)年、チェーン展開を始めた三本コーヒーショップの長野店として営業することに。
フランチャイズ店舗はまだ珍しく、狙い通り、客は一気に増えた。
![1978年、三本コーヒーショップ長野店開業 提供:三本コーヒーショップ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/2/a/700mw/img_2addc2e00ebd17a43c949c1d0380fb49323524.jpg)
時代の移ろいを見続け
店を覆うツタの葉。コーヒーショップを始めた時に植えたものだ。
![店を覆うツタの葉](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/8/700mw/img_580192601c4ace07dd30aa3f209f23f2357611.jpg)
マスター・中村利邦さん(84):
最初、植えたときはこれくらいじゃないか。こんなになっちゃった
45年で幹はこんなに太くなった。
![45年で幹はこんなに太く](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/4/700mw/img_14ecde0251be000864d88bbefc081215239677.jpg)
昔と変わらぬ佇まいの店の中から、中村さんは時代の移ろいを見続けてきた。
店の環境を大きく変えたのは、新幹線開業とそれに伴う駅前の再開発。
![店の環境を大きく変えたのは新幹線開業 それに伴う駅前の再開発(1998年撮影)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/2/700mw/img_1251acd0552d0a353fc971e5a993060e199736.jpg)
マスター・中村利邦さん(1998年取材):
(再開発で)スキーバスが駅周辺に入ってこなくなったことが一番大きいですよね。表が人通りで埋まっているくらいお客さんがありましたけど、今から考えれば夢のよう
人の流れが変わり、長野オリンピック以降は景気の低迷もあって客足は徐々に減少。
![2012年取材時の中村さん(長野駅前)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/c/8/700mw/img_c8e76f407e82d69916c86c9022f403df282100.jpg)
ファストフード店やコンビニ店など、コーヒーや軽食を提供する店も増え客はピーク時の半分以下に。
それでも10年前、中村さんはこう話していた。
マスター・中村利邦さん(当時74・2013年取材):
過去にも厳しい状況はいろいろありましたけど、なんとか乗り越えてきてましたから。できるだけやろうと思っていますけど、まだ終わりまでは考えていないです
![マスター・中村利邦さん(当時74・2013年取材)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/8/700mw/img_483ef0f3ffff88676763f8f352340c16299048.jpg)
変わらぬ店内 変わらぬ味
それから、さらに10年。改めて、ここまで長く続けてこられた理由を聞くと―。
マスター・中村利邦さん(84):
お客さんを相手にするってことだから、お客さんを大切にして。会話があるわけじゃないんですよ、全然知らない。だけど、一度来たお客さんがまた来てくれる、そういう雰囲気。それが必要
![マスター・中村利邦さん(84)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/f/700mw/img_0f5a8e7d751b3a37cbd3cf4bb47a2743236474.jpg)
変わらぬ店内、変わらぬ味。
店は、時代に流されないものを求める客に支えられてきた。
84歳店主「これが私の道」
16日のランチ営業は満席。外には行列もできていた。
多くの人に愛されてきた証しだ。
![50年前に訪れたという客](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/b/a/700mw/img_ba11e4925170b6155e919b866569650b249464.jpg)
上田市から:
純喫茶が好きでいろんなところを回ってみまして、お気に入りだったのですごく寂しいです
市外から:
昔親しくしていた人と来たのがすごく思い出になって、懐かしくて来ました。すごく思い出深いんです、今になるとなおさら。もったいないですしね、どなたかやってくださる方いないかな
マスター・中村利邦さん(84):
この人は付き合い古いんだ
仕事でも付き合いがあった40年来の友人が、ねぎらいにやってきた。
40年来の友人:
お店が続いてくれればいいんだけど、そうもいかないので、お互いにごくろうさまってこと
![40年来の友人がねぎらいに](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/5/700mw/img_15599edc13b38ffe242ef348a9969d01357319.jpg)
学生時代、店でアルバイトをしていたという姉妹も―。
アルバイトをしていた姉妹:
接客業の楽しさを教えていただいたような気がして、今もそんな感じで(接客の)お仕事してます。お疲れさまでしたっていうのと、感謝の気持ち
![学生時代にアルバイトをしていた姉妹も駆けつける](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/1/700mw/img_e1b2f865b4ec790bf42e40dbc4ae59da283012.jpg)
時代が変わっても、愛され続けた中村さんのコーヒーショップ。
![マスター・中村利邦さん(84)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/d/700mw/img_8d84fd7e0046f613549ccf7d91e1c71c199887.jpg)
三本コーヒーショップ マスター・中村利邦さん(84):
お客さんに感謝感激ですよ、それしかない。よくここまで無事にやってこられた、ありがたいなと。自分としてはね、ほかのことは全然考えなかったからね。これが私の道だ
(長野放送)