入管法改正案が9日衆院本会議で可決され、審議の舞台は参院に移る。しかし難民申請者やその支援者からは廃案を求めている。日本に11年前に逃れてきた難民申請者の声を取材した。

家族4人の食事や生活は支援団体に依存
「日本人に知ってほしい。入管で何が起こっているのか」
こう語るのはアフリカ・カメルーンから11年前に日本に逃れてきたヘンリーさんだ。カメルーンはかつてフランスとイギリスに領土を二分され、いまも仏語圏と英語圏に分かれている。しかしマイノリティである英語圏は抑圧されてきた。独立を訴える政治団体のメンバーとして活動していたヘンリーさんは、何度も逮捕・拷問され身の危険を感じて日本にやってきた。

ヘンリーさんはこれまで入管に対して2度の難民申請を行ったがいずれも認められず、就労許可を認められず、仕事にはつけない。家族は同じカメルーンからやってきた妻と日本で生まれ育っている小学生の女の子が2人いる。4人は都内の小さなアパートに住み、食事や生活は支援団体からの支援やアメリカなどにいる支援者に頼っている。
日本で生まれた子どもでも病院に行けない
ヘンリーさんは「日本人は優しい人たちです」と語る。
「しかし入管の難民審査は地獄です。もっとエビデンスを出せとあらゆる書類を求められて、もっていってもまじめに受け止めてくれないのです。私には拷問の跡が残っています。入管にはアフリカ人への差別を感じるし、人権を尊重していないと思います。正義がアフリカ難民にはないのです」
そして子どもたちの話に及ぶとヘンリーさんは涙ぐんだ。
「2人は日本で生まれたのにパスポートも健康保険もない。下の子どもは病を抱えていますが病院に行けず、薬は支援に頼っています。家は小さくこれから2人が成長したらどうすればいいのか。自分たちの未来がわかりません。苦痛です」

入管法改正案は衆院本会議で可決され、次は参院で審議される。改正案では3回目の申請以降は強制送還が可能になる。ヘンリーさんは既に2回不認定処分とされている状況だ。
「私は正義のために闘います。日本人に知ってほしいです。いま何が入管で起こっているかを」
「レイプされたのはあなたが美人だったから?」
「保護されるべき人たちが全く保護されていない現実が、この国にはあります」
こう語るのはヘンリーさんの担当弁護士である駒井知会氏だ。駒井氏は難民審査が適正に行われていないと主張する。
「祖国で軍人にレイプされたと言う難民申請者に『なぜその大佐はあなたを狙ったの?』『美人だったから?』と聞いた難民審査参与員がいます。『はい、私が美人だったからレイプされたのです』と答えれば、難民として認めてくれるのか。それとも逆なのか。この質問を、難民申請者の尊厳を踏みにじる以外のどのような目的で行ったのか、私には分かりません」

飛行機に乗ってくると難民ではない?
また「『飛行機に乗るという発想自体が、難民とかけ離れています』と言った難民審査参与員もいた」と駒井氏はいう。
「しかしいまは21世紀です。飛行機に乗る難民も大勢います。カナダにも多くの難民が飛行機でやってくるはずですが、カナダの難民認定率はこの10年で68.3%です。日本のように、難民審査が真っ当にされない国で、複数回申請者を送還できるようにすれば人が死にます」
そして駒井氏は、国会で審議中の入管法改正案に対してこう強調する。
「難民が真っ当に保護される独立した専門家機関を作らないうちは、送還停止効外しなど愚の骨頂です。また政府案の入管収容は明確に国際人権法違反です。日本の入管は人間を閉じ込めることで、その心と身体を砕こうとしています」
「原則収容主義や無期限の収容は国際法違反」
さらに駒井氏はこう続ける。
「法案には主任審査官が相当と認めない限り収容するとしていますが、原則収容主義は明らかな国際法違反です。無期限収容も違法です。EUでは収容上限が6か月までとされています」
駒井氏は「国際人権法は都合のいい時だけ首からぶら下げるアクセサリーではありません。命と尊厳を守るために産み育てられた、人類の叡智の結晶です」と語る。
人権上の問題が国内外から指摘され2年前に廃案となった改正案は、ほぼ同じまま衆院を通過した。名古屋入管で死亡したウィシュマさんの真相もいまだ明らかにされていない中、政府と入管は果たしてこの法改正で、「保護されるべき人を保護する」ことができるのか。参院の審議の行方に注目だ。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】