2007年、ミャンマーで軍の兵士に銃撃されて死亡したジャーナリストの長井健司さん(当時50)が銃撃される直前まで撮影していたビデオカメラが見つかり、16年ぶりに映像が公表された。映像には長井さんが銃撃されるまでのおよそ5分間が収められていた。
【公開された映像(長井健司さん撮影)】
映像の前半は市民が声をあげて旗を掲げ、僧侶が座り込むなどしてデモが行われているが、兵士はバリケートの反対側に待機していて衝突の様子をうかがえない。





ただ治安部隊を乗せたトラック数台が現場に到着すると状況は一変した。

ペットボトルを抱えた少年を撮影した後に、長井さんが自撮りで「重装備した軍隊のトラックが到着しました」とリポートした直後に、治安部隊の突入を受けた市民は混乱に陥った。カメラが下を向いて地面を写した場面で映像は終わっていて、長井さんはこの直後に銃撃されたとみられる。



長井さん銃撃の瞬間
長井さんは2007年9月27日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで反政府デモを取材中に凶弾に倒れた。FNNは長井さんが軍の兵士に銃撃される瞬間を撮影した。



映像には軍の特殊部隊の突入でデモに参加していた市民が逃げる中、カメラを持った長井さんの背中に向けて、兵士がライフルで1メートルほどの至近距離から発砲する瞬間が鮮明に映っている。
長井さんは銃撃の衝撃で一瞬浮き上がり、仰向けに倒れたが右手に持っていたカメラを離すことなく高く掲げていた。
軍政は「デモ隊の流れ弾にあたった」と関与を否定したが、世界に発信されたこの映像は軍による犯行の動かぬ証拠となった。

タイ・バンコクで記者会見したミャンマーの独立系メディア「ビルマ民主の声」のエーチャンナイン編集長は27日、FNNの取材に対して「2021年の軍によるクーデターの前に市民から入手した」とした上で、「国外に持ち出して遺族に渡すために細心の注意を払った」と話した。
やっと家族の元に戻ってきた
バンコクでカメラを受け取った妹の小川典子さんは、帰国直後の27日、FNNの取材に率直な思いを話した。

「兄が殺害されてから16年になりますが、やっと家族の元に戻ってきたという安心感、喜びを感じています」
「ただ映像を見て、一生懸命仕事をしている最中に数分後に殺害されて命を落とすとは思っていなかったろうなと。危ないと分かっていても生きて帰るという覚悟で臨んでいたと思います」
「無念な気持ち 悔しい気持ちになります。軍に対して憤りを感じます」と複雑な胸中を語った。

責任は軍のトップに
FNNの映像には至近距離からライフルを撃つ兵士が映っているが、「責任は軍のトップにあるわけだからそこに焦点をあててほしい」と話し、日本政府にも厳しい対応を望んでいるという。
「軍政によって今も苦しんでいるミャンマーの市民の皆さんに目を向けてほしいというのが兄の思いだと思うし、自分も同じ思いで真相究明を求めていきたい」という。

戻ってきたカメラは長井さんが愛用していたもので、同じ機種を何台も買って部品を入れ替えて使っていたという。
墓前にもこのカメラの石像があるが、「このカメラをお墓の前に手向けて、亡くなった両親と一緒にやっと戻ってきたという喜びを分かち合いたい」と話す。

小川さん夫妻はカメラと映像を近く捜査にあたってきた警視庁に提出し、詳細な分析を求めることにしている。
【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】