東日本大震災の後も、福島県は度重なる災害に見舞われてきた。教育現場の防災意識、特に子どもたちの意識にも変化が起きていた。被災経験を防災にいかす取り組みを行っている中学校を取材した。

内容も具体的

学校では、文部科学省が定める「学習指導要領」を元に教科書や時間割がつくられている。学習指導要領は約10年に一度改訂されていて、東日本大震災の前後で防災に関する内容が変わった。
以前小学校では、災害については「火災」「風水害」「地震」などの中から“選択して取り上げる”とされていた。一方、震災後は「過去に発生した自然災害、関係機関の協力に着目して災害から人々を守る活動を捉え、その働きを考え表現すること」と内容が具体的になり、充実した。

学習指導要領における防災教育が充実(小学校)
学習指導要領における防災教育が充実(小学校)
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防災のプロ・防災マイスターの松尾一郎さんは「日本のように災害が多い国では、学校で防災教育を行うことはとても重要。子どものころから災害から生き延びる術を知識として習得しておく。また子どもを通じて家庭の防災にもつながる」と話す。

東京大学大学院客員教授 防災行動や危機管理の専門家 松尾一郎氏
東京大学大学院客員教授 防災行動や危機管理の専門家 松尾一郎氏

経験を防災に

2019年10月に発生した「令和元年東日本台風」 福島県いわき市を流れる好間川では、堤防の一部が決壊し広い範囲で冠水。避難所に指定されている好間中学校には、地区の住民が身を寄せた。

令和元年東日本台風でいわき市好間地区では広い範囲で冠水
令和元年東日本台風でいわき市好間地区では広い範囲で冠水

あの日の経験を踏まえ、好間中学校は防災教育に力を入れている。吉野敦広校長は「経験をクラスの中で共有していくことによって、次の災害に備えることが広くできる」と話す。

好間中学校・吉野敦広校長「経験を共有することによって次の災害に備えることができる」
好間中学校・吉野敦広校長「経験を共有することによって次の災害に備えることができる」

2022年度は学年ごとにテーマを分け、地区の防災マップの作成や避難所の開設訓練を実施。こうした活動が評価され、学校や地域で防災活動に取り組む子どもたちを顕彰する「ぼうさい甲子園」で、いわき市の中学校として初めて奨励賞を受賞した。

「ぼうさい甲子園」いわき市の中学校として初めて奨励賞を受賞
「ぼうさい甲子園」いわき市の中学校として初めて奨励賞を受賞

生徒会長の紺野陸翔さんは「僕自身、今まであまり防災に関しては向き合ってきたことが無くて。台風で被災者となったことで色々感じることがあって、防災に関して、今回の学習も通して向き合うようにはなりました」と話す。

好間中・生徒会長の紺野陸翔さん「被災者となったことで色々感じることがある」
好間中・生徒会長の紺野陸翔さん「被災者となったことで色々感じることがある」

紺野さんは当時、雨が強まり水位が上がるなか自宅から動くことがでなかったという。「空振りがあっても、命さえ助かれば」という思いから紺野さんが考えた標語「まよわない!!空振り恐れず早めのひなん!!」は、何よりも命を守る行動の大切さを訴えている。

紺野さんが考えた標語「まよわない!!空振り恐れず 早めのひなん!!」
紺野さんが考えた標語「まよわない!!空振り恐れず 早めのひなん!!」

好間中学校は2023年度、地区の自主防災会や消防団なども参加して防災教育を進める。地域を巻き込むことで「自助」だけでなく「共助」の意識を身につけていく。
生徒会長の紺野さんは「さらに防災・減災に繋がるような、地域の方々と災害に備えることをしっかり行えるように、協力していけるようなことを学べればいいと思っている」と話した。

地区の自主防災会や消防団なども参加して防災教育を進める
地区の自主防災会や消防団なども参加して防災教育を進める

命を守る行動をとれるか?

文部科学省によると、全国の小学校を対象に行われたアンケートでは、避難訓練の実施率は「100%」と、すべての学校で行われた一方、地域特有の防災課題に応じた避難訓練は「27.8%」にとどまっている。

学校安全の推進に関する計画に係る取り組み状況調査
学校安全の推進に関する計画に係る取り組み状況調査

東日本大震災で、津波が校庭まで押し寄せたいわき市の豊間小学校で初めて行われたのが「下校中に津波注意報が出た想定の避難訓練」
平子克治教頭は「学校側としても、まず避難場所に行けば、子ども達に会える。その道中を確認していれば、子ども達に会える可能性は高まる」と話す。

豊間小学校で初めて行われた「下校中に津波注意報が出た想定の避難訓練」
豊間小学校で初めて行われた「下校中に津波注意報が出た想定の避難訓練」

登下校時は、子どもたちだけになる可能性がある時間。通学路に設けた高台の避難場所を確認し、子どもたちだけでも迅速に避難できるよう、学校と地域で考えた避難訓練だという。参加した6年生の児童は「6年生として、ちゃんと下級生を守り、この場所に連れて来ようということを学んだ」と話す。

登下校時は児童だけになる可能性 通学路に設けた高台の避難場所を確認
登下校時は児童だけになる可能性 通学路に設けた高台の避難場所を確認

豊間小学校では、毎年 豊間中学校と合同で訓練も重ねている。
学校にいるとき地震が起きた場合の一次避難先は校庭だが、津波の情報が出た場合は中学校の屋上に二次避難。この避難の際には、小さな子どもがはぐれないよう中学生が手をつなぐ「バディシステム」を導入するなど、独自の避難マニュアルを作成している。

上級生と下級生が手をつなぐ「バディシステム」導入 独自の避難マニュアルを作成
上級生と下級生が手をつなぐ「バディシステム」導入 独自の避難マニュアルを作成

この取り組みについて、防災マイスターの松尾一郎さんは「揺れが長く続いたら津波が来ると思って、一目散に逃げる。一秒でも早く、一ミリでも高く避難することが重要。そのためには避難訓練を毎年やって“逃げ切るクセ”を付けなくてはいけない」と話した。

防災マイスター「毎年の避難訓練で”逃げ切るクセ”を付けることが重要」
防災マイスター「毎年の避難訓練で”逃げ切るクセ”を付けることが重要」

様々な想定で訓練を繰り返すことが、大規模災害から命を守ることにつながる。学校だけにとどまらず、地域と共に取り組むことでより多くの命を救うことになる。

(福島テレビ)

福島テレビ
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