職場では上司・リーダーだが、部下との意思疎通がイマイチ。こんな人はいないだろうか。実はあなたの何気ない反応が影響しているかもしれない。

社内コミュニケーションの研修・講義を多くの企業で行う、伊庭正康さんによると、部下は助けが必要な状況でも「ひとりで頑張る」ことを選んでしまうことがあるとし、その場合、上司側の質問の仕方、話しかけられた時の対応に原因があることも少なくないという。

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上司は部下の状況を把握する、指導することも仕事のひとつ。質問をしたり、相談されることもあるだろうが、どんな点に注意すればいいのだろう。伊庭さんに伺った。

上司がしてはいけない“刑事の取り調べ”状態

――上司と部下の関係でどんな悩みが聞かれる?

上司からは、部下に遠慮してネガティブな指摘ができない、会話で踏み込んでいいか分からない、本音が分からない。部下からは、上司に相談を言い出せない、自分の考えを伝えられない、本音を言うことができない。こうした悩みが聞かれます。どちらも遠慮していますね。


――上司が部下にしてはいけない聞き方はある?

事実確認をいきなり始めたり、単語や「はい・いいえ」で答えられる聞き方はお勧めしません。業務の正しい情報がほしかったとして、上司が「確認したいんだけど」「いつやった?」「誰がやった?」なんて続けると、言われた部下はドキドキしますよね。まるで刑事の取り調べです。

部下に聞きたいことがある場合のNG例、OK例
部下に聞きたいことがある場合のNG例、OK例

――それでは、どうすればいいの?

相手が話しやすいと思えることが大切です。「分からないことがあるんだけど、教えてもらっていいかな?」などと、先に目的を伝えて、相手の話に反復・共感しながら傾聴する。質問があるなら、意見や感想を言いやすいように「どうして」「どんな」「どのように」を意識して、聞いてみてください。

こうした聞き方は「拡大質問」と呼ばれ、相手の本心を聞き出しやすい効果があります。

・「どうして」の例:そうなんだ。ちなみに、どうしてそんな判断をしたの?
・「どんな」の例:この観点から見ると、どんなことができたと思う?
・「どのように」の例:なるほどね。その時、どのように感じたの?

表情の柔らかさも大切(画像はイメージ)
表情の柔らかさも大切(画像はイメージ)

――圧迫感や緊張感を与えないためのポイントは?

表情の柔らかさを意識してほしいです。年齢が離れているほど圧迫感は感じやすいですし、無表情の上司と接するのは緊張するものです。年齢を重ねるほど、笑顔を心がけてほしいです。

部下が話しかけられない“忙しい上司”

――部下に話しかけられた際のポイントはある?

まずは作業を止めること。他のことをしながらの対応はよくありません。相手に体全体を向けて柔らかい表情で「どうしたの?」などと返してみてください。一旦は聞き役に回ることが大切です。相手に話しやすい印象を与えますし、状況もわかります。

業務でばたつくこともあるでしょうが、“忙しい上司”にはならないでほしいですね。部下が「この状態で声をかけても…」となってしまいます。時には手を止めてみるなど、話しかけやすい雰囲気を作ることも上司には必要です。

“忙しい上司”にならないことも大切
“忙しい上司”にならないことも大切

――すぐに対応できない場合はどうすればいい?

一言目で「後でいい?」と返すのはよくありません。緊急事態かもしれませんし、次から話しかけにくくなります。少しは話を聞いて「急ぎなら対応するけど、立て込んでいて。○時ならどう?」などと、対応できるタイミングをその場で決めるのが望ましいです。


――部下との会話で注意してほしい、NGワードや話題はある?

主義や思想に関わる話はしない、プライベートに踏み込まないこと。世代間のギャップに触れる、過去を礼讃することは避けたほうがいいです。例えば「今の人は~」「僕の時代は~」などと言われてもギャップが増幅されるだけです。ジェンダー関連の話題にも注意してほしいですね。

情報が入らないのは上司にとってリスク

――今はチャットでの連絡もするが、注意点は?

業務時間外や休日の連絡ですね。上司から通知が届くと、部下は「返事をしなければ」と重圧を感じるので、緊急事態でなければ避けた方がいいです。また、文章はニュアンスが誤解されがちなので、ネガティブなことを指摘する際は配慮が必要です。

情報が入らないのは上司にとってリスク(画像はイメージ)
情報が入らないのは上司にとってリスク(画像はイメージ)

――部下との関係がイマイチな上司にアドバイスをお願いしたい。

部下が遠慮して、業務の正しい情報が入ってこなくなる、入るのが遅くなる。上司にとってこうした状況はリスクではないでしょうか。忙しいこともあるでしょうが、部下が話しかけやすい・会話しやすい時間は確保してほしいですね。相手の考えを受け止めて、聴く姿勢も意識してほしいです。


――新入社員の上司となった人に伝えたいことは?

仕事をスムーズに進めること、失敗しないためのポイントを教えるのも大切ですが、新入社員には「この仕事はなぜ必要なのか、何が求められるのか」といった“仕事観”を伝えることも必要だと思います。上司にはそうしたコミュニケーションを大事にしてほしいです。



相手への印象はちょっとしたところで変わる。部下との関係に悩んでいる人は、自分の言動や反応を少し意識してみるといいかもしれない。

伊庭正康
1969年生まれ。1991年リクルートグループに入社し、40回以上の社内表彰を受賞。2011年に研修会社「らしさラボ」を設立し、年間200回以上の研修・講演・コーチングを行う。著書に『できるリーダーは、「これ」しかやらない メンバーが自ら動き出す「任せ方」のコツ』(PHP出版)、『相手に刺さる話し方』(フォレスト出版)などがある。

(イラスト:さいとうひさし)

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。