原爆投下から復興途中のヒロシマで、幼少期を過ごした国際政治ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん。広島とアメリカにルーツを持つモーリーさんは、G7サミットの広島開催をどう受け止めているのだろうか。

記憶の風化…一番怖いのは「無関心」

モーリー・ロバートソンさん(60)は2023年4月1日、約3年ぶりに広島市を訪れた。

広島市の平和記念公園で慰霊碑に手を合わせるモーリーさん
広島市の平和記念公園で慰霊碑に手を合わせるモーリーさん
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モーリー・ロバートソンさん:
今、第2次世界大戦の時代を覚えている人たちの人口が全世界で減少しています。そうすると、記憶が風化した中で核兵器使用への心理ハードルが下がっていくんですね。無関心が広がることが一番怖い

国際政治ジャーナリスト モーリー・ロバートソンさん
国際政治ジャーナリスト モーリー・ロバートソンさん

国際政治ジャーナリスト、DJ、ミュージシャンと多彩な顔を持つモーリーさん。アメリカ人の父と日本人の母の元、1963年にアメリカで生まれ、5歳の時に父親の転勤で広島市にやってきた。

当時は、原爆投下からそれほど年数が経っていない復興途中。広島の地でアメリカ人はどのように見られたのか。

モーリー・ロバートソンさん:
年数が経っていないので何かあると思うじゃないですか。ところが、アメリカの子どもに対して非常に温かかったですね。日本語を勉強しようとか漢字の読み書きができるようになりたいとか、そういう強い願いを持ったのも、ちゃんと広島に着地したからではないかと思います

モーリーさんが通っていた安芸幼稚園 右は衣笠梨代アナウンサー
モーリーさんが通っていた安芸幼稚園 右は衣笠梨代アナウンサー

広島で被爆者を調査した父の存在

モーリーさんの父・トーマスさんは医師として、ABCC(原爆傷害調査委員会)、現在の放射線影響研究所(広島市南区)で被爆者の調査にあたっていた。

モーリーさんが「原爆」を認識したのは7歳の頃だったと話す。

モーリー・ロバートソンさん:
研究所にあった広島の地図に「爆心地」って書かれていました。確か英語でepicenter(エピセンター)っていうんですけど。そこに大きな丸い画びょうみたいなものがポンっと刺してあって、そこを中心に透明プラスチックの円が地図上に広がっていた。それを父と待ち合わせをしたときに「この丸は何?」って聞いて説明されました

仕事のことはほとんど語らなかったという父・トーマスさん。

モーリー・ロバートソンさん:
私の父は、被爆者の間で白血病が急増したというデータを客観性をもって本土のアメリカが納得するように立証したわけです。アメリカでアメリカ人が被爆したら同じことになるっていう恐怖心しか起きないような研究結果を、いわゆる不都合な非常に悲観的なデータを私情を交えずに厳密に。おそらく政治の力で封じられないように頑張ったんだと思います。本当にしんどかったと思いますよ

「正義の核」から「後悔の核」へ

父を通して、広島の地で知った原爆の恐ろしさ。しかし、アメリカの大学に進学すると、その認識の違いにがく然とした。

モーリー・ロバートソンさん:
アメリカで過ごした大学の10年間はまだソ連とにらみ合っている最中だったので、アメリカの核は「正義の核」という考え方が大学生も含めて浸透していました

それから約30年後の2016年。当時のオバマ大統領が、現職のアメリカ大統領として初めて広島を訪問し、戦没者を追悼した。

2016年5月27日、広島を訪問した当時のオバマ大統領
2016年5月27日、広島を訪問した当時のオバマ大統領

オバマ大統領(当時):
広島と長崎は核戦争の夜明けとしてではなく、道義的な目覚めの始まりとして知られるだろう

被爆者と抱き合う当時のオバマ大統領
被爆者と抱き合う当時のオバマ大統領

モーリーさんは、当時のオバマ大統領が広島で発したメッセージに感動したという。

モーリー・ロバートソンさん:
私はアメリカの一般国民が原爆に向き合わなかった年月を知っているので、核兵器は使用してはならなかったという後悔の念、そしてこれからも使用してはならないという強いメッセージをアメリカの大統領が広島で訴えたということに本当に前進を感じました

首脳らが原爆資料館を訪れる価値

今回、モーリーさんは改めて広島市中区の原爆資料館へも足を運んだ。

展示を見て、現在のウクライナの惨状が重なったという。

モーリー・ロバートソンさん:
この写真はまさにシリアとウクライナですよ。むき出しになった鉄骨とか。例えばバフムトやブチャ、ウクライナの街を見ているようです。もしプーチンが核を使ったらこうなるぞ…という意味ではすごく生々しい

モーリーさんが「ウクライナの惨状と重なる」という1945年の広島
モーリーさんが「ウクライナの惨状と重なる」という1945年の広島

ロシアによるウクライナ侵攻、北朝鮮の核開発など核を取り巻く世界が緊迫する中、G7サミットが被爆地ヒロシマで開催されることに、モーリーさんは“市民レベルでの関心の高まり”を期待している。

モーリー・ロバートソンさん:
もちろん、原爆資料館で首脳一人一人が足を止めて最低でも45分以上は見学してくれたり、被爆者と話し合ってくれると嬉しいです。ただね、思うんだけど、駆け抜けてもいいわ。首脳が行ったということがその国で報じられればいい。すると、現地のメディアはおそらく原爆資料館を取材するんですよ。それをテレビであるいは報道で、世界の言語で見聞きする。こういうことが起きたという歴史を知ってもらうきっかけになるだけでも、首脳が原爆資料館をくぐるだけでも価値はあると思いますね

被爆の実相を伝える原爆資料館の展示
被爆の実相を伝える原爆資料館の展示

G7サミットを機に、ますます重みを増す被爆地ヒロシマ。

モーリー・ロバートソンさん:
原爆の歴史や平和の大切さをもっと深堀りしようという意思が、世界の人たちに発信され、広がることが大事です。「人類の成長を促す街・ヒロシマ」という存在がこれからも非常に大切になっていくと思います

G7サミットが被爆地ヒロシマで開催される意義。モーリーさんの目は、首脳らの先にいる“世界中の市民の関心”へ向けられていた。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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