政府がカジノを含む統合型リゾート施設=「IR」について、大阪府と大阪市が提出した整備計画を全国で初めて認めた。果たして関西経済は潤うのか?「IR」について、国際カジノ研究所の木曽崇所長に話を聞いた

日本初の「IR」を認定 大阪に“カジノ”誕生へ

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木曽さんは、ネバダ大学ラスベガス校でカジノ経営について学んだ、日本では数少ないカジノ研究者の第一人者。大阪の「IR」とはどんなものなのか? 客はやってくるのか? 良いことばかりなのか? 見解を伺った。

国際カジノ研究所 木曽崇所長:
私としては、まず時間がかかったという印象です。今回の認定について、計画が申請されたのは1年前、去年の4月です。丸1年、今か今かと待っていたのですが、大阪府知事・市長の選挙が終わった途端に、認定が出ました。長い間、選挙マターで止まってきたのだなと、がっかりしたところもある

まずは、大阪のIRはどのような計画なのか、改めて整理する。夢洲に建設される、ショッピングモールやホテル、カジノなどが入る統合型リゾートだ。

建設費用は約7800億円。開業は2029年秋から冬を予定しているが、遅れる可能性もあるそうだ。“カジノを含む”統合型リゾートなので、カジノだけではない…ということになる。

年間売り上げ“5200億円” 「ちょっと盛っているのでは…」

経済にはどういった影響があるのか?

・来場者数 約2000万人/年 そのうち外国人が3割の見込み

ちなみにUSJの場合、コロナ前の2016年までの過去最高が約1400万人で、それをかなり上回る予想となっている

・売上 約5200億円/年
・経済波及効果 約1兆1400億円/年

この数字はIR事業者の試算となっている。

国際カジノ研究所 木曽崇所長:
来場者数2000万人について、USJは全体に入場料がかかる施設で1400万人の来場者となっています。IRは、カジノエリア以外は入場料がかからない、フリーゾーンですので、がんばれば達成できるかと思います

国際カジノ研究所 木曽崇所長:
しかし、売り上げに関しては、ちょっと数字を“盛っている”と私はみています。事業者選定の入札の中で、事業者は大阪に向かってリップサービスをしてきました。その中で、投資金額がどんどん上がってきました。約束してしまった大きな投資金額に対して、採算がとれるような売り上げ計画を立てると、どうしても数字を盛らざるを得なくなった。私からすると、過剰投資からスタートしてしまったと思っています

「一番のリスクは新しい競争相手の出現」専門家

カジノに関しては社会的費用・外部不経済も指摘され、カジノを作った方が作ったほうが、経済にマイナスになることを懸念する意見もある。

またカジノが“失敗するリスク”も考えられるという。

関西テレビ・神崎報道デスク:
海外の事例を見ると、必ずしもカジノをやったから、もうかり続けるわけではありません。アメリカのアトランティックシティ、ニューヨーク州の隣にあるニュージャージー州のリゾートカジノです。ここができた時には、アメリカ東海岸で唯一のカジノリゾートだったので、当初は周辺からたくさんのお客さんがやってきて、大いにもうかりました。その後、周りの州でもカジノが合法になって、他の州にもカジノができたらお客さんが逃げてしまい、もうからなくなりました。街は一部ゴーストタウン化している感じです。カジノをしたからと言って、ずっともうかり続けるわけではないという事例です

国際カジノ研究所 木曽崇所長:
大阪にとって一番のリスクは、新しい競争相手ができることです。日本の法律上、最大3カ所までカジノが認められると言われています。まず一つ、大阪が認められました。あといま長崎がチャレンジしているところ。

国際カジノ研究所 木曽崇所長:
もう1枠あります。この1枠の再募集があって、関東圏に大きなカジノができた時には、ニュージャージーの例と同じように、市場を関東と関西で分け合うことになって、計画していた売り上げにならないことは十分考えられます。そういうシナリオになることが大阪にとって一番しんどいことです

集客について、アンケートを実施した。「皆さん、IRに行きますか?」と質問した結果、「行く」が33%、「行かない」が47%、「迷う」が20%という結果になった。

肯定的な意見としては、「カジノ以外も楽しめそう」。否定的な意見では「ギャンブル自体に興味がない」といった声があった。

国際カジノ研究所 木曽崇所長:
先ほどからの説明にもある通り、ギャンブルだけの施設ではないので、ギャンブルをしない人でも、さまざまなエンターテイメントがあるんです。例えばナイトショーを見に行ったり。皆でドレスアップして夢洲行くとか、かっこいいじゃないですか。そういう文化が大阪に出てくると、新しいハッピーな形になるのかなと、私は思っています

ギャンブル依存症対策 いまのうちに議論が必要

いまのうちに議論しておくべき不安な点として、ギャンブル依存症の問題がある。日本は、カジノの規制を厳しくしている。

入場料は海外では無料のところも多いが、大阪では日本人のみに6000円かけるということだ。また回数制限を設けて、1週間に3回まで、4週間で10回までとしている。

入場制限は、家族からの申し出でも制限することができるということだ。これはギャンブル依存症対策といっていいものなのか?

国際カジノ研究所 木曽崇所長:
そうですね、日本はカジノ合法化について、世界的にみて後発組ですので、先行しているカジノのハイブリッドになっています。そういった意味で、かなり複合的に厳しい基準になっています。ここまでやると正常な需要まで抑制されてしまうような規制ではあります。政府側が決意をもって、依存症対策をやらないといけないよねということで、ここまで厳しくしているのだと思います

国際カジノ研究所 木曽崇所長:
「外国企業が日本人からお金を抜いていくのでは…」という懸念について、一方でカジノを建てるのに約1兆円の投資が必要で、外国企業が外から日本・大阪に投じます。まずは外国から投資の誘因があって、その利益を還元するという考えです。お金が日本から出ていくところだけ見るのは、全体を見ていないことになります

京都大学大学院・藤井聡教授は、安倍内閣でIRの議論に関わった経験も踏まえて…。

京都大学大学院・藤井聡教授:
感覚として、経済的に効果があるのなら、官邸として認めざるを得ないという立場があった。それが売り上げ見込みを“盛っている”としたらよろしくありません。また計上されていない社会的費用も考慮が必要で、カジノが大きな問題となっている韓国では、少なくとも2兆円以上の経済被害が、カジノでもたらされているだろうと公的機関が報告している。ですから日本で考えても、数兆円程度の社会的費用・経済被害が、カジノによってもたらされるリスクが高いと思います

京都大学大学院・藤井聡教授:
大阪のIRの運営会社にはアメリカの企業が入っています。諸外国でカジノが運営されたときに、その国の人にギャンブルをさせて、投資した外国企業がお金を吸い上げる問題がありました。来場者の7割が日本人だという見込みですので、集客すればするほど、日本からお金が抜かれていく懸念があります。そのうえギャンブル依存症になるおそれもある。だから僕は官邸の中で「安倍総理、日本人禁止してください」と申し上げたが、現在の規制では、対策が不十分ではないか

京都大学大学院・藤井聡教授:
外国企業はもうかると思わなければ、初期投資をしない。必ず“お金を抜ける”という判断があって投資している

といった意見も示された。

“カジノを含む”統合型リゾート=IRについては、賛否両論がある中で、今回の大阪「IR」の認定となりました。インバウンドも含めて、関西の経済や雇用にどういう影響が出てくるのか? 

ギャンブル依存症や外国資本による運営の問題は起きないか?期待と課題が入り交ざる、日本初の「IR」の認可、その行方を見守りたい。

(関西テレビ「newsランナー」2023年4月14日放送)

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