ハラスメントを起こさないよう、注意している人は多いはず。一方で、自分の発言や行動を気にするあまり、職場の人間関係に影響が出ているようだ。

これは「Job総研」が3月1日~7日、20~50代の社会人男女354人を対象に行った「2023年 ハラスメントの境界線調査」によるもの。

ハラスメントの境界線は半数以上が「正しいかは曖昧」

調査ではまず、ハラスメントだと思う“境界線”を理解しているかについて質問。

ハラスメントの境界線についての回答(提供:株式会社ライボ)
ハラスメントの境界線についての回答(提供:株式会社ライボ)
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そうしたところ「正しく認識している」と答えたのは28%で、「認識しているつもりだが正しいかは曖昧」が53.1%、「なんとなく認識している」が17.2%、「全く認識していない」が1.7%だった。

また、ハラスメントと判断されることには、全体の約6割が“敏感になっている派”だった。

ハラスメントの意識でコミュニケーションに影響を感じ、神経も使っていた(提供:株式会社ライボ)
ハラスメントの意識でコミュニケーションに影響を感じ、神経も使っていた(提供:株式会社ライボ)

その上で、ハラスメントの意識は職場でのコミュニケーションに影響するか、神経を使うかも聞いている。そうすると程度は違うものの、全体の88.9%がコミュニケーションに影響を感じ、全体の78.0%が神経を使っていた。

課長クラスが最も影響が大きい(提供:株式会社ライボ)
課長クラスが最も影響が大きい(提供:株式会社ライボ)

こちらを役職別(一般社員、主任、係長、課長、部長、役員)でみると、課長クラスが最も、ハラスメントの意識がコミュニケーションに影響する、神経を使っていると感じていた。年齢別だと、50代の割合が多かった。

“ハラスメント警察”という意見も

実際はどう気にしているのか。回答者が記述した、神経を使う場面の一部がこちらだ。

・性差別など普段気にしないことが差別につながらないよう気を付けている
・世代が違う人と話す時は言葉を選んでハラスメントにならないようにしている

過剰に気にしているという意見も(画像はイメージ)
過剰に気にしているという意見も(画像はイメージ)

さらに、自由記述のコメントにはこのような意見も寄せられていた。

・接する側は過剰に気にして、受け手はハラスメント警察みたいになっている
・「それハラスメントですよ」この言葉がコミュニケーションの円滑化を邪魔している

周囲との接し方に注意しているが、そのことでジレンマも感じていそうだ。部下と接することの多い上司たちはどうすればいいのか。Job総研の室長を務める、株式会社ライボの堀雅一さんに聞いた。

会社がしてはいけないこと明確にすべき

――ハラスメントの境界線について、認識が曖昧と感じる人が多いのはなぜ?

指導や管理する側、される側でハラスメントの認識にギャップがあることが影響していると思います。厚労省でもハラスメントになる言動は定義していますが、過去の事例や受け手がどう感じるかが重要視され、具体的な基準がないことが要因と考えます。


――境界線を勘違いしてしまうと、どんなトラブルが起こり得る?

境界線の認識が(上司・部下の)双方で食い違うと、仕事がスムーズに進まなくなったり、最悪の場合は被害意識が強くなり、退職に追い込んでしまうといったこともあります。逆に被害者側の意識が強すぎて、何気ない一言を(ハラスメントと)拾ってしまうことも考えられます。

してはいけないことを明確に共有するべき(画像はイメージ)
してはいけないことを明確に共有するべき(画像はイメージ)

――それでは、境界線はどう理解すればいいの?

ハラスメントの境界線や該当する言動などを把握することが重要です。社員ごとの認識が違うと良くないので、「うちの会社ではしていけないこと」を具体的に明記して、周知してはいかがでしょうか。上司と部下の信頼関係を築くことも大事です。ハラスメントは受け手の感情が重視されるので、コミュニケーションが希薄になると上司に不満を持つ可能性もあり、何気ない一言がハラスメントと受け止められてしまうリスクが高まります。

「それ、ハラスメントですよ」ハラハラの可能性も

――調査では課長クラスが特に神経を使っていた。

課長クラスは中間管理職、マネジメントに回ることが多く、部下とのコミュニケーションが必要な場面も出てきます。その際に自分の世代では大丈夫だった言葉遣い、対応がハラスメントになる可能性もあるため、気を使っているのではないでしょうか。


――ハラスメントに過敏ではという反応もあるが、そうした可能性はある?

少なからずあると考えています。年代や性別、立場で価値観は違いますし、指導する側と受ける側でも捉え方は大きく違ってきます。昨今では「ハラハラ」という言葉も出てきました。これはコミュニケーションの場で、受け手が過剰に反応して「それ、ハラスメントですよ」と指摘することで、発信者側が萎縮してしまうといったケースです。こうしたことが起きないためにも、双方が正しくハラスメントの境界線を認識することが重要になります。

「メンター制度」など、部下側のサポートも忘れないようにしたい(画像はイメージ)
「メンター制度」など、部下側のサポートも忘れないようにしたい(画像はイメージ)

――部下側が被害を言い出しにくくなってはいけないが、どう考えるべき?

ハラスメント対策が形だけにならないことが重要です。例えば、直属の上司ではない、先輩社員が若手社員をサポートする「メンター制度」、部下が上司を評価する制度を取り入れると、被害を相談しやすくなり、発生の抑止にもつながると思います。

普段からの関係性の構築も必要になる

――企業ではどんな取り組みが求められる?

ハラスメントに対する正しい知識をつけること、普段からコミュニケーションを心がけることは前述した通りですが、組織が大きくなるほど、交流する人に偏りが出るので、普段はしない人との交流にも目を向けることは大事になると思います。


――部下と上司の関わりで心がけてほしいことは?

業務上のコミュニケーションのみだと、その印象で人間性を評価しがちです。できるなら対面で接する、雑談する機会を設けてはいかがでしょう。例えば「仕事では厳しいが、プライベートは明るい」といった印象から、関係性が変わることもあります。

業務上だけではない、関わりも大切(画像はイメージ)
業務上だけではない、関わりも大切(画像はイメージ)

――コミュニケーションに悩む上司にアドバイスを。

今はコミュニケーション頻度が減り、異性や世代差がある人と接触を避ける傾向も見られます。神経を使うことも増えていると思いますが、ハラスメントの被害・加害リスクを減らすことにつながるので、積極的にコミュニケーションをとるようにしてもらいたいです。



ハラスメントがあってはならないという意識が高まるのはいいことだ。その一方で、曖昧なハラスメントの認識で中間管理職などが萎縮しすぎないような仕組み作りも円滑な社内コミュニーケーションのためには必要なのかもしれない。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。