鹿児島・西之表市の馬毛島で自衛隊の基地建設工事が始まってから3カ月。島の風景は様変わりし、市では米軍の再編交付金を使った給食費の無償化といった事業も展開。市民生活に恩恵がある一方、危うさも秘めるこの“再編交付金”について考える。

刻一刻と変化する島の風景

工事開始から3カ月が経過した馬毛島。
上空から見ると、至るところで木々が伐採され、島の中央部には新設された2棟のプレハブが確認できる。

木々は伐採され、中央部に2棟のプレハブが
木々は伐採され、中央部に2棟のプレハブが
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さらに、土を掘り起こす重機に、埋め立て工事のためか大量の砂利を海に投入する船。

島の風景が刻一刻と変化しているのがわかる。

工事着工から3カ月が過ぎ…様変わりしたことがわかる
工事着工から3カ月が過ぎ…様変わりしたことがわかる

工事が着々と進む中、地元・西之表市にもたらされるのがアメリカ軍の再編交付金だ。これはアメリカ軍の再編で影響を受ける市町村に支払われるもので、防衛省が、2023年度、西之表市に交付する額は約20億円。

西之表市の2023年度の当初予算約120億円の15%近くを再編交付金でまかなう計算だ。

すでに始まった再編交付金活用の事業

街ではすでに再編交付金を利用した事業が始まっている。その一つが、市内11の小中学校の“給食費の完全無償化”だ。

西之表消防署には9,000万円近い予算が充てられる予定だ。
耐用年数を迎えた救急車を新たなものに買い換えるほか、自動心臓マッサージ機や防火服なども購入することにしている。

さまざまな用途に活用できることになっている再編交付金。老朽化が進む街中の防犯灯をLEDに変える計画を進める町内会もある。

東町町内会・内田節生会長:
市街地におりる子どもはこの道が近いからここを通ったり県道の方に行ったり

ーーそこがより安心に?

東町町内会・内田節生会長:
安心、そのための防犯灯なので

このほか、市内を巡回するバスの無償化に、市営グラウンドの整備など、再編交付金を使った事業は実に45にのぼる。これについて、住民からは肯定的な意見が多く聞かれた。

小学生の子を持つ親:
(給食無償化は)助かる。出費が重なるので

計画に賛成する市民:
種子島も住民も潤い、いろいろな仕事もやりやすくなる

計画に反対する市民:
いいことだとは思うが犠牲があまりにも大きい

 

住民が恩恵を感じる再編交付金だが、アメリカ軍の計画に自治体が協力することが支給の条件だ。

アメリカ軍の岩国基地がある山口・岩国市で過去に市長を務めた井原勝介さんが、再編交付金をめぐり揺れた過去の経験を語ってくれた。

元岩国市長・井原勝介さん:
再編交付金は容認するための交付金。地元を説得する大きな材料として使われているということになる

井原さんが市長時代の2005年に浮上したのが、岩国基地へアメリカ軍の空母艦載機を移駐する計画。住民投票では87%の市民が反対し、井原さんは国に計画反対を訴えた。

すると国は、市役所の新庁舎建設のための補助金凍結や再編交付金の対象外とし、市長だった井原さんを揺さぶってきたという。

元岩国市長・井原勝介さん:
防衛省は「市長が容認すれば再編交付金を出す」とだけ言った。「容認しなければ一切出さない」と。容認しなければ(交付が)どんどん先延ばしになってしまうので、一部の人が(再編交付金)欲しさに容認しようと言い出した

その後の市長選では、計画を黙認していた現市長が当選、国はこれを機に再編交付金の支給を始めた。

計画に反対すれば止める、認めれば支給する。再編交付金を支給するか否かは国の裁量が大きい。

元岩国市長・井原勝介さん:
考えられないほどの(基地の)強化で被害も拡大するが、これを再編交付金で受け入れているから、そうすると、その後の機能拡大は再編交付金をもらっている限りはNOとは言えない。これ以上、基地拡大しないようにするとか、被害を拡大させないとか、そういう条件をつけておく。そうしないと何も言えなくなってしまう

沈黙続ける西之表市長 街に残るものは

馬毛島着工から3カ月。西之表市の八板俊輔市長はいまだ、計画の賛否について沈黙を貫き続けているが、再編交付金を使った事業にはかじを切った。

恩恵がある一方で、国と対等な関係が築けなくなる不安要素もある中、工事が終わり訓練が始まったときに、街には何が残るのか。それぞれが考え続ける必要がありそうだ。

(鹿児島テレビ)

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