「#学童落ちた」。これは、新年度前に小学生の子どもを持つ全国の親たちが相次いで投稿し、ツイッターでトレンド入りしたワードだ。理想にはまだまだ遠い子育ての環境。「小1の壁」とも呼ばれる現状を取材した。

「夜勤だから」入会を保留させられる

新年度前は「#学童落ちた」。2016年には「#保育園落ちた日本死ね」というワードが同じようにツイッターでトレンドに入った。

岸田政権は少子化対策や女性活躍の政策に力を入れているものの、現実には愛媛県でも放課後に小学生を預かる「放課後児童クラブ(=学童保育)」にさえ入れないケースが相次いでいる。

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県内で公立の児童クラブに入会できない待機児童は、2022年5月1日時点では226人だった。

小1の息子がいる松山市のAさん(40代):
小学校1年生になる上で、「こういうふうになるのか…」って、ちょっと思う部分がたくさんありすぎて

愛媛・松山市で主に夜間勤務の看護師として働く40代のAさんは、2023年2月、春から小学1年生になる息子の児童クラブへの入会手続きを進めていたところ、ショッキングな連絡が入った。

小1の息子がいる松山市のAさん(40代):
児童クラブの方から、「昼間の就労時間が短い」と言われ、最初、1回保留で「検討させてください」と言われた

「小1の壁」聞いてはいたけれど

共働き世帯の子どもを預かる放課後児童クラブは、「学童保育」と呼ばれる。2023年4月1日時点で、公立の児童クラブは松山市に124カ所ある。

帰宅が早くなる小学一年生
帰宅が早くなる小学一年生

保育園は早朝や夕方なども預かってくれたが、小学生になると帰宅時間は午後3時ごろに早まる。そのため「学童保育」に預けられないと、働く保護者は仕事と子育ての両立が一気に難しくなる。これが、いわゆる「小1の壁」だ。

小1の息子がいる松山市のAさん(40代):
聞いてはいたけど、私もぶち当たったっていう、どうしようかなっていうところに困ってます

看護師として、救急当番など緊急の治療が多く、負担も大きい夜勤を担当する事が多いAさん。1カ月の平均勤務時間は160~170時間ほどで共働きのため、入会の基準を十分クリアしていると思っていた。しかし…

小1の息子がいる松山市のAさん(40代):
就労時間だけでいうと、正社員なので通常の就労時間は間違いなく働いている感じなんですけど、日中の9時~午後6時の労働時間のことを言われて

Aさんが入会手続きをした時点での入会基準
Aさんが入会手続きをした時点での入会基準

松山市の基準では、児童クラブに入会できるのは「昼間、仕事などで保護者がいない家庭」。朝9時~午後6時までの「昼間」の時間帯に保護者が「月64時間以上働いている」家庭が対象となる。
夜勤が多く、昼間は家にいるAさんの家庭は、入会に「待った」がかかったのだ。

小1の息子がいる松山市のAさん(40代):
もう働き方を変えないといけないのかなって思って

その後、入会が認められたものの、「定員を超える入会児童があった場合、『退会候補』として相談させてほしい」という「条件付き」だったという。Aさんはこれらの対応に戸惑いを隠せなかった。

小1の息子がいる松山市のAさん(40代):
家にはいますけども、夜勤明けで11時、12時のお昼に帰って、子どもが帰ってきて子どものお昼を食べさせて、午後3時くらいにまた夜勤に出かけます…ってなった時、やっぱり児童クラブにお願いして、せめて夜勤に入るまでの間は…。わたし自身の健康だったり、家も回らなくなるし

入会基準を見直した松山市

親たちの切実な声をどう受け止めているのか。児童クラブを管轄する松山市に聞いた。

夜勤勤務の方には「柔軟な対応する」と話す
夜勤勤務の方には「柔軟な対応する」と話す

松山市 こども家庭部 子育て支援課・矢葺芳子課長:
夜間勤務の方などについては「柔軟に対応する」っていうところで、児童クラブで対応をしてたんです。「預けられない」っていうことはない

しかし、従来、市が考えていた「柔軟な対応」では追いつかないほど、親たちの働き方は多様化し、学童へのニーズは高まっている。

松山市 こども家庭部 子育て支援課・矢葺芳子課長:
「条件つけて」っていうような、「わたしの勤務のやり方では、なかなか入れないっていうふうなのを言われた」っていうようなことだったんですけど、やはり基準がきっちり示されてないから不安に思うっていうところがあると思う。それについては検討しまして、4月からは「柔軟な対応」というのではなくて、基準そのものを変える手続きを取りました

4月1日、松山市は夕方から仕事をする夜間勤務の保護者も利用しやすいよう、児童クラブの入会基準を見直した。
さらに「子どもを預けられる時間の延長」や「児童クラブの待機児童解消」にも取り組んでいる。

松山市 こども家庭部 子育て支援課・矢葺芳子課長:
夜7時まで子どもを預けられるように松山市全体で進めていこうとしてます。今、ある施設の支援さんの数を増やすっていうところがすごく重要。どうしても、預かりをしてもらえる福祉支援を、どんどん増やさなくちゃいけないところ

クラブで過ごした時間は大切な思い出

松山市内のさくら小学校にある「さくら児童クラブ」
松山市内のさくら小学校にある「さくら児童クラブ」

松山市内のさくら小学校にある「さくら児童クラブ」を訪ねた。
ここでは小学1~6年生の190人が放課後、遊んだり勉強したりして過ごしている。この日はフラワーアレンジメントの教室が開かれていた。

橋本利恵アナウンサー:
みんな、ここは楽しいですか?

通っている子どもたち:
楽しい!

橋本利恵アナウンサー:
どんなところが一番楽しいですか?

通っている子どもたち:
やったことないことをできるから楽しいです

クラブの職員は44人いて、中には20代の若いスタッフもいる。大学生のアルバイト・猪子愛華さんは、自身もさくら児童クラブの卒業生だ。

児童クラブの卒業生
児童クラブの卒業生

さくら児童クラブの卒業生で学生アルバイトとして働く猪子愛華さん:
家で過ごすのと児童クラブで過ごすのとでは、やっぱり時間の充実感も違うし、友達もいるし、わたしにとってはもう大切な思い出の一つになってます

「クラブがあるから仕事を頑張れる」

午後5時過ぎ。仕事を終えた母親たちが続々と迎えに来た。

橋本利恵アナウンサー:
何年生から入ってる?

「児童クラブのおかげで頑張れている」と話す
「児童クラブのおかげで頑張れている」と話す

小4の子どもを預ける母親:
1年生から小学校に入る前、4月1日からお世話になっています。こういう学校だったりとか、児童クラブに支えてもらいながらができるので、何とか毎日頑張れるんだなと思います

橋本利恵アナウンサー:
どんなお仕事を?

2人の子どもを預ける女性:
エステティシャンです。不定期で休めないような仕事で、ご予約制だったりするので、本当に助かってます

しかし、児童クラブの環境は松山市内でも地域差があり、需要の高まりに対して支援員の数は追い付いていないのが現状だという。

さくら児童クラブ・谷川玲子主任支援員:
保護者も含めていろいろな機関が意見を出し合って、前向きに子どもたちのことを中心に考える組織が成り立っていること。わたしはそれが大事だと思っています

「働きながら安心して子どもを育てたい」。親たちの切実な声や実情を反映した制度作りが求められている。

(テレビ愛媛)

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