近年、国内の日本酒の消費量が減少している。そんな中、文化庁は、500年以上前から脈々と受け継がれてきた酒造りをユネスコ無形文化遺産に推薦することに決めた。福岡の酒蔵もこの動きに期待を寄せている。

「経験と勘で…」伝統的な酒造り

福岡・久留米市の城島地区の蔵開きは、ほろ酔い姿の人であふれかえる。

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40の銘柄の新酒を飲み比べできるとあって、毎年10万人もの日本酒ファンが訪れるのだ。

兵庫の灘や京都の伏見などと並ぶ酒どころとして知られる城島。筑後平野でとれたふくよかな米と筑後川の豊かな水を使い、江戸時代に酒造りが始まった。

最も古い蔵は、創業278年の「花の露」だ。江戸時代中期から代々受け継がれてきた伝統的な酒造りを守り続けている。

蔵開きに訪れた女性(60代):
父が昔、こちらのお酒をよく飲んでいて、やっぱり地酒なので、体にすごくなじむ。口当たりはいいし、ほどよい。べたつきがない甘み。飲んだ後に気持ちよく酔えるお酒

その味わいをつくり出すために最も重要なのは、米の糖度を高める工程だ。例えばワインの場合は、原料のブドウがもともと甘いため、糖度を高める必要がないが、日本酒造りでは、味の決め手となる。

そこで欠かせないのが「麹(こうじ)菌」。蒸した米に混ぜ合わせ発酵させることで、米のでんぷんを糖に変化させる。

そして、麹菌の働きを最大限引き出すのが、杜氏や蔵人と呼ばれる職人たち。杜氏たちは、手触りや香りを頼りに米の状態を確かめつつ気温や湿度を考慮し、その日、麹菌が最も活性化する環境を見極め、米の温度などを調整する。

「花の露」冨安拓良社長:
これは数値で表せるようで、すごく表しづらい部分があるんですね。自然と手が覚えている。そういったものはみんなの経験と勘で

この伝統的な酒造りが世界に認知されるかもしれないのだ。

「花の露」冨安拓良社長:
日本酒の伝統的なつくり方がユネスコの世界遺産に認定されるかもしれないというのは、我々にとって非常に朗報でありPRのポイントとして活用していきたいと思っています

世界への輸出を見据えて

近年、国内の日本酒の消費量は若者を中心とした「アルコール離れ」や新型コロナの影響で、1970年代のピーク時に比べ7割ほど減少している。

そんななか、文化庁は、500年以上前から脈々と受け継がれてきた酒造りをユネスコ無形文化遺産に推薦することに決めた。日本の酒業界では、新たな活路につながると期待が高まっている。

「花の露」冨安拓良社長:
日本の国内消費が、先々大幅な増加が見込めない中、世界への輸出というのが、非常に日本酒業界にとって重要な要素になっていくんです

ユネスコ無形文化遺産 登録なるか

海外への酒の輸出を、国内で先駆けて行ってきた酒蔵が、久留米市の隣、八女市にある。

創業203年の「喜多屋」。「酒のオリンピック」ともいわれる世界最大規模の品評会ではこれまで、日本酒と焼酎の両方で最高賞を受賞している。

日高真実ディレクター:
コンペティションで1位に輝いた「喜多屋・極醸」をいただきます。華やかな香りが、ふわっと広がります。とってもフルーティーで上品な甘みです

海外からも注目される喜多屋。新型コロナが流行する前は、外国人観光客を招き、酒造りの体験会などを行っていた。また、九州ではほぼ例がなかったという1994年から輸出を始め、今は年間生産量の15%を、13カ国に輸出している。

「喜多屋」木下宏太郎社長:
海外で有名なソムリエだったり、ワインの専門家だったり、話す機会があるんですけど、その皆さんが、日本酒ほどいろんな料理に合わせやすいお酒はなかなかないとおっしゃるんですよ。ですからそれぞれの国の方が普段召し上がる料理でも日本酒は合わせられる

国内の酒の消費量が減り続ける一方で、日本酒の輸出額は10年間で約5倍に増えた。日本の酒造りが、ユネスコ無形文化遺産に登録となれば、さらにその動きが加速すると考えられている。

「喜多屋」木下宏太郎社長:
これは悲願ですよ。業界結束しての悲願で、1日でも早い実現をみんな心待ちにしていると思います。私たち日本人にとっても、日本酒、本格焼酎っていうのは世界に誇るまさに文化遺産であって、それをもっと我々は愛して、誇りに思って、普段から楽しんで飲んでいただけたらなって思います

過去には、ジョージアのワイン造りやベルギーのビール文化がユネスコ無形文化遺産に登録されている。文化庁は、2023年3月末までにユネスコに提案書を提出する予定で、審議は2024年11月頃となる見通しだという。

(テレビ西日本)

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