アラブ首長国連邦の都市・ドバイで、日本企業が開発した“移動する無人交番”が普及するかもしれない。

それが、三笠製作所(愛知・犬山市)の「SPS-AMV」(Smart Police Station-Autonomous Mobile Vehicle)。電動ビークルに警察・行政サービスの端末を搭載したもので、無人で動きながら、交番としての役割を果たすという。

三笠製作所の「SPS-AMV」(提供:三笠製作所)
三笠製作所の「SPS-AMV」(提供:三笠製作所)
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2017年からドバイ警察と共同で開発していて、1号機に続き、2023年2月に2号機を納品した。2号機は長さが約6m、横幅が約2m、高さが約2.3m、重量が約1.4トン。電気を動力源とする。

カメラシステムによる検知のイメージ(提供:三笠製作所)
カメラシステムによる検知のイメージ(提供:三笠製作所)

SPS-AMVは現時点ではコンセプトモデルだが、ドバイ警察本部と通信する、360度カメラシステムなどを搭載しており、周囲の犯罪、速度違反や駐車違反などを検知して通報することもできるという。

行政処理のサービスも利用できる(提供:三笠製作所)
行政処理のサービスも利用できる(提供:三笠製作所)

さらに、各種支払い、住民票の出力、遺失物の紛失・盗難届など、約30の行政処理にも対応していて、スマートフォンで住民が希望する場所に呼び出してサービスを受けられるという。三笠製作所によると、移動する無人交番の試みは世界初。ドバイで実証実験も行っているという。

猛暑に交通事故…ドバイは交番が少ない

興味深いが、日本の企業がなぜドバイ警察と開発しているのだろう。無人交番はどのように動くのだろうか。三笠製作所の石田繁樹社長に聞いた。


――ドバイ警察とSPS-AMVを共同開発している経緯を教えて。

当社は数年前、日米の巨大ロボットを戦わせる企画に携わっていました。2015~16年ごろ、打ち合わせで開催地のドバイに訪れたことがきっかけです。ドバイはさまざまな国籍、人種、民族が生活していて、小さな交通事故が日常的に起きていました。

一方で交番の数が少ないため、警察署はいつも混雑していますし、夏は屋外の気温が50℃くらいになるので行けないこともあります。移動する交番、呼び出せる交番があれば、交通事故などを抑止でき、外に出られない人の元にやって来れば、そういった人たちを助けることにつながると思いました。 

警察、行政サービスは搭載の端末で利用(提供:三笠製作所)
警察、行政サービスは搭載の端末で利用(提供:三笠製作所)

――2号機はどんな機能や設備を備えている?

警察、行政サービスは、ドバイ警察が開発している端末(SPS)で提供されます。筐体はコンビニにあるATMほどの大きさで、ここに日本でいう住民基本台帳カードを挿入します。そうすると、自分の情報と紐づけて行政処理などを行うことができます。SPS-AMVにはこの筐体が搭載されます。

モニター越しでのやりとりも可能(提供:三笠製作所)
モニター越しでのやりとりも可能(提供:三笠製作所)

――無人交番だと、警察業務はどう行われる?

パトカーのように追いかけるのではなく、巡回中にカメラがオンタイムで違反などを検知して車両の持ち主に通知します。サービスの呼び出し場所まで向かう際に、取り締まりもできるイメージです。用がある時はモニター越しに、警察署の人と話をすることになります。

移動方法はタブレットでの遠隔操縦

――SPS-AMVはどのように移動するの?

タブレットでの遠隔操作になります。画面に車両周囲の映像が映し出され、前進や後進や左右、その他機能のボタンをタッチして動かします。当社の関係会社は自動運転の技術もありますが、現時点では(自動運転機能は)搭載していません。スピードは70km程度出せますが、ドバイ警察の意向で10~15kmでの運用となります。

タブレットでの操作イメージ(提供:三笠製作所)
タブレットでの操作イメージ(提供:三笠製作所)

――安全面はどう?遠隔操作にしたのはなぜ?

安全面は車両の前後左右にセンサーが付いていて、障害物、人や車を感知すると自動で止まります。移動方法ですが、こちらは「移動する交番を操縦する」という新しい雇用の創出につながるとのことで、(ドバイ警察との話し合いで)一旦は遠隔で操縦できるものにしました。


――ドバイでは自動運転の車両は走行しているの?

私もしっかりと把握できていないのですが、ドバイでは自動運転のコンペティションも行われたりしているので、自動運転への寛容性は高いと思います。

3号機は市場投入モデルに…日本での導入は?

――実証実験のテストはどのように行われている?

安全性を高めるため、あえて壁にぶつかったり、障害物に向かって走ったりすることのほか、呼び出しポイントまで行き、スムーズに車内に乗せられるかといったことをしています。危険性があるものはドバイ警察の敷地内で行っています。

SPS-AMVはスロープでの乗車も可能(提供:三笠製作所)
SPS-AMVはスロープでの乗車も可能(提供:三笠製作所)

――SPS-AMVの今後は?日本に導入の可能性は?

1、2号機はコンセプトカーですが、実証実験を経た3号機は市場投入モデルを想定しています。中東では導入できるかどうかの話はしていますが、日本は今の段階では難しいかもしれません。


――興味を持った人に向けて、伝えたいことは?

皆さま、近未来のロボットや車や飛行機を想像したことがあるかもしれません。今はそれが現実に作れる時代になってきました。生活がそうしたもので便利になっていくこともあるでしょう。弊社のプロダクトが、皆さまの知らぬ間に日常のお役に立てるように引き続き開発を進めていきます。



SPS-AMVは将来的に、不審者・不審車両の検出、火災判定、交通量調査、道路状況の監視、砂塵嵐・砂嵐予測監視システムといった機能拡充も検討しているという。中東の地で、日本の乗り物開発の技術が人々を助ける日が近いうちにやってきそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。