福岡・朝倉市。市内の住宅街にたたずむ公園がある。その「頓田の森平和花園」の脇にある立て看板には、太平洋戦争中にこの場所で起きた悲劇が記されている。

立て看板の文言:
国東半島から侵入した米軍のB29爆撃機の大軍は、大刀洗飛行場を爆撃しました。そのとき落とされた爆弾の一発が、この頓田の森で立石小学校の児童31名を殺したのです

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旧陸軍の大刀洗飛行場を狙った爆撃によって、31人の子どもの命が失われた。子どもたちが通っていた小学校には、大勢の命を奪った爆弾の破片が今も残されている。

立石小学校・中山和彦教諭:
小学6年生は全員、これを見て、実際に爆弾の恐ろしさを見て触って、とがっているとか、こういった物が無数に飛んで来るということで、「非常に怖い」と話しています

時代の流れ…薄れる戦争の記憶

薄れつつある悲惨な戦争の記憶をどう残していくのか。今、平和教育の現場ではある変化が起きている。

図書館に置かれている漫画「はだしのゲン」。「はだしのゲン」は、広島で被ばくした作者、中沢啓治さんの体験をもとに原爆の非人道性を訴える漫画作品だ。

立石小学校では被ばく地のひとつ、長崎への修学旅行の前に児童が手に取ることが多かったが、最近は読まれることが少なくなってきているという。

立石小学校・中山和彦教諭:
時代の流れなのかとも思っていますけど、ほかにも戦争に関する書籍がたくさんありますので、そちらを手に取る子が多いのかもしれません

実際に「はだしのゲン」を手に取ったことのある子どもたちからは、様々な声が聞かれた。

「はだしのゲン」を読んだ小学6年生の児童:
戦争で原爆が落ちたときは、人々がこんなになっていたと思うと苦しくなる

「はだしのゲン」を読んだ小学6年生の児童:
戦争はしてはいけないし、怖いなと思った

「はだしのゲン」が平和教材から削除へ

漫画の舞台となった広島市では、市の教育委員会が、2023年度の平和教材から「はだしのゲン」を紹介する記述をなくすことを明らかにしている。

理由は、栄養不足の母親のために池のコイを盗むなど、誤解を与えないよう補足説明が必要な場面があり、教材として扱うことが難しいためだということだが―。

この決定に被ばく者の団体が経緯の説明を求めているほか、教職員組合が撤回を求める動きもある。

かつて「はだしのゲン」は、閲覧そのものを制限するという動きもあった。2013年、島根・松江市の教育委員会が、作中の過激な描写を理由に当時の教育長の独断で50校弱の小中学校での閲覧を制限したが、「子どもの知る機会を奪う」などの批判があり、すぐに撤回されている。

世界各国でも原爆の悲惨さを伝えてきた「はだしのゲン」。

平和教材からなくなることに作者の妻・中沢ミサヨさんは、次のように話した。

「はだしのゲン」作者の妻・中沢ミサヨさん:
時代に合って変えるということは、どういうことか分からない。被爆体験を別の方向に変えると言ったら仕方ないと思いますけど、戦争というのは、そんなにきれいごとではない。やはり真実を、残酷なところを外すというのは考えられない

薄れつつある記憶と教訓を漫画というかたちで伝えた「はだしのゲン」。補足説明が必要という理由だけで、子どもたちから遠ざけてしまっていいのだろうか。悲惨な戦争の実態をありのままに伝えることは、未来を担う子どもたちにとっても必要なことではないだろうか。

(テレビ西日本)

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