「北の国から」などのテレビドラマで知られる脚本家・倉本聰さん。実は、活動の拠点としている北海道・富良野の景色や、動物を無数の点で描いた「点描画」を描き続けている。
2023年2月、これまでに手がけた点描画やドラマの台本、舞台の衣装などを集めた展覧会が鹿児島市で開かれた。鹿児島テレビの美川愛実アナウンサーが、富良野にいる倉本さんに、作品に込めた思いについてリモートで聞いた。インタビューでは倉本さんから、今のテレビへの手厳しいメッセージも寄せられた。
鹿児島で点描画展 「画素」を絵に
美川愛実アナウンサー：
初めまして。鹿児島テレビの美川愛実と申します。今は、富良野の気温はどうですか？ 結構寒いですよね
脚本家・倉本聰さん：
きょうは…マイナス20度だ
フジテレビ系列で放送されたドラマ「北の国から」。北海道・富良野の厳しくも美しい自然の中で、たくましく生きる家族を長期間、丁寧に描いた作品だ。脚本を手がけた倉本聰さんは、1959年にニッポン放送に入社。その後、脚本家として独立し、北海道・富良野に移住して「北の国から」や「優しい時間」など数々のテレビドラマを手がけてきた。
2023年2月、鹿児島市で開かれた「倉本聰の仕事と点描画展」。描かれているのは、倉本さんが愛する富良野の景色や動物たちだ。
美川愛実アナウンサー：
点描画を描き始めたきっかけと、そのスタイルを選んだ理由を教えていただけますか？
脚本家・倉本聰さん：
テレビって「画素」って言うでしょう。あの画素を絵にしてみたらどうなんだろうと思って
テレビの映像を映し出す画素のイメージから生まれた点描画。さまざまな森の表情が浮かび上がる。「水の森」という作品に描かれているのは、木々や動物たち。水はどこにも描かれていないが、この作品について倉本さんは…。
脚本家・倉本聰さん：
木って水の柱なんですよね。川辺の木に直接耳をくっつけても、サーッと水を吸い上げる音が聞こえます。だから、木というのは、地べたから水を吸い上げる水の柱なんです
水を吸い上げて育った自然は、時に姿を変えて倉本さんに語りかける。シラカバの木に浮かび上がる顔、彼の名前はイゴール・カバノビッチ。40年前の氷点下30度の冬の日、凍りついた木の裂け目から現れたという。この作品について倉本さんはこう語った。
脚本家・倉本聰さん：
凍りついて鼻水を流し、涙を垂らし、これはロシア人だという感じがあったので、チャイコフスキーの話とか、いろんなことを話しながら親しくなったんですね。だからウオッカの量が相当進みましたよ（笑）
毎年のように姿を現していたイゴール。しかし…。
脚本家・倉本聰さん：
最近来なくなっちゃった。温暖化でマイナス30度を超える日なんてなくなっちゃったんです
倉本さんは、それ以来彼と会っていないという。イゴールの姿は、自然のはかなさを教えてくれるようだ。
「根っこを考えなさい。それがドラマ」
倉本さんは、脚本家としての礎も自然から学んでいた。「上の世界・下の世界」という作品は、立派な木の下に張り巡らされた根も緻密に描かれている。ほかにも木の根っこを描いた作品が何点かある。
脚本家・倉本聰さん：
どんな実がついている、どんな花がついているとか、枝の上の方ばかりみんな描いてしまうんですよ。でもそれは、もともと根っこから来るわけで、「今まで過ごしてきた時間とか、そういったものを登場人物の1人ずつについてしっかり根っこを考えなさい」と、そういう根っこがいっぱい集まって1本の木になったときに、そこで化学反応を起こすわけです。「それがドラマだよ」と
たくさんの根と根が絡み合って1本の木が立つように、一人一人の人生が重なって物語が生まれる。倉本さんは人目に触れない心の根っこにドラマを見ていた。
歴史が見える作品を作りたい
最後に美川アナウンサーは、どうしても聞きたかった質問を倉本さんに投げかけた。
美川愛実アナウンサー：
今のテレビってどうでしょうか？
脚本家・倉本聰さん：
つまらないですね。つまらないのと、浅くなっちゃったという感じがします。なんであんなにふざけなくちゃいけないのか、ものすごく嫌ですね。それよりもあなたの人間を見たいわけですよ
そんな倉本さんの世界観が、このつぶやきに凝縮されている。富良野にあった「北の国から資料館」に掲げられていた言葉だ。
人が人らしく
だらしなく
なさけなく
でも真剣に
いつわらず純粋に
にごらず
けんめいに
あくまで猛然とけんめいに
己れのやり方で生きている
そんなドラマを
テレビで書きたかった
北の国から 倉本聰
その場の出来事だけを伝えるのではなく、その人の家族や友人、歴史が見えるものを作りたいという倉本さんの思いが、数々の点描画から伝わってきた。木の根元を描いた数々の作品に、倉本さんの神髄を見た。
（鹿児島テレビ）
