ウクライナ侵攻で欧米から制裁を受けるロシア。そこに乗じて貿易を拡大したのが中国だ。

ロシアとの国境の街・黒竜江省黒河市を取材すると、両国を結ぶ初の道路橋が架かり、より一層の経済協力の期待が高まる一方、ウクライナ問題では「ロシアを応援する」という声も聞こえてきた。

橋のたもとに大量の新品トラック…すべてロシアへ

中国・黒竜江省黒河市とロシア・ブラゴベシチェンスク市の国境のアムール川(中国名は黒竜江)には、2022年6月に初めて道路橋が開通した。新型コロナの影響で当初の予定よりも遅れたが、ウクライナ侵攻後に開通したことで、“中ロ友好の象徴”としてより際立つことになった。

長さおよそ1キロの橋を撮影するため、中国側の橋の真下にある公園に向かった。中国のSNSで橋の撮影スポットとして紹介されていた場所だ。堤防を車で走らせていると、運転する地元ドライバーが「公園近くは国境警備隊が常に監視しているから、撮影するなら車から降りることや長居はしない方が良い」という。公園の前に着くと、3階建てくらいの展望台があった。その入り口の階段近くには、国境警備隊とみられる男性1人が警戒に当たっていた。

真っ赤な黒竜江大橋
真っ赤な黒竜江大橋
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すぐ目の前にある橋脚には「黒竜江大橋」という看板が見えたが、車の中から撮影した。展望台には人は見当たらず、一体何のための展望台だろうと疑問に思った。ただ、凍る川には鉄条網が張り巡らされており、国境ならではの緊張感が伝わってきた。

中国メディアによると、ゼロコロナ政策撤廃により水際対策が緩和され、国境の橋は2月10日に通関業務が正式に始まったという。訪れたのが日曜日だったからか、橋の交通量は少なかった。多い時でもトラックが連続して3台通過するくらいで、しかも何も荷物を載せていない、いわゆる「トラクターヘッド」と呼ばれる頭の部分だけだった。なぜだろうと思ったが、その橋につながる“道路の両側”に答えがあった。

国境橋のたもとに並ぶ“新品の中国製トラック”
国境橋のたもとに並ぶ“新品の中国製トラック”

そこには、3キロ以上にわたって、緑や赤のトラックが停まっていた。100台以上はあるだろうか。なかにはさきほど橋でみたトラクターヘッドだけのものや、ミキサー車もあった。よく見ると運転手の姿はない。シートはビニールカバーで覆われていて真新しい。地元の人によると、新品の中国製トラックで、すべてロシアに輸出されるという。メーカーのサイトを確認すると、海外向けに1台およそ540万円から販売されていた。

中国メディアよると、橋が開通してから4カ月間で貿易額はおよそ70億円に上った。ロシア側からは食品や農産物が輸入され、中国側からはトラックや農業用の工業製品などが輸出されているという。今は少ない交通量だが、一日600台以上のトラックが通行できるといい、橋のたもとに停車している大量のトラックを見て、貿易がさらに活発になることを予感した。

ウクライナ問題 市民は「ロシアを応援」

黒河市の資料館を訪れると、国境の道路橋のジオラマとともに国境の2つの町を「中ロ双子の街」と紹介していた。実際、街にはピンクや黄色のカラフルな建物や教会など、ロシア風の建築が点在する。

中国人で賑わうロシア食料品を扱うスーパー
中国人で賑わうロシア食料品を扱うスーパー

ロシア商品を中心に扱う大型スーパーもあり、ロシア産のチョコレートやソーセージなどが並ぶ。商品を見ていると、店員から「ソ連の独裁者スターリンがラベルになったワインやウォッカがおいしいよ」と勧められた。多くの客で賑わい、中には人形の中に小さなサイズの同じ人形を幾重にも入れたロシアの特産品・マトリョーシカを真剣に選ぶ中国人の男性の姿もいた。店内でも中ロの結びつきを感じた。

閑散としたロシア商店街
閑散としたロシア商店街

一方、ロシア商品を取り扱う店が並ぶ「ロシア商店街」は、3割ほどが閉店し閑散としていた。ゼロコロナ政策の影響でロシアからも中国国内からも観光客が激減したためだ。

この場所で店を構える女性は、「黒河は国境に接する町だから、ロシアと非常に近い。ともに協調して繁盛していくような関係だから、ロシアからの観光往来の再開を待っているよ」とロシアとの往来が今後活発になることに期待を寄せる。

さらに、ウクライナ侵攻についても尋ねると、「我々はもちろん、ロシアを支持する」という言葉が返ってきた。「これからの発展に色々と期待できるから」と理由を語った。コロナで傷んだ経済の立て直しには、この町に住む人々にとって、ロシアはともに支え合う必要な存在だ。だからロシアに倒れられたら困るという、現実的な問題があるのだろう。

2022年の中ロ全体の貿易額は、欧米がロシアへの経済制裁を実施する中、過去最高となった。中国税関総署によると、前の年に比べて3割増え、約25兆円(1903億ドル)。特に伸びたのが、欧米の制裁で割安となったロシア産原油の輸入だ。中国のエネルギー事情に詳しい関係者によると、中国は国際市場の価格よりも3割ほど安く仕入れることができたという。ロシアとの貿易拡大を通じ、中国は自らの利益を確保する一方で、戦時下の苦しいロシアを下支えしている。両国は今後も経済的な結びつきを強くするとしている。

虐殺の歴史、ロシアへの不信も?

だが、黒河市では“もろ手を挙げてロシアを歓迎”とは違う空気も感じた。市中心部から車で40分の歴史資料館では、清朝末期の動乱で1900年にロシア人が侵攻した歴史を生々しく伝えている。ミニシアターくらいのスペースの壁一面には、アムール川沿いの住民約5000人が虐殺された様子が描かれ、遺体が捨てたれた川は真っ赤に染まっていた。女性が乱暴されそうになっているジオラマまであった。

1900年のロシア侵攻
1900年のロシア侵攻

地元のドライバーによると、ロシア人が観光で黒河市を訪れても、ここには連れてこないという。見学を終えたスペースでは、来館者たちが「歴史を忘れない」「弱ければいじめられる。強くならなければならない」と綴っていた。

約4250キロの国境を接する中ロは、アメリカとの対立を軸足に関係を深めている。2月22日、ロシアのプーチン大統領と会談した中国外交トップの王毅政治局委員は、中ロ関係を「岩のように安定している」と評した。だが、国境の町ではロシアへの不信感も漂う現場を見た気がした。

(FNN北京支局 葛西友久)

葛西友久
葛西友久

FNN北京支局特派員。東海テレビ報道部で行政、経済、ドキュメンタリー制作、愛知県警キャップ、企画デスクなどを担当。現在はフジテレビ国際取材部からFNN北京支局に赴任。