去年、重大な事件の記録が裁判所によって相次いで廃棄されていた問題が表面化し、大きな問題になった。

関係者に取材をすると、裁判所で事件記録が機械的に処分されているという、驚きの実態が見えてきた。

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「なぜ子供の命が奪われなければいけなかったのか。そのなぜを解く鍵が全く失われてしまった」 

最高裁へ向かう車の中で、こう語る土師守さん。

2月14日、次男が殺害された事件の記録が廃棄されてしまったことについて最高裁判所で意見を述べることになった。

裁判所が廃棄したのは、1997年神戸市須磨区で土師さんの次男・淳君(当時11歳)が殺害された事件の記録だ。

この事件は現場に挑戦状が残され、新聞社に犯行声明文が送られるという異様な犯行形態が世間を震撼させた。

「真相を知る鍵を失った」遺族の訴え

6月、兵庫県警は容疑者の逮捕を発表。逮捕されたのは神戸市須磨区居住の中学3年生、当時14歳の「少年A」だった。

当時の法律では14歳は刑事裁判にかけられず少年Aは医療少年院に送られた。

処分を決める少年審判は完全に非公開で、遺族は事件の真実を直接聞くすべがなく、土師さんは他の事件の遺族とともに少年法の改正を訴えてきた。

2008年5月、衆議院法務委員会で、土師さんはこのように訴えた。 

「被害者にとって審判廷に出席して事実を知ることそして自分のつらい気持ち言うことは実は立ち直りの第一歩でもあります。その意味でも審判への参加は重要な意味を持っています」

事件をきっかけに2000年には少年法の改正が実現し、事件の資料の一部を見ることができるようになった。

2008年には殺人などの重要事件で、被害者が少年審判を傍聴することも認められた。

ただ、改正される前の事件には適用されず、土師さんが事件の記録を見ることはできなかった。 いつかさらに法改正が進んで全ての記録を閲覧できるようになる、土師さんはそう信じていた。

ところが去年、裁判所がその記録を廃棄したことが明らかになった。

さらに2004年、長崎県佐世保市で当時小学6年の女子児童が同級生を殺害した事件や、2012年に京都府亀岡市で起きた暴走事故など、全国で少なくとも52件の記録が廃棄されていたことが明らかになった。

土師守さん(2022年10月20日):
最初びっくりしましたし、特殊な事件ですので、資料は残しているものだと思っていましたので、まさか廃棄されているとは思っていませんでした。こういう貴重な資料を廃棄する管理の悪さ、ひどさに呆れています。憤りを感じます

重大な事件の記録はなぜ廃棄されてしまったのか?最高裁判所の規程では、少年事件の場合、少年が26歳になるまでを保管期限としている。

一方で、例外もある。1992年の通達では重要な憲法判断が示された事件や調査研究の重要な参考資料になるもの、社会的に耳目を集めた事件などは、事実上の永久保存が求められた。

しかし、記録を保管していた神戸家庭裁判所は捜査資料や少年審判の処分決定書、少年Aの精神鑑定書など全ての資料を廃棄。2011年2月ごろに廃棄されたとみられる。

事件当時、少年Aをサポートする付添人をつとめた弁護士が唯一残っている事件記録の目録を見せてくれた。廃棄された記録は捜査関係の書類だけでも1000点以上はあったと話す。

少年Aの付添人を務めた工藤涼二弁護士:
法律改正の契機にもなったし、少年事件の報道を問い直すこともあったし。いろんなことの契機になった事件なんですよね。資料としての価値は非常に高い事件・記録でした

家庭裁判所では記録の保管・破棄はどう運用されていたのか。現場を知る人たちを取材すると驚きの実態が見えてきた。

元家裁調査官 和光大学 熊上崇教授:
(少年が)26歳になると、機械的に(記録が)処分されるんですよね

2014年まで家裁調査官だった和光大学の熊上教授は、記録を廃棄する際、中身は確認されないことが常態化していたという。

元家裁調査官 和光大学 熊上崇教授:
本当にその子は26歳なのかっていうのを戸籍等で確認はしますけど。この事件は重大だからとかこの事件は軽いとかっていう中身は精査しません

家庭裁判所で判事を務めた経験もある弁護士は、こうした実態の背景に少年事件ゆえの慎重さがあると話します。 

家裁の元判事 森野俊彦弁護士:
少年院から出た場合には、別の少年として社会に生きるわけですね。残っている少年事件の記録は、万が一外に出たら困りますので、速やかにある程度の期間が来れば一般的には廃棄する、というのが裁判所の職員の頭の中にはあったんじゃないでしょうかね

廃棄の経緯について当初は調査しないとしていた最高裁だが、土師さんらの強い要請を受け有識者による調査委員会を設置。2月14日、土師さんを招いて意見の聞き取りを行った。

その中で土師さんは「子どもの命が奪われた事件の記録を閲覧したいというわずかな希望さえ奪われた」と話した。

さらに、再発防止や犯罪被害者の権利保護にも活用できる事件記録は重要な歴史の資料だとして、十分な管理体制を確立してほしいと訴えた。

土師守さん:
一般の常識と司法の常識が、乖離がありすぎるのかなと思います。私自身がまず声を上げることが次につながっていくのではないかと思って声を上げさせていただいた。少しでも現状が改善されることが一番大きな希望です

最高裁は4月をめどに調査結果を公表するとしていますが、廃棄に至る経緯は明らかになるのか、注目される。

14日の意見陳述に土師さんはどんな思いで臨んだのか、取材担当の藤田裕介記者のリポートだ。

関西テレビ 藤田祐介記者:
土師さんは、記録廃棄自体が、遺族のことを考えるとできないことだと憤りを感じていました。意見を伝えることで、遺族が見たいと思って、見られなかった記録が知らないうちに廃棄された驚きと落胆を感じてほしいと思っていました。意見陳述の後、土師さんに「思いは、伝わったと思いますか?」と聞くと、「わかりません」と答えていました

関西テレビ 藤田祐介記者:
長崎の小6女児殺害事件など、あげられているような事件の記録は、公共的な価値も高い、事後検証に必要な貴重な資料です。土師さんの事件も、その特異性や少年の矯正教育という観点から、そして事件の当事者でありながら、何も知らされなかった少年事件の被害者遺族が活動を重ねて少年法改正につなげたという面からも、重要なもので、絶対に後世に残さないといけなものだったと思います

最高裁から出ていた通達は、現場ではどのように運用されていたのか?

関西テレビ 藤田祐介記者:
通達があった1992年以降に、家裁で働いていた人が取材に応じて話してくれたのですが、現場では、周知されることもなく、少なくとも家裁全体で把握されていたとは言い難い状況だったということです。恥ずかしながら今回のことがあってこんなルールがあることを知ったという証言もありました。家庭裁判所の中の“空気”はそのようなものだったようです

関西テレビ 藤田祐介記者:
今回の取材を通じて、また他の多くの少年事件被害者遺族から話を聞いていて感じることは、司法と“一般世間”との意識のギャップです

司法の世界では少年法という法律がある以上、加害少年のプライバシーは守られるべきものという大前提があります。加害少年をいかに保護し、立ち直らせるかということを関係者はとても重要視しています。そのため、事件記録はしっかり保存して検証のために使おうという意識よりも、記録を残しておけば、いつか少年のプライバシーが流出するのではないか、という心配が先に立つようです。実際に問題になったケースでも、リスクの意識が勝って廃棄に至ったのではないかと考えます

関西テレビ 藤田祐介記者:
最高裁判所は、「著名な事件」といった限定付きで資料を残す規定を設けているわけですが、本来、事件に軽重はありません。本来は、すべての記録を保存すべきではないかと思います

(関西テレビ「報道ランナー」2月14日放送)

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