ペットを飼育している高齢者の介護費用は、飼育していない高齢者より少ない。

東京都健康長寿医療センターの研究チームが、2017年に埼玉県鳩山町での460人(平均年齢:77.7歳、要介護認定割合:6.3%)の疫学調査のデータを使用して、判明した。

ペット飼育者と非飼育者の月額介護保険サービス利用費を比較したところ、ペット飼育者は676円、非飼育者は1420円で、調査から過去1年半の追跡期間中に一貫してペット飼育者は非飼育者に比べ介護費が低く、約半額に抑制されていることがわかった。

月額介護費の比較(画像提供:東京都健康長寿医療センター 国立環境研究所 谷口優氏)
月額介護費の比較(画像提供:東京都健康長寿医療センター 国立環境研究所 谷口優氏)
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ペット飼育の割合は20.9%で、このうち20.4%が犬及び猫、42.7%が犬のみ、24.0%が猫のみの飼育だった。なお医療費については、ペット飼育者と非飼育者で有意な差は見られなかったという。

研究論文は、アメリカ科学誌「PLOS ONE」に1月27日に発表された。

ペット飼育高齢者は、軽度の介護サービスの利用に留まっている

ペットを飼育することが、介護費の抑制につながっているということだが、飼っているペットによって違いはあるのか?そしてどんな効果があると考えられるのか?

研究チームの一人である東京都健康長寿医療センター国立環境研究所の協力研究員・谷口優さんに詳しく話を聞いた。

――なぜこの調査をした?

我々の過去の研究から、ペットを飼育する高齢者が非飼育者に比べて、フレイルの発生リスクが低いこと、要介護や死亡のリスクが低いことが確認できたことから、ペット飼育者は医療や介護の資源を利用している頻度が低いのではないかとの仮説を立て、本研究で検証しました。

※フレイル…加齢とともに筋力や心身の機能が低下した虚弱な状態


――なぜペットを飼育する高齢者のほうが、介護費が少ない?

本研究では、ペット飼育者と非飼育者の間に医療費には差がみられなかったものの、介護費に差がみられました。この結果から、ペット飼育者では利用する介護サービスの頻度が低いこと、軽度の介護サービスの利用に留まっていることが考えられます。


――ペットが飼い主の話し相手になっているのも良い?

ペットとの会話を通じた心理的な効果が、介護サービスの利用の抑制につながっている可能性はあるかもしれません。我々は、ペットを飼育することによる役割や責任感が、日常生活の自律(活発で規則正しい生活)に繋がり、自律した生活環境が高齢者自身の身体の自立に貢献していると考察しています。


――ペットの中でも、この動物の結果が良かったといったデータはある?

本研究では、サンプルサイズの問題から、ペットの種類を限定することができませんでした。本研究では、ペット飼育者の90%以上が犬または猫であったこと、また我々の先行研究から、犬の飼育者において負の健康アウトカムの発生リスクが低いことを考えると、犬や猫(特に犬)の飼育による健康効果が大きいと考えます。

※負の健康アウトカム…フレイル(加齢とともに筋力や心身の機能が低下した虚弱な状態)や要介護、死亡といった健康障害

※イメージ
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ペット飼育高齢者は、下肢機能が高く、歩行運動量が多い

――ちなみに、ペットではなく同居の人間の有無でも同じことが当てはまる?

妻に先立たれた夫の余命が短く、夫に先立たれた妻の余命が長いことがわかっています。人間同士の関係の場合は、性別による効果が大きいようです。


――ペット飼育高齢者と非飼育高齢者の比較で他にわかったことは?

我々は、ペット飼育がもたらす健康効果の検証を始める前に、ペット飼育者の特徴を明らかにしております。その結果、ペットを飼育する高齢者は、下肢機能が高く、歩行運動量が多いこと、近隣住民との関係性が深く、近隣への信頼感が高いといった、身体的・社会的な特徴を把握しています。


――研究結果は今後どう活かしていく?

高齢化の進展に伴い、我が国の介護費は過去最多を更新し続け、10兆7783億円に膨らんでいます。高齢者本人ため、そして高齢者を支える社会全体のためにも介護予防は必須であり、その手段として介護予防に効果が期待できるプログラム(運動や栄養)が開発されています。これまでの研究成果から、ペットの飼育も十分に効果が期待できる介護予防の取り組みになると考えております。

高齢者がペットを飼育するためには、環境面や金銭面での整備が必要です。私は、高齢者と(里親を募集している)ペットをマッチングし、高齢者でも安心してペットを飼える環境を構築したいと考えております。


――高齢者がペットを飼うと、病気などで飼育できなくなる可能性もあるが…

ご指摘の不安事項から、行政は高齢者のペット飼育に後ろ向きです。現在、飼い主の健康状態が変化した場合でも人もペットも受け入れ先が確保できる環境の整備や、法的な整備の検討にも関与することで、高齢者でもペットを飼育し続けられる環境づくりを進めております。

また、欧米ではペットの飼育割合が50%を超える国もあり、年齢に関係なくペットを飼育できているケースもあるため、来年度は海外での研究生活を開始する予定であり、そこで学びを得る計画です。



高齢者がペットを飼育することは、身体的・社会的にプラスに働いているようだ。ただ、飼育者が亡くなりペットの飼育が難しくなってしまうケースもある。そのようなマイナス面をカバーできるよう、行政には、高齢者がペットを飼育する環境づくりを進めてもらいたい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。