政府は、新型コロナの感染症法上の位置づけについて5月8日から、現在の「2類」相当から季節性インフルエンザと同等の「5類」に移行する方針で準備を進めている。山陰両県の介護・医療の現場からは対応をめぐって懸念の声も上がっている。
クラスターが発生し、今も対応に追われている島根・出雲市の高齢者施設の現状を取材した。

限界寸前の介護現場

1月31日に出雲市の特別養護老人ホーム「いなさ園」で撮影された映像には、「陽性者」と書かれた紙が貼られた扉が映っている。ここでは、新型コロナの感染拡大を防ぐための「ゾーニング」が行われていた。

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「いなさ園」の施設長・手銭宣裕さんは「限界に近い状況だと思う」と、介護現場の現状を語った。

施設では、1月下旬にクラスター(集団感染)が発生。いずれも症状は軽かったものの、高齢の入所者・職員あわせて14人が感染した。施設では、感染拡大を防ぐために食堂を閉鎖し、入所者はそれぞれの部屋で食事を取ることにしたが、配膳などの作業が増え、入所者にこれまで通り対応することが難しくなったという。

いなさ園・手銭宣裕施設長:
リハビリテーションなど、グループで集まるものは一切できない。お風呂も時間、人手が足りなくて、「清拭」という体を拭く対応に変えたりしている

この施設でクラスターが発生したのは2022年4月以来、2度目となる。感染対策を取りながら、介護などの対応にあたる大変さは身にしみているという。

世間と介護現場に“隔たり”は…

政府は5月に、新型コロナの感染症法上の位置づけを「5類」に移行することを決定。陽性者や濃厚接触者の行動制限がなくなるほか、マスクの着用も個人の判断に委ねられるなど、感染対策も緩和されることになるが…。

いなさ園・手銭宣裕施設長:
入所している人は、高齢で基礎疾患を持っている。オープンにして、施設内で以前のような面会はできない

法律上の扱いが変わったとしても、新型コロナによる重症化のリスクは変わらない。この施設では、面会の制限や施設内でのマスク着用などの感染対策を「5類」移行後も継続せざるを得ないと考えている。

「コロナはインフルエンザ並み」。そうした認識が広がれば、世間一般と介護の現場に隔たりが生まれることにならないか、手銭さんは危機感を抱く。

いなさ園・手銭宣裕施設長:
世の中が自由に行動しているのに、医療や福祉の関係者は相変わらず感染予防のための制限された生活が続く。これが続けば、より一層(医療・介護現場で)働く人がいなくなるのでは、社会を支える介護事業がだんだんとなくなるのではと危惧している

不透明な「5類」移行後の方針

懸念するのは意識の面だけではない。現在は、原則として公費負担となっている防護服などの備品や、職員が出勤前に行っている抗原検査など、感染リスクを抑えるために必要な費用が「5類」移行後どうなるのか、具体的な方針はまだ示されていない。

コロナ禍前の日常を取り戻す道のりの大きな転換点となる「5類」への移行。今も感染リスクとの戦いが続く介護・医療の最前線を支える、きめ細かな対応が政府には求められる。

(TSKさんいん中央テレビ)

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