テレビ愛媛「EBC Live News」で月~金の夕方にお送りしている「きょうの俳句」のコーナーでは、視聴者の皆さんから俳句を募集し毎月紹介している。2022年は前回より2,000句以上多い過去最多の6,603句が寄せられた。

この中から審査員が選ぶ2022年の「俳句大賞」を決めてもらった。

多く寄せられた“平和”についての投句

審査していただいているのは愛媛・松山市出身で現在、東京で活動する若手俳人のトップランナー・神野紗希さん。

橋本利恵アナウンサー:
まず今回の全体の講評をいただいてもいいですか

俳人・神野紗希さん:
去年は2月にウクライナ侵攻があって、世界へ目を向けたという人々の感覚があったかなと思うんですけど、投句の中でもウクライナのこと、平和のことについて考える投句が多かったなという印象です

この記事の画像(19枚)

ジュニア大賞に選ばれたのは、松山市・伊台小学校3年の松井風花さんの句、「カーテンの 先にそびえる 青あらし」

俳人・神野紗希さん:
(ポイントは)季語をたっぷりと捉えて迫力ある一句に仕上げてもらったところです。「青あらし」は夏の季語で青葉を渡ってくる強い風のことを青嵐(せいらん)っていうんですが、見えないものですよね。

俳人・神野紗希さん:
青嵐の風自体は見えないのに、ポイントは「そびえる」っていう言葉。そびえるってビルとか神殿とか、実際に見える物が堂々と立ってる感じですが、青嵐っていう風がまるで目の前でそびえてるかのように感じたという捉え方、感性がすばらしい作品でした

ーー受賞を聞いた時は?

ジュニア大賞・松井風花さん:
とにかくうれしかったです。

ーーどんな時にできた俳句?

ジュニア大賞・松井風花さん:
よく窓から公園を見るんですけど、公園に生えてる木に風が吹いて、カーテンの奥で吹いている風の存在感がすごく大きかったので、この句を書きました

現在、小学3年生、感性豊かな風花さんが今、俳句とともに夢中になっているのがカメラだ。

ーーカメラ撮影と俳句は?

ジュニア大賞・松井風花さん:
つながってる感じはします。風景から(俳句が)思い浮かぶような、そういう感じがします。
(これからも俳句を)頑張ります

「ヒマワリ」を通して平和を詠む…

年間大賞に選ばれたのは、愛媛・久万高原町の中村彰正さんの句、「撃て向日葵 種を平和の 弾として」

俳人・神野紗希さん:
こちらもウクライナ侵攻を受けて詠まれた句かなと思います。ヒマワリは(ウクライナの)国の花でもあるんですけど、そのヒマワリを通して、平和への思いを詠んでくださいました。

俳人・神野紗希さん:
ポイントとしては「撃て」と「弾」という言葉。これは戦争のイメージを強く想起させるんですけど、でも、何を弾として撃つのかといった時に「ヒマワリの種」を。しかも「平和の弾として撃つ」っていうので、戦争のイメージを言葉によって平和なものに昇華していく。そういう祈りの力を強く感じた作品でした

大賞を受賞した久万高原町の中村彰正さん(61)。30年ほど前に緑内障を発症した中村さん。徐々に目が見えなくなり、現在、視力はわずかに光を感じる程度しかない。

俳句大賞・中村彰正さん:
(パソコンのキーボードに)シールを貼っていて、AとVとRと、それを頼りに打っているんですが、音で読んでくれますので、打ち間違えたらわかるので

2021年、愛媛・久万高原町内の天体観測館を定年退職したあと、本格的に俳句を始め、俳句歴わずか1年半で見事、大賞を受賞した。

ニュースから感じた“違和感”を俳句に…

俳句大賞・中村彰正さん:
大変うれしかったんですけど、それ以上に本当にわたしでいいのかなっていう気持ちが強かったですね

受賞句の兼題となったヒマワリから連想したのはウクライナ。連日繰り返されるウクライナ侵攻のニュースを見ながら感じていた「違和感」を俳句に込めたそうだ。

俳句大賞・中村彰正さん:
特に報道だと、どちらがどちらを攻撃したとか、占領地が広がったとか、まるで戦争のゲームの実況を見ているようなニュースが多かったものですから、全体を平和にしていくにはどうするかということを、そういう視点で作りたいなと思って。実弾じゃなくて種を撃ち込んで、そこが平和になれば

中村さんにとって徐々に目が見えなくなっていく現実はつらく不安な日々だったが、俳句との出会いによって新たな目標が生まれたそうだ。

俳句大賞・中村彰正さん:
もしかしたら、もう少し経験を積めば目がよく見えないからこそ詠める俳句もあると思うので。そういうところももう少し勉強して伸ばしていけたらという野望はありますね

厳しい現実の中から見いだす希望。中村さんが詠んだ今回の句に通じる思いがあると神野さんは言う。

俳人・神野紗希さん:
言葉だからこそできるかもしれないこと、言葉に何か祈りを託すっていうことは、人間にとってすごく根本的な感情なのかなと思います

橋本利恵アナウンサー:
言葉に乗せることで、それがすごく厳しい現実の中での癒やしになるのかもしれないですね

俳人・神野紗希さん:
(ウクライナの)現地で苦しんでいる方はもちろんなんですけど、日本にいて、映像を見てショックを受ける方もたくさんいると思うんですね。

俳人・神野紗希さん:
俳句に詠むっていうことはメッセージを送るだけじゃなくて、自分の中で受け止める作業のひとつになるのかなと。今回、特にウクライナ侵攻を受けての作品を詠んでいて、どれもこの句だけでなくて、どの作品にも今を生きている人の心が表れているなということを実感しました

このほか、松山市長賞などの賞も決定している。受賞者と受賞作品はテレビ愛媛のウェブサイトに掲載されている。

(テレビ愛媛)

テレビ愛媛
テレビ愛媛

愛媛の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。