「人生100年時代」という言葉を目にして、あなたはワクワクするだろうか?それとも、どんよりするだろうか?

ライフシフト・ジャパンの調査では、「どんより派」のほうが多いことが分かった。同社は昨年8月、全国の20代~70代の男女5000人を対象に、「人生100年時代に関するマインドと、その要因を探る」調査を行い、結果を12月7日に公表した。

この調査で「『人生100年時代』と聞いて、あなたはどう感じますか?」と質問したところ、「ワクワク派(「ワクワクする」「どちらかというとワクワクする」の合計)」は38.8%、「どんより派(「どんよりする」「どちらかというとどんよりする」の合計)」は61.2%と、「どんより派」が大きく上回る結果となった。

「人生100年時代」のイメージ(提供:ライフシフト・ジャパン)
「人生100年時代」のイメージ(提供:ライフシフト・ジャパン)
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「ワクワク派」のコメントは「人生を長く楽しめる」「いろいろなことに挑戦できる」「技術の進歩や明るい未来に期待」「退職後の自由な時間が長い」「健康寿命が延びる」「子ども、孫の成長を見届けられる」などがあり、ライフシフト・ジャパンは「人生の長さを前向きにとらえ、楽しもうとする意欲が感じられる」と分析している。

一方、「どんより派」のコメントは「健康寿命は短い」「年金、老後資金が不安」「長生きしたくない」「社会、環境、紛争…未来に期待できない」「長く働くことが苦痛」「生きがいがない、孤独」などで、「様々な不安が語られた」としている。

年代別にみると、40代の「ワクワク派」が最も少なく34.3%。その後、徐々に「ワクワク派」の割合は増え、70代では52.4%が「ワクワク派」となり「どんより派」を上回った。

最も「ワクワク度」が低いのは40代(提供:ライフシフト・ジャパン)
最も「ワクワク度」が低いのは40代(提供:ライフシフト・ジャパン)

男女別では、男性よりも女性の「ワクワク派」が少なく、特に40代女性の「ワクワク派」が27.2%と最も少ない結果となった。

男性よりも女性の「ワクワク派」が少ない(提供:ライフシフト・ジャパン)
男性よりも女性の「ワクワク派」が少ない(提供:ライフシフト・ジャパン)
40代女性の「ワクワク派」は最も少ない(提供:ライフシフト・ジャパン)
40代女性の「ワクワク派」は最も少ない(提供:ライフシフト・ジャパン)

今回の調査では、年代別にみたときの結果がとくに興味深い。40代の「ワクワク派」が最も少なく、その後、徐々に「ワクワク派」が増えていくのは、なぜなのか? また、「人生100年時代」にワクワクするためには、どうすればいいのか?

ライフシフト・ジャパンの担当者に“「人生100年時代」にワクワクするための心構えと備え”を聞いた。

「人生100年時代」を前向きにとらえることは簡単ではない

――このような調査を行った理由は?

日本は、世界に先駆けて、長寿化が進んでいます。長寿は、医療の進歩、健康意識の高まり等によって、もたらされた「恩恵」のはずですが、実際にはこれまでのライフデザインが通用せず、変化も激しいことから、戸惑っている人も多いのではないでしょうか。

ライフシフト・ジャパンは、そうした“課題感”を持ち、ひとりでも多くの人が「人生100年時代」をワクワク楽しく生きていける社会を作りたいというミッションを掲げて、ライフデザインを支援するワークショップや企業研修などを展開しています。

では、実際にどのぐらいの人が「人生100年時代」にワクワクする意識を持っているのか、その現在の地点を確認するとともに、どんな行動をすることがワクワク感の向上につながるのかを探るために、今回の調査を行いました。


――「人生100年時代」にワクワクする人よりも、どんよりする人のほうが多いという結果、どのように受け止めている?

私たちの“課題感”通りの結果となりました。「人生100年時代」を恩恵として受け止め、前向きにとらえることは簡単ではないという現実が、浮かび上がりました。

特に「どんより派」のコメントをみてみると、その理由は、健康寿命や年金・老後資金などの経済的な不安にとどまらず、働くことや生きることそのものへのネガティブな意識、政治不信、地球温暖化や地域紛争、孤独や高齢者の尊厳など、複雑多岐にわたっており、解決の難しさを感じています。

一方で、「ワクワク派」も一定数みられ、そのコメントからは人生を前向きにとらえるヒントも浮かび上がっており、注目しています。

40代は様々な不安が重なる

――40代の「ワクワク派」が最も少ない。この理由として考えられることは?

年代別にコメントを分析してみると、40代は様々な不安が重なり、「疲れた」「しんどい」「もう十分」といった人生そのものに対する否定的なコメントが多数みられました。

中間管理職としての仕事の重圧、教育費や住宅ローンなど経済的な負担の増加、体力や知力の低下の兆し、孤独の影、厳しい雇用環境の影響も伺えます。

以下は「40代のコメント」の例です。

・年金は減らされ、定年過ぎても働かなければ生活が成り立たないのに、楽しいと思う方がどうかしている(40代・男性)
・今の給料が変わらないのに、物価だけ、どんどん上がっているので(40代・男性)
・今、人生を楽しいと思っていない(40代・女性)
・今の仕事も体力仕事に近いので、いつまでも続けられるとも思えず、不安(40代・女性)
・家族がいないから(40代・男性)


――50代以上になると、ワクワク派が増えるのはなぜ?


40代は様々な不安が重なり合っていますが、50代になると、経済的にも精神的にも余裕が生まれ、定年後や子育て後の自由な時間を楽しみにするコメントが増えてきます。

以下は「50代のコメント」の例です。

・一生懸命働いたので、今後は旅行やゴルフをしたりして楽しみたい(50代・女性)
・引退後の自由な時間を夢見て、いま仕事を一生懸命に頑張り、趣味の時間には人脈を広げている(50代・男性)

イメージ(学ぶシニア)
イメージ(学ぶシニア)

また、60代、70代になると、想像していた以上に自身も健康であり、社会も変化し、前向きに人生を楽しんでいるというコメントがみられます。

漠然とした不安がなくなり、実体験をベースに、「これからの人生をもっと楽しみたい」という意欲が芽生えるようです。

以下は「60代、70代のコメント」の例です。

・ある程度、自由になる時間とお金があり、好奇心と健康も維持。制約される人間関係もなく、パートナーとの関係も友人関係も良好。不安より期待度が高い(60代・男性)
・元気な高齢者の就労機会のために、企業が定年延長や再雇用制度の拡充に力を入れるようになってきているから(60代・男性)
・今、74歳ですが、健康でまだまだ新しいこともできるので(70代・女性)


――男女別で見ると、男性よりも女性のワクワク派が少なく、特に40代女性のワクワク派は最も少ない。どのような理由が考えられる?


男女のワクワク派の比率の違いを考察するうえで参考となるのが、役職別・年収別のデータ(非公開)です。

これを見ると、役職が高いほうが、また、年収が高いほうが「ワクワク派」が多いという結果が出ています。現在の日本社会では、女性の管理職の比率が低く、また、年収の格差もあります。このことが女性の「ワクワク派」が少ないことにつながっていると言えるのではないでしょうか。

特に40代女性は雇用環境も厳しく、また仕事も子育ても忙しく負担が大きくなっています。さらに介護職の現場で働く女性や介護を身近で経験しているケースも多く、そのことが老いへの不安を募らせている可能性も考えられます。

以下は「40代女性のコメント」の例です。

・正規社員になれず、昇給もボーナスもない現状で、貯金ができないので、まともに暮らしていけるのか不安
・健康寿命を長くしたいが、日々の運動など、対策をする余裕がない
・介護士をしていたので、認知症になって長生きしても、本人も家族もつらそう
・祖父母を介護する母を見ていて、大変そうで、私は子どもに迷惑をかけたくない

今が充実している人ほど「人生100年時代」にもワクワクしている

――「人生100年時代」にワクワクするためには、どうすればいい?

まず、注目すべきは、「今の人生が充実している人ほど、人生100年時代にもワクワクしている」というデータです。

現在の人生が充実している人ほど、「人生100年時代」にもワクワクしている(提供:ライフシフト・ジャパン)
現在の人生が充実している人ほど、「人生100年時代」にもワクワクしている(提供:ライフシフト・ジャパン)

今の人生が楽しいからこそ、できるだけ、その時間を長くしたいと考えるのは、当然のことでしょう。

中には「今は辛くても、定年までの辛抱だ」と思う人もいるかもしれませんが、「人生100年時代」は長く働き続ける時代です。65歳で定年を迎えても、その後、35年も人生が続くのです。

楽しく働ける仕事を見つけること、あるいは仕事を楽しむことが、人生を楽しむことに結びつくと言えるでしょう。

次に、「備え」についてです。調査では、人生100年時代を楽しむために必要な備えとして、「計画的な貯蓄」と「健康・体力づくり」が上位に挙げられていました。

100年時代に備えて必要だと思うことは「計画的な貯蓄」と「健康・体力づくり」(提供:ライフシフト・ジャパン)
100年時代に備えて必要だと思うことは「計画的な貯蓄」と「健康・体力づくり」(提供:ライフシフト・ジャパン)

そして、確かにこうした備えをしている人は、平均よりもワクワク度が高くなっています。

けれども、こうした「計画的な貯蓄」「健康・体力づくり」をしている人よりも、よりよい生き方(ウェルビーイング)につながる「自己探究」や、リスキリングなど「学び」に関する活動を実践している人のほうが、ワクワク度が高いことが明らかになっています。

貯蓄や健康対策よりも、自己探究や学びがワクワク度を高める(提供:ライフシフト・ジャパン)
貯蓄や健康対策よりも、自己探究や学びがワクワク度を高める(提供:ライフシフト・ジャパン)

具体的には、「これからのライフデザインについての専門家への相談」をしている人のワクワク度が最も高く、73.5%。

以下、「移住や二拠点居住など、勤務地に縛られない暮らし方の探索」(68.8%)、「新しい知識や技術を身に付けるためのリスキリング」(68.7%)、「現在の仕事に関連した内容・テーマについての学習」(65.0%)、「心の豊かさ・幸福度向上のための継続的な活動」(64.5%)、「自分らしさを自覚するための内省の時間の創出」(63.4%)と続きます。

人生100年時代のイメージ(提供:ライフシフト・ジャパン)
人生100年時代のイメージ(提供:ライフシフト・ジャパン)

「人生100年時代」は確実にやってくる未来ですが、変化が激しく、これまでのライフデザインが通用しない時代でもあります。

自らがロールモデルとなって、自分らしい生き方を探究していくことが大切です。そして、よりよい人生を生きていこうと前向きに取り組むことこそが、「人生100年時代」をワクワク生きていくことにつながっていくのです。

また、「人生100年時代」は、長く働く時代です。

そして、そのためには「学び続ける」「変わり続ける」ことが大切です。今あるスキルや、これまでの経験だけでは、社会の変化、自分自身の価値観の変化に対応できないからです。

そういう意味で、「学び」に関する活動をしている人の「ワクワク度」が高いことも、うなずけます。いくつになっても学び続けることは、「人生100年時代」をワクワク楽しく生きていく上で、欠かせない行動なのです。

なお、「特に備えとなる活動や行動をしていない」という人の「ワクワク度」は22%と大変、低くなっています。立派なことである必要はありません。小さな行動でよいのです。何かしらの行動を起こすことが、「人生100年時代」をワクワク楽しく生きていくことにつながっていきます。

実際にライフシフト・ジャパンのワークショップに参加した人は、90%がワクワクしています。

長寿化は世界の流れであり、課題でもあります。そのトップランナーが日本です。せっかくの長寿の恩恵を活かし、日本人が「世界のロールモデル」となっていくことを楽しめると、よいと思います。

イメージ(学ぶシニア)
イメージ(学ぶシニア)

約6割が“どんより”しているという「人生100年時代」。“わくわく”するためには、まず、「楽しく働ける仕事を見つけること」。そして、そのために「学び続ける」ことが大事ということだった。

小さな行動からでいいので、今から「人生100年時代」に備え、動き始めてみてはいかがだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。