天皇ご一家は28日、映画「Dr. コトー診療所」のチャリティー上映会を鑑賞された。

3年ぶりの映画鑑賞には、僻地医療に寄せる家族共通の思いと名俳優が感動と緊張で思い出せないほど「素晴らしい」愛子さまのご感想があった。

2022年最後の家族でのお出かけ

仕事納めの28日の夕方、両陛下と長女の愛子さまは東京・六本木の映画館に到着された。

上映会に到着された両陛下と愛子さま(2022年12月28日)
上映会に到着された両陛下と愛子さま(2022年12月28日)
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皇后さまと愛子さまはピンクベージュのジャケット、陛下も同系色のネクタイで色味を揃え、愛子さまの丸いファーのバッグからは今年最後の家族での特別なお出かけの雰囲気も伝わってきた。

柴咲コウさんと挨拶を交わされる両陛下と愛子さま
柴咲コウさんと挨拶を交わされる両陛下と愛子さま

主演の吉岡秀隆さん、柴咲コウさん、主人公のモデルとなった医師の瀬戸上健二郎さん夫妻が出迎え、ご一家は笑顔で挨拶を交わされた。お三方の親しみを込めた目元の表情からは、これまでに吉岡さんや柴咲さんの作品に接してこられたことが分かる。

「吉岡さんのフワッとした雰囲気はコトー先生にピッタリなんですね」

吉岡さんなどと劇場で並んで座り、上映開始を待つ間、愛子さまは隣の吉岡さんに自ら声をかけ、会話を弾ませられていた。

吉岡さんからDr.コトーのドラマを見たことがあるかどうかを尋ねられ、「1話だけ見たことがあります」と答えられたという。

2時間余りの上映が終わると、作品の余韻で場内はしばし静寂に包まれた。

その後、両陛下と愛子さまは観客と共に作品に拍手を送り、その後、別室で吉岡さんや瀬戸上医師などと懇談された。関係者によると、話が弾み、愛子さまも積極的に会話に加わられていたという。

吉岡さんはそのときの様子をこう振り返った。

「最初緊張していたんですが、色々お話ししているうちに浄化されるような不思議な感じでした」「愛子さまが『吉岡さんのフワッとした雰囲気はコトー先生にピッタリなんですね』と。さらにフワフワしてしまった」

誰も思い出せない愛子さまの「とても素晴らしい感想」

作品を見て頂き、言葉を交わしたことがいまだ信じられない様子で「生きているとこんなことって起こるんですね」と話した吉岡さん。

さらには愛子さまが述べられた感想についてこう語った。

「とても素晴らしい感想をおっしゃったんですが、緊張のあまり機能してなくて…」

中江功監督も、島民の結束力や医療の問題点など「全てに触れたすごくすてきな、今まで聞いたことのない、聞き惚れるような感想だった。表現も豊かで」なのに誰もきちんと覚えていないと明かした。

ドラマの世界で長年キャリアを積む吉岡さんや中江監督が絶賛し、でも緊張で思い出せないという愛子さまのご感想。

どんな豊かな表現で思いを伝えられたのか、残念ながら分からないままだったが、愛子さまが作品に意識を集中し、考えを深められていたことが分かる。

柴咲さんは「自分の作品の感想を直接伺える機会はなかなか無い。しかもそれが両陛下と愛子さまというのはとても貴重」「本当に嬉しい気持ちでいっぱいですし、何でしょうね。自然と優しい気持ちが湧いてくるような不思議な空間でした」と幸せそうな笑顔を浮かべていた。

両陛下は様々な立場の人たちから話を聞く懇談の機会をとても大切にされている。この日の懇談で、キャストも監督もご一家の優しさに包み込まれたようだ。

陛下と瀬戸上医師

瀬戸上医師は、離島で長年にわたって地域医療に貢献したとして、2017年に赤ひげ大賞を受賞した。

第5回「日本医師会 赤ひげ大賞」表彰式(2017年2月)
第5回「日本医師会 赤ひげ大賞」表彰式(2017年2月)

陛下は表彰式に出席し、瀬戸上さんと会っていて、式典でのおことばで、「使命感を持ってこのような困難な条件を乗り越え、それぞれの地域にとって無くてはならない存在として活躍されていると伺っており、そのたゆみない努力と取り組みに心から敬意を表します」と述べられていた。

瀬戸上医師と挨拶される陛下
瀬戸上医師と挨拶される陛下

陛下は今回「あの時お会いしましたね」と声をかけ、「大変でしたでしょう」と長年の苦労を労われたという。

瀬戸上医師は、陛下が覚えていてくださったことに感激し、「ご一家が離島や僻地の医療に非常に関心を持っていただいている。非常にありがたい」と話していた。

医師不足の離島医療は、全ての科の治療を一人の医師が請け負う「本物の総合診療」だ。

このことについて、愛子さまが「何が飛び込んでくるか分からない厳しさと喜び」や、支えるような社会を作っていく願いを言葉にされていたという。

瀬戸上医師は、「ドクターとして、どこまで出来るか、出来ないものをどう補っていくかに尽きる。僻地医療は面白いが、悲しむ人も居れば苦しむ人もいるところに難しさがある」とも伝えたそうだ。

愛子さまにとって、地域医療の現実やキャストの思いを直接聞き、理解を深める良い機会になったのではないだろうか。

変わったものと変わらないもの 地域医療へのまなざし

元側近から以前、「地道に貢献している方から話を聞きたいというお気持ちは強い」「離島や山間部のある場所を訪れると、僻地医療へのサポート体制があるかどうか、状況を知ろうとされていた」と聞いたことがある。

スイスで緊急ヘリを視察された陛下(2014年6月)
スイスで緊急ヘリを視察された陛下(2014年6月)

陛下は2014年、皇太子としてスイスを訪問された際には、山岳救助や市街地での救急搬送を担う民間のドクターヘリを視察し、設備について質問されていた。

©山田貴敏 ©2022映画「Dr.コトー診療所」製作委員会
©山田貴敏 ©2022映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

映画では、年月を経て島で変わったものと変わらなかったものが印象的に描かれていた。

 ©山田貴敏 ©2022映画「Dr.コトー診療所」製作委員会
 ©山田貴敏 ©2022映画「Dr.コトー診療所」製作委員会

2003年のドラマシリーズから19年。往診で使う自転車は電動になり、島を出た家族とはビデオ通話で会えるようになったが、診療所の構えや島民の結束力、命に向き合う真剣な思いは変わっていない。

僻地で安心して暮らすために欠かせない医療をどのように社会で支え、次の世代へと繋いでいくか。両陛下と愛子さまはこれからもまなざしを注いでいかれるだろう。

(執筆:フジテレビ社会部 宮内庁担当・解説委員 宮﨑千歳)

宮﨑千歳
宮﨑千歳

天皇皇后両陛下や皇族方が日々取り組まれる様々なご活動をより分かりやすく、現場で感じた交流の温かさもお伝えできるような発信を心がけています。
宮内庁クラブキャップ兼解説委員。1995年フジテレビジョン入社。報道局社会部で警視庁クラブなどを経て、2004年から宮内庁を担当。上皇ご夫妻のサイパン慰霊の旅、両陛下の英エリザベス女王国葬参列などに同行。皇室取材歴20年。2児の母。